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070.総てを探せ

 ――――まったく、つくづく変な魔道具に縁がある。


 まばゆい光に目を潰されながら、一人心の中で悪態をついた。

 足元に転がっていた謎の箱。キューブとでも呼べばいいのだろうか。

 四方八方どこから見ても漆黒とも言える黒々しい何か。それを拾った途端輝き出す白い光。直前に見えた大人二人の驚愕するような顔。そして発せられた王の叫び声。

 それだけで手にしたキューブがただならぬ物だと理解した。そしてどうしようもないことも。


 随分と変なものに愛されているスタンの人生だ。

 まさしくロザリオの二の舞い。言い訳をするなら王の御前でそんな変なものが転がっているとは思わないだろう。

 何一つわからない状況。だがここでパニックに陥っても事態を悪化させることはわかる。ならば冷静に周りが落ち着き次第状況を確認することが先決だ。

 光に包まれながら今後の方針を立てていると、ふと瞼の裏からでもわかる強い光がフッと収まるのを感じ取った。強い光ではなく普段浴びるような自然光の温かな感覚を取り戻してゆっくりと目を開ける。


「ここは……」


 まるで天国――――。

 ひと目見た光景に思わずそんな感動を第一に抱いた。

 目を開けた先に広がっていたのはついさっきまで居た王城……ではなく屋外だった。

 遥か遠くの地平線まで、永遠に続くと思われるほど遠い、何も無い平原。

 山もなく海もなく、太陽に照らされた黄金色に輝く草々が風に吹かれて靡いている。


 どうやらあの光に呑まれた俺は城ではないどこかへ飛ばされてしまったらしい。

 ざっと周りを見渡すも立っているのは俺一人。人の気配はない。あの場にいた他の人は巻き込まれなかったか、それとも別々の場所に飛ばされたか。心配事はたくさんある。けれど今は人のことより自分が先決だ。


「怪我は……うん、無いね」


 自分の身体を確かめるようにあちこちに触れてみるも怪我や異常は見受けられない。

 五体満足無傷でホッとしながらこれからのことを考える。

 とりあえず目標は城に帰ること。そのためにもここが何処か把握することが第一だ。


 目印や看板にあたるものは何も無い。ならば進んで探すのがいいだろう。ここは山じゃないから遭難して崖から落下する危険性はない。

 目印を探すのは決めたが……"前か後ろ"かが重要だ。

 ひたすら広がる平原。永遠に続きそうな平原だが、幸いにも俺の足元には街道とみられる一本の道が敷かれていた。

 最初は天国かとさえおもったが人の痕跡がある。どうやら現実の平原らしい。そういえばアスカリッド王国に向かう途中、こんな景色を見たかも知れない。

 わからないことばかりだが、街道があるのは重畳。方向感覚を失うことはない。ならば次の問題はどちらに向かうかだ。ここで立ち尽くしても何の情報も得られないと判断した俺は、特に迷うことなく自らの勘に従って沈みゆく太陽を 応用にゆっくりと歩みを進み始めた。



 ―――――――――――――――――

 ―――――――――――

 ―――――――



「スタン様!一体どこに行かれたのですか!?スタン様!!!」


 王城。王の待つ謁見の間。

 そこは一人の少女が叫ぶように声を上げながらまさしくパニックに陥っていた。

 美しいドレスを身に纏った黄金の髪の少女、エクレール。眩い収まってその場に居た筈の人物がいないことに気づいた彼女は半ば狂乱しながらその姿を探していた。


 一方で同じく一瞬で消えゆく姿を立ち会ったもう一人、赤いマントを背負ったこの国の王は、痕跡の一つすら残さずに消え去った現場を見つめながら考えに没頭する。


「あの魔道具はなんなんだ……誰も持ってきていない……誰かが転移させた?だがそんなことあり得るのか?幾重もの結界に守られたこの場所に?それとも魔道具自ら……?」

「王」

「それに黒い箱には見覚えがある……あれは建国当時、宝物庫の……。だがあれは誰も起動できなかったはずでは……」

「我が王!!」

「っ……!」


 一人小さく呟きながら現状を分析していた王は、叫ぶような呼びかけにより意識を取り戻す。

 声のした方へ目を向ければ怒りにも似た真剣な表情を向ける従者の姿が。


「王、現状分析は大切です。ですがそれよりもやるべきことが」

「あぁ……。そうだな。そうだった」


 従者に叱咤され意識を変えるように自らの頬を両手で叩く。

 軽快な音とそれに伴って広がる痛み。ザッと辺りを見渡してこの部屋には三人しか居ないこと、そして娘の駆け回っている姿を確認してこちらに来るよう呼びかける。


「お父様……スタン様が……」

「あぁ、わかっている。エクレールは学校に戻っていなさい」

「お父様!?でもっ……!」


 少女が何か言いたげな姿から目を逸らすよう、王はレイコへと目を向ける。


「レイコは小僧の捜索だ」

「かしこまりました」

「お父様!私も……私にもスタン様を探させてください!」

「ダメだ」

「お父様!!」


 目に涙をためた少女はとうに決壊し、ボロボロと雫を落としながら王に抗議する。

 しかし彼はそんな決死の訴えに首を振りながら、少女と目を合わせるようしゃがんでそっと肩に手を添える。


「エクレール、お前の身に何かあったらどうする。この国の第一王女なんだぞ。素人が出たところで二次遭難の可能性だってるんだ」

「…………」

「お前は戻って彼の友人たちに事情の説明と『大丈夫』だと伝えなさい。これは王として、父としての命令だ」

「…………はい」


 ドレスのスカートを握りながら、皺になることも厭わずに顔を伏せる姿に王の心はギュッと痛みをともなう。

 告げたことは全て本心。本当なら意思を尊重させたい。だが優先順位を間違えてはならないと心を鬼にして去っていくエクレールを見送る。


「……レイコ」

「はっ」


 広い室内に残った二人。

 エクレールが去ったことを確認した王は背後で跪いているレイコを見ることなく静かに告げる。


「私はこれから伝令に行く」

「はっ。私はどこへ捜索に参りましょう」

総て(すべて)だ。キミにはこれより全ての任と制限を解く。何が起こっても全て私が責任を取る。……総て(すべて)を探し、消えてしまった彼を1秒でも早く見つけ出せ」

「――――御意」


 たった二文字の了解の言葉。

 その言葉の後にフッと後方の気配が消え去ったのを感じ取り王は振り返る。

 そこは既に何者もいないただの絨毯。風や音の一つも立てずに消え去った最も信頼する従者が居た場所をジッと見つめ、青空が広がる窓に目を移す。


「…………無事でいてくれ」


 小さく呟くは誰にも届かない静かな祈り。

 誰も聞くこともない言葉を残した王は、王が王であることを示す赤いマントを翻して伝令へと伝えるべく足を急がせるのであった。

2024.12.24 修正

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― 新着の感想 ―
>>言い訳をするなら王の御前でそんな変なものが転がっているとは思わないだろう 絶対嘘だ。例えスラム街でも学校でも自分の家でも無警戒に拾ったに違いない。主人公の警戒心の無さは異常。同じミスを繰り返してい…
[一言] エクレールも彼らに出会って救われていたんですねえ。 しかし、誘拐犯の話をしちゃって大丈夫なのかな。なんか王家的にも問題になりそうな話のような気がするけど/w
[一言] やっぱり春野先生の各文章は面白い。 最後の最後でどんでん返し。こっちが本題。 第70部分達成おめでとうございます。
2022/09/01 00:15 退会済み
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