8
コツンカツンと真っ暗闇に数人の靴音が響いては消えていく。
ゆらりと闇を照らすランプが揺れ、カシャンと音をたてた。
「なにこの生き物」
目の前においてあるよくわからない生物を見て呟いた。
今いるここは殲滅隊の地下だ。
請け負う任務は基本不死者が現れた地区へ出向き殲滅するというものだが、その際地区へいくための移動は地上ではなく、地下を通っていくものらしい。
地下への階段を通り、扉を空けると真っ暗な地下通路に座り込む見たことのない生物、猫くらいの大きさで、真ん丸な体
その体は真っ黒、楽しそうに揺れる犬のような尻尾からはドロドロと黒い液体が滴り落ちており、フワフワな耳にはピンクのリボンが付いており、マジックペンで書いたような可愛らしい目と口の絵が描かれている。
「なんだこいつ……不死者の仲間か?」
そういって誠はその生物を睨んでいると
「そいつ"ハコビ"って名前らしい」
律がいう。律の方を見れば、彼は少し離れた場所に置かれている看板を指差していた。看板に近寄るとそこには
【その生物はハコビといい。皆様を目的地まで運ぶ役目を担っています。
ハコビに任務地区を言えば、連れていってくれます有効活用してください、また帰ってくる際はハコビの名前を呼べば来ます】
「ハコビ……」
「ォ縺ェ縺ォ縺ェ縺」
不死者特有の鳴き声をならしながらハコビはびょこびょこと短い足を世話しなく動かしてよって来る。
それに誠はぎょっとする
「やっぱこいつ不死者じゃねぇか!!」
「えー?でも害意はないみたいだよー?」
「わかんねぇだろ?!こいつがいつ俺らに危害を与えるかなんて!!」
そう誠は叫ぶが、そんな誠のことはスルーし、紡は警戒することなくハコビに近寄るとハコビの黒い頭を撫でる。ソレが嬉しいのかハコビの尻尾ははち切れんばかりに降られる
(か、かわいい……)
不死者はやっぱり好きではないが、まるで子犬のように駆け回るハコビのことは不覚にもかわいいと思ってしまった……と、ハコビがこちらを見て、近寄ってくる。
耶生の前までやってくると、まるで撫でろと言わんばかりにコロンとその場に寝転がった。
耶生はなんとなく、ハコビに触れ、撫でる。
黒い体は意外とゴワゴワしているが以外と手触りが良い、撫でているとスリッとハコビが頭を押し付けてくる。
(っ、かわいい…!)
なんだか負けたような気になったが可愛さの前では屈するしかなかった。
その光景を見て誠くんが吠える
「なに馴れ合ってんだよ!!!」
「…問題ないだろ。不死者を殲滅するために作られたような組織の地下通路でのうのうと生きてるうえ、あんな説明書きまで用意されてる。今まで人に害をなさなかった。だから生かされてる。それに蔦とか花だって抜かれてる」
「それでも安全って決まってねぇだろ!?」
「…そんなに嫌ってんなら、お前は徒歩でJ地区まで来い」
その言葉に誠はギリっと奥歯を噛み締める。
「……別に、使わねぇとは言ってねぇだろうが」
ハコビと律を睨みながら誠がいう。
一先ず、誠も一緒に来るらしいので耶生はまた喧嘩が始まらないウチにハコビとめを合わせるようにしゃがむ。
「ハコビ、J地区に連れてってくれる?」
「※帙莉縺サ」
ハコビがいうと同時に「にゃーん」という音が聞こえた瞬間、目の前が黒一色に埋まり。
「!」
特に何かに乗ったような感覚も、浮遊するような感覚も無く。
まるで瞬きでもするように、黒が消えた瞬間目の前に現れたので、先ほど居た場所ではない地下通路
辺りを見渡せば、Jと書かれた扉が見受けられた。どうやら本当にJ地区に来れたらしい。
「マジで一瞬だったな」
他の皆も来れたらしく、驚いているようだ。
「普通にここまでくれば2、3時間は掛かる。それを僅か数秒で到着、効率のいい時短システムだな」
「でも不死者は人を襲うもんだろ、なんでいうこと聞いてんだよアイツ」
「それは分かんないけど、そういう不死者もいるんじゃないかな?人に友好的な不死者とかも!」
紡が言う。その言葉に、誠は顔を顰め乍ら何かを考えるそぶりをしているが
「こんな所で駄弁ってたら時短の意味がなくなる。考えるのは後にしろ」
「っ、言われなくても分かってるわ!」
律の言葉に誠は切れ気味に返答しながらズカズカと扉の前に立つ。
扉といっても、ドアノブなどの取っては見られない。
ほぼ壁と変わらない、ただ、スキャナーのような物が設置されているだけだ。
(あの扉、どうやって開くんだろう?また押して開くのかな?)
首をかしげていると、誠は慣れた手つきでスキャナーに自分の端末をスキャンする。
その瞬間、ガゴンという音を立てて、どうやらスライド式だった扉が開かれる。
そして何の躊躇もなく、誠達は扉を通り抜ける。
耶生も慌てて後に続けばそこは普通の家の中のような場所だった。
「えっと、ここは?」
「扉の隠し家、見りゃわかんだろ」
「え、ええ……」
誠は開かれたままの扉を閉める。
見ればわかると言われたけど、ただの一軒家の中に見える……。
こんな所に扉を設置していいのだろうか?
「どうしたの?ヤヨちゃん、不思議そうな顔して」
「えっと、殲滅隊に繋がる扉をこんな普通の家の中に設置していいのかなって」
「もしかして、ヤヨちゃん養成学校通ってないの?」
「実はそうなの、知り合いに殲滅隊の人がいて」
「あー、そういうことね!
えっと普通の不死者ならいいけど夜縁の不死者は頭がいいから
扉を守るために壁とか防衛するものを作ってたら、ここに何かがあるんだなってバレちゃうから
逆にこういう一般的な民家とかに扉を隠してるんだって」
「そうなんだ」
「おい、行くぞ」
「あ、うん」
そうして民家を出て……目の前に広がった光景に絶句した。
「ここ……」
他の地区とは明らかに別世界
崩落した建物、ひび割れた大地、辺りに散乱するガラスや、建物の瓦礫
そして……腐敗や白骨化した死体の山
B地区なんて比べ物にならないほどの死体が乱雑に転がっていた。
「酷い…」
「復興が進んでねぇ地区なんざ、何所もこんな感じだ…J地区ならかれこれ60年以上はこのままだろ」
「60年以上……?60年以上もこのままなの…?」
「ああ、人が住めそうな土地が優先的に復興される。此処みたいな草の根一本も生えねぇような場所は後回しにされて行くんだよ」
「でも、いつかここも復興の手が回って……」
「復興作業何てされない」
そう耶生と誠の会話に入って来たのは律だ。
「どうして?」
「上はJの復興なんてする気はない
する気も無いのに不死者が繁殖しないように俺等を派遣して、派遣された奴の殆どが入り込んだ不死者に殺されてまた、死体だけが残る。無意味な無限ループ」
律が見た視線の先には、ボロボロで血まみれの殲滅隊の制服が地面に落ちていた。
「……分かんねぇだろ。復興してくれるかも知れねぇじゃん
今のお前の口ぶりだと、皆の死は無駄死にだとでも言いたげだけど、ンな事ねぇよ
皆復興を願って死ぬ気で戦ってんだ!」
誠が言うが、律は首を傾げる。
「……理解できないな、事実を言ってるだけだろ。何を熱くなってるんだ」
そういうと、誠の横をすり抜け一人で先を進もうとする。
「ちょっちょっ!待ってよ!どこ行くの!?」
「ばらけて不死者を探した方が効率いい、俺は一人で行く。不死者見つけたら連絡飛ばせ」
「で、でも危ないよ!?」
「問題ない」
「はっ、勝手にしろよ」
「マコト君!」
そう切れる誠と、本当に一人でずんずん進む律
この二人、間違いない!水と油だ!!どうしようと考えていると
「だ、大丈夫だよヤヨちゃん!僕がリッちゃんについてくから!」
そう言って紡が律を追いかける。残ったのは、耶生と誠
「あ、マコトく」
「ちっ、さっさと行くぞ」
「ぅ、はい」
頷いて耶生は誠に続いて歩き出す。
(どうしよう、早くもこのチーム不安でしかないんだけど……!!)
耶生はこれからの事を考え、頭痛を感じながら広いJ地区を回る…それにしてもここ
「腐臭ヤベェな、ここ」
誠も同じことを思っていたらしい。それに同意するように頷き、辺りを見渡す。やはりここも死体だらけだ。
「60年間雨風に晒され続けたんだもん……こうもなるよ。せめて埋葬してあげたいけど」
「無理だろ、東エリアだけでこの量なんだから。
それにその間に不死者にあったら俺等も此奴等の仲間入りする羽目になるんだ…んな悠長なこと言ってる暇ねぇよ」
「……そうだけ」
「そうだけど」そう言おうとして、言葉は止まる。
何処からともなく、何か扉を引く様な、キーッという金属がきしんだ音が響いたからだ。
「……」
耶生と誠は顔を合わせ、頷く。音の原因は風か…それとも
音を立てないように音の方へ行けば、そこはズタボロの教会
白い壁は茶色に変色しカビが大量に繁殖していた。
そして教会の扉が、少しだけ開いているのが見える。そっと気配を殺して扉に近づき、中を覗く……そこには
(女の子……?)
普通の女の子立っていた。
協会の中は汚れていて、見るに堪えないことになっていたが、少女はバラバラに割れ、殆ど壁だけとなったステンドグラスをじっと見つめている。
顔は此方からでは見えないが、異変は無いように見える。
もしかしたら、迷い込んだ……?いや、でもここは何十年も前からこうなってるらしいし。
この子は別にやせ細っている感じでもない。ということは…………この子は
「耶生!飛べッ!!!」
反射的に飛び上がれば少女が居た地面から真っすぐ耶生の居る場所までの地面が唐突に抉れる。
「l医逾」
振り返った少女の輪郭は酷く腐乱しており、顔は螺旋のように黒と赤の渦を巻いており、鎖骨部分には黒い花が咲いていて、どう見ても異常だった。
・・・・・
「りっちゃん!待ってよぉ!」
一方紡は律を追いかけて来ていた。
律は先程から辺りに転がる骨や、人間の一部だった物が散乱していることなどまるで気にせずズンズンと進む。
「早く狩って帰る、時間かけていいことはない」
「そ、それはそうだけどぉ」
何とか律に追いつきながら、紡は律の顔を横からチラッと見る。
律の顔は愛も変わらずの無表情
「ねぇ、りっちゃん。マコちゃんのこと…嫌い?」
「理解できない」
そう言葉を返され紡は「そっかぁ」と苦笑いする。
(多分りっちゃんはマコちゃんに何かされて嫌いになったと言うより、考えが分からないんだろうな、馬が合わないっていうか。
でも、それならまだ仲良くなれる可能性はあるよね!?
しせつちょーも言ってた!ソウゴリカイは仲良しの第一歩だって!つまり…一杯お話しさせればいいんだよね!)
戻ったらすぐに「仲良しワクワクお話し大会」を開こうと紡は一人心に決める。
と、その時、ジジっという機械音が腕から流れた。見れば端末が反応している。
〈東エリアに不死者が出た!現在交戦中!位置情報は送るから直ぐに来て〉
耶生のその言葉を最後にプツリと通信は切れ、代わりに位置情報が送られてくる。
紡と律は、すぐさまその場所へ向かった。
「はは、テメェが花咲きか」
「あ”ァ」
誠は不敵な笑みを浮かべ、刀を抜く。そして不死者目掛けて駆けだす。
不死者が背から出した黒い帯のような物が誠に迫る。
それを誠君は弾きながら間合いを詰め、一気に切りかかるが
「っ、マコト君!」
「っ!」
帯の先端が裂けて、光のような物が漏れる。
それを見た耶生は直ぐ叫べば、誠は横に身をよじる。
瞬間、通り過ぎて行った一筋の光、光が当たった場所を見れば避け焦げており
誠の頬も、僅かに焦げた跡が出来ている。誠は着地すると、焦げて血が滲んだ頬をグイッと拭う。
「なるほどな、コレが噂の異能ってやつか」
「大丈夫!?」
「余裕だわ、ンな事よりお前不死者の核何処にあったか分かったか?」
「さっきから探してるけどそれっぽいのは……」
「と、なれば服の中とかか」
「そんなことあるの?」
「普通はねぇな」
核は不死者の弱点だ。
だからこそ、少し触れるだけでも不死者はうめき声を発するし、非力な女子の張り手でも簡単に破裂してしまう。それくらい、核は弱いのだ。
そんな弱点を服で隠すなんてするだろうか?
そりゃ守ることは出来るだろうが、布が当たって痛いと思うのだが……ユラユラと揺れる不死者を見る。
矢張り、分からない。
「まぁ、やってたら分かんだろ。ヤヨイ、お前は後方支援、なんか気付いたら教えろ」
「わ、わかった!」
振り卸された帯をお互い反対に転がり躱すと直ぐに態勢を立て直す。
素早く飛んでくる帯が誠に当たる前に、素早く銃を発砲し可笑しな方向に飛んで行った光線は、誠の髪を僅かに焼く。
しかしそれを気に留める事無く、誠はただ真っすぐに不死者へ走ると再度不死者の間合いに潜り込み。
不死者の股下から、首にかけて、ズバリと切り上げる
「!」
その時、不死者の服が僅かに捲れる。
そこには真っ赤な目が一つ……長い髪に隠れるようにして存在する目玉…誠が斬った傷の、すぐ横にあった。
「マコト君!首筋!!」
「っ、首筋、だな!」
急所を外させた不死者は悲鳴の一つすら零すことなく誠を蹴りを飛ばすが誠は開いている左手で攻撃を受ける。
その際、鈍い音がし誠は顔を歪めたが右手に持っていた刀を逆手に持ち首筋目掛けて突き立てる。
「あ”ッァア、アア”ア”ぁ”ァァッッッ!?!」
不死者は掠れた悲鳴を上げ、そのまま、ぱたりと地面に倒れ込み「あ”ぁ」と小さなうめき声を上げ乍ら、不死者は地面をボロボロの指でひっかくだけで、もう何もしてくる気配はない。
「な、何とかなったね…」
ホッと息を吐いて、誠に近寄る。
誠は「おー」と曖昧な相槌を返した後、自身の刀に目を落として顔を顰める。
刀には、真っ黒な液体と共に、白い物が付いている。恐らく、ウジだろうか。
「帰ったらすぐ拭かねぇと」
舌打ちをする誠に苦笑いしていると。
「マコト君!!」
「!」
背後で、黒い物が蠢いた。
振り返ればそこには、帯が此方を向いていた。その帯の根元には……赤い目玉が一つ
「なっ」
目玉の付いた帯の中心には既に白い光が集まっていて。
(この距離じゃ逃げられない…!!)
思わず身構えると、どこからともなく現れた律が持っていた斧を横に凪ぐ。
驚くほど正確に振りぬかれた斧は、的確に目玉を切り飛ばす。
そして
「退いて退いて!!!」
ブンっと空からツヴァイハンダーを振り上げた紡が飛んできて、宙に舞った帯目掛けて振り落す。
振り落されたツヴァイハンダーは勢いよく地面に叩き付けられる。
物凄い音と共に地面の砂や石が巻き上げられ、罅が入り、ボコっと凹む。
それはまるでクレーターのようで。明かに尋常じゃない怪力を出した紡に耶生は思わず目を白黒させる。
「俺が帯切ったんだから、やる必要なかっただろ」
「止まれなかったんだもん!」
ぷくーっと頬を膨らませる紡に、少し可愛いと思ってしまったが
彼等の足元に出来ているクレーターを見て、何とも言えない感情が渦巻く……と、律が此方を向く。
「不死者は核を複数持ってる個体が居る」
「そ、そうなんだ。知らなかった……」
二つ核を持ってる不死者……いるんだ。
教えてくれなかった善を恨む。
「死亡確認はとれ」
「うぐっ、はい……助けてくれてありがとう、ツムグ君も」
「いいよ!それに試験の時も助けてくれたしね!!!」
そこで今ままで静かだった誠がプルプルと震えながら、ズカズカと二人に近寄ると軈て、何かが爆発したようにビシッと二人…特に律を指さし叫ぶ。
「タイミングよくやって来てイイ所持ってってんじゃねぇよ!いっとくがなァ、俺が不死者潰したんだからな!?いい気になんじゃねぇぞ!?」
「………」
そう怒鳴るマコト君に耶生たちは無言で、ジトッとした目を向ける、そして
(子供だ……)
恐らく耶生たちの心は殆どマッチしていたのではないだろうか。
お互いに顔を合わせ、コクンと頷くと、くるりと誠に背を向け歩き出す。
「ふぅ、疲れたー!早く帰って次の任務まで皆でアイスでも買って食べない?」
「アイス!?賛成賛成!!あ、それと僕皆とお話ししたいな!好きな色とか食べ物とか!」
「いいねぇ、律くんはなにする」
「任務くるまで部屋で寝る」
「えぇ、話そうよ!ね?」
「っ、テメェ等無視してんじゃねぇっ!!!」
そんな声が背後から聞こえてくるが、脳内はアイスで一杯だ。
「マコト君は放っておいて早く行こう行こう!」
「アイス!!」
「だから勝手に行こうとすんな!!!」
こうして初任務は無事、幕を閉じたのだった。
キーと、門が開く音が響く。
門を開けたのは、黒髪を編み込み、巫女装束を身に纏った少女だ。彼女は門を開け、俯いていた顔を僅かに上げる。
「あら、凄い人の数ね」
彼女は思わず声を上げる。その声に気づいたらしいこの地区の男が彼女に気さくに声をかける。
「凄いなアンタ、一人でその門を開けるとは殲滅隊の人かい?ここは初めてかな?よけりゃ俺が案内して」
「してやるよ」と続く筈だった男の言葉は紡がれること無く切れる。
少女の掌が男の顔を掴んだ瞬間、まるで赤子の首をひねる様にいとも簡単に千切れたからだ。
シンと先ほどまで活気にあふれた地区の住民は時が止まったように静まり返る。
ドボドボと男の首から血が大量に噴き出し、体は糸が切れた人形のように地面に倒れる。
同時に彼女の裾から小さな蛇の大群がワラワラと出てくると男の死体に群がり、あっという前に蛇に呑まれて行く。少女は温度の無い瞳で男の体を食いちぎっていく蛇達を見つめ、ポイっと持っていた頭部を放り投げる。
「触らないでくれるかしら?」
彼女は蛇が付いた死体を蹴る。
蹴り上げられた死体は一度バウンドして近くの家の壁にぶつかる。人間とは思えない所業に水を打ったように静まり返っていた住人達の時が動き出したかのように悲鳴が巻き起こる。
空気を揺らす悲鳴の大合唱に彼女は鬱陶しそうに顔を顰めた。
「あんまり気乗りはしないんだけど謂われちゃったもの、仕方がないわよね」
クスリと笑みを浮かべると彼女は細い指を識者のように回す。
すると死体に群がっていた蛇が彼女の白い指先に操られるかのように今度は一斉に住民に襲い掛かった。悲鳴を上げる間もなく、住民たちの口や目に入り込む蛇たちは、内側から肉を食い破り骨を砕く。
「さてと、除去を始めましょうか」
”紅い瞳”をもった彼女はペロリと頬に付いた血を舐めて嗤った。