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夜の帳が消えるまで  作者: 世界の中心で愛を叫ぶ系雑草なムシキ
咲イタ犬蓼
8/11

7

D地区、武器の工房や殲滅隊の養成学校、殲滅隊の試験会場の館などが立ち並ぶ殲滅隊活動のための地区だ。

そんなD地区に耶生は来ていた。

どうやら殲滅隊本拠地は秘隠されているらしい。

其の為試験会場に向かうにはこの箱に入らないといけないそうで。

そこには前はなかった大きな箱が一つ設置されていた。


「えっと、この箱の中に入ればいいんだよね」


中に入るとそこには「ここにカードを入れてください」と書かれた機会があったので、言われた通り配布されていたカードを挿入する。

すると「にゃー」という音と共に、がたりと動き、目の前が真っ暗になる。

しかしすぐに視界が開ける。

降りるとそこは普通の地区と大差ない場所であった。

地区外と思ってしまうほど野原の生えた土地、上を見上げれば空には鉄格子ではなく壁と同じく蓋をされており、鳥かごというより箱に近い。


(あれ、球体照明かな)


そのかわり、天井からは丸い灯がいくつも吊り下げられているので暗くはないが。

他の地区に比べるとどうも味毛が無い。

基地である建物はそこまで大きくはない、その辺の家より二周りくらいの大きさで円柱状だ。

灰色の壁には門と同じく蔦や葉、ヒイラギの模様が掘られている。

側面部には外階段が大量に設置されている。

そしてどうやら隣の大きな洋館と繋がっているのか廊下が伸びている。

説明によれば、新入隊員はここに集合するように言われていたが

一人だと、少しだけ入りにくい。

それでも入らないと始まらないので、鞄の紐を握りしめ思い切って中に入る。


中に入ればだだっ広い空間が広がっていて、大きな舞台が設置されていた。

その様は、学校の体育館を彷彿とさせる。舞台の横には階段があり、3階まで行ける仕組みらしい。

一階のホールには既に大量の人が集まっていた。

皆制服ではなく、私と同じ私服である、その為恐らく全員今回合格した各部隊の新隊員だろう。

時計の針は12時50分を指している。あと10分で集合時間だ。それまで耶生は時間を潰す。

そうして針は13時を指す。

と、後ろの扉がバタンと音を立てて閉まる。

外からは遅刻でもしたのだろうか、扉を叩く音が微かに響き「なんで突然しまったんだよ」といったような声が聞こえてくるが、扉が再び開くことはない。

代わりに舞台にパッと照明が当たり黒の長外套をはためかせた男が舞台に上がる。


「新兵諸君、こんにちは」


男はマイクを通して声を発する。その声に耶生以外の新入隊員の背筋が伸び緊迫した空気が流れるのが分かる。


(皆緊張してる?この人は誰なのだろ…)


そう首をかしげていると、誰かがボソッと「あれが、殲滅隊のトップ…」と呟いたのが聞こえる。


(あの人が、トップ…)


改めて男を見る。

彼が発するオーラは特に重苦しいものでもなく、プレッシャーのような物も感じられない。浮かべる表情も朗らかだ。白髪交じりの黒髪に、紺色の目…年齢は60歳くらいだろう。


「私の名は浅葱朔嗣(あさぎさくし)

一応ここの総統を任されているものだ。

まず諸君、ここに集った君達を私は心から歓迎しよう。

さて、諸君らがここにいるのは分かっているだろうが不死者を殲滅させるためだ。

何処の部隊にいようとも、その事実は変らず、同時に命を落とす可能性のある場所だ。初日に時間一つ守れぬなど論外だ」


目は耶生たちを見て行っているが、その言葉は間違いなく扉の外に居る人たちに向けられているのだろう。


「我々がこの世界に生まれ、今ここにいるのはただの幸運か?いいや違う!

今までの先代が代々頭を捻り、力を研ぎ澄まし、必死に命を繋いだからこそある現実だ!

その過程で生まれてしまった犠牲者の思いが作り上げた未来だ!

託された以上、我々は彼らの覚悟を継ぐ”責任”があるのだ!!」


そこで彼は一呼吸ため、再び空気を吸う。

ごくりと誰かが固唾をのむ。それが耶生自身だったのか、はたまた他の誰かだったのかは分からない。

しかし誰もが彼の次の言葉に必死に耳を傾ける。


「愛する家族、友人、恋人、先祖、そしてこれから生まれてくる子孫、全ての人類の未来のためにその身を尽くすのだ!

さぁ諸君!共に憎き不死者共を殲滅し、朝を取り戻そう!!!」


朔嗣が両手を広げて声高らかに宣言を行う。

その姿はまさに圧巻であり、気迫を感じるもので、同時に不思議と彼の言葉には力があり、鼓舞されるように体が熱くなる。

それはどうやら周囲の彼等もそうだったらしい。

一瞬静まり返った後に爆発したような歓声が上がる。

鳴りやまない拍手喝采の音が、建物全体に響き渡る。

強い熱気、これがカリスマ性というものなのだろう。

朔嗣はくるりと身を翻すとそのまま舞台裏へと去っていく。

そうして代わりに出て来たのは、試験監督をしていた千歳

彼女は、熱気冷めやらぬと言った様子で興奮する彼らを前にハウリングを態と起こす。

それにより、キーンッという高い音が響き、空気がピタリと止まり、音が止む。それを確認してから千歳は口を開く。


「それでは副隊長の皆様は新入隊員を連れて寮へ移動してください」


そう言われ新入隊員たちはゾロゾロと移動を始める。

自分もどこかに移動するべきなのだろうけど何所へ行けばいいのか分からず辺りを見ていると


「戦闘部隊のやつ、付いてこい!」


そんな男の声が響く。声のした方に人波を掻き分けて向かえば、見慣れた顔が。


「マコト君!」

「あ?ああ、お前か」


そこには同じく鞄を持った誠が居た。


「よかった、マコト君もちゃんと来てたんだ」

「来てるに決まってるだろ、馬鹿かお前」

「あの!」


耶生が誠と話していれば少し大きな声と同時にトントンと肩を叩かれる。振り返れば試験であった男の子がいた。


「君、あの時の」

「先日はほんっとうにありがとうございました!!!ぼ、僕もう無理だって、思って…!」


あの時の事を思い出したのか、鼻を啜りながら彼はお礼を述べる。


「けっ、また泣いてる、泣き虫かよ」

「短気なお兄さんもアリガトウ!!」

「誰が短気だ!!誰が!」


キレる誠に耶生は苦笑いして男の子に向き直る。


「私は神無月耶生、貴方は?」

「僕は筑波紡!」

「ツムグ君ね、これから同期として宜しくね」


耶生が手を差し出すと紡は驚いた顔をして、耶生の顔と手を交互に見た後ギュッと手を握る。


「うん!よろしくヤヨちゃん!」

「え、やよ?」

「渾名!」


そう言って嬉しそうに笑うので、耶生は「まぁいいか」と納得する。


「で、君は?」


ずっと黙り込み、無表情の少年に目を向ける。

乱雑に斬られた黒髪に黄色い目、顔のには一本横に傷が入っている。少年は耶生の声に反応し僅かに此方を見る。


勅使河原(てしがわら)律」

「えっと、リツ君?」

「ん」

「私は」

「神無月」

「あ、うん」


名前を名乗る前に先に言われてしまう。

その後、興味はないとでも言いたげに律は違う方向をぼんやりと眺める。


「雑談は終わったか?」


そこで第三者の声が頭上から降って来る。

声のする方を見ると、そこには不機嫌そうな青年が立っていた。


(この人が……戦闘部隊の副隊長?)


背が高く、綺麗な銀色の髪に整った顔を持つ青年。

しかしその目の色は_____紅


”人型の不死者は勿論いるよ。ていうか夜縁の連中はほぼ全員人型

ぱっと見は人か不死者か判断付かないね…でも大丈夫、幻覚系とかの能力でもない限り赤目は誤魔化せないから”


その目を見て、善の言葉が脳裏をよぎり無意識のうちに警戒を滲ませ

次の瞬間、ガッと耶生は大きな手に顔を掴まれていた。


「っ!?」

「人の顔ジロジロ見てんじゃねぇぞ。見せもんじゃねぇ…テメェ等もな」


男は舌打ちを一つすると耶生の顔から手を離し、背を向ける。


「寮に行く、付いてこい」


それだけ言って歩き出す。

耶生たちは少し戸惑いながらも彼の後に続いて歩き出す。

基地を出て向かった先は、この基地と繋がっている大きな館、渡り廊下を通って館へ入る。

館の中は、試験で利用した館と近い作りとなっていて。

しかし通路は細くはなく、普通の幅だ。勿論、血の跡や大きな傷なども無い。


「あっちはお前等一般隊員は立ち入り禁止だ。

収集が掛かった時しか入れねぇ仕様になってるからチョロチョロするなよ」


そう釘を刺され、首を縦に振る。

二階に上がると表記があり【東棟、戦闘部隊寮・西棟、支援部隊寮】と書かれていた。

東棟に入るとそこには沢山の部屋に繋がる扉が並んでいる。

部屋の一番奥へ向かうと、雰囲気の違う開けた場所に出る目の前には一つの扉

他の扉は茶色に何の模様も書かれていなかったが、この扉は白色に蔦模様とアキレアの模様が掘られていた。副隊長はその扉を躊躇なく開ける。


「新人連れて来たぞ」

「お、きたきた」


副隊長に促されて中に入ると、そこには銀色の髪に紅目の……。


「え、副隊長がふたり!?」


副隊長そっくりの青年が椅子に腰かけてこちらを見ていた。

思わず副隊長と部屋の中に居る青年を見比べると全く同じ、これは所謂双子、という奴だろうか。

驚いたのは耶生だけじゃなく、誠や紡もだった。

紡に至っては「影分身!?どっちが本物!?」と叫んでいる。


「あはは、影分身じゃないよ、僕等は双子なんだ」


相変わらず不機嫌そうな顔をする副隊長とは違い、青年は人好きしそうな笑みを浮かべると椅子から立ち上がる。


「さて、改めて、僕は戦闘部隊で隊長をやっている雪村日向(ひなた)です、よろしくね?それでそっちが」

「副隊長の雪村日向(ひゅうが)、バリバリ働けよ新人共

あ、そうそうお前等4人しか居ねぇから、4人で1チームな」


扉に凭れ掛りながら自己紹介をしてくれた[[rb:日向 > ひゅうが]]だが、彼はいきなり私達を指さしてそういう。


「は?」

「チーム?」

「任務は危険だから、基本は複数人でチーム組んで任務に就く決まりなんだよ、特にお前等みたいな新人はな。まぁ、協調性も糞もねぇ単独の方が動きやすいとか抜かす馬鹿は単独で動いても構わねぇけどな」

「アレは皆の制服と武器ね。試験時に君達が使っていた武器をもとに製作された新品

なにか変えて欲しい要素とかあったら報告してくれたら変更してもらえるから」


そう言って日向(ひなた)が指さす机には、制服と武器、そして善が腕に付けていた腕輪があった。

銀色のリングの中心に青い宝石のような物がはめ込まれている。手に取ってみればずっしりと重い。


「はーい、ヒナさん!この腕輪なんですか!」


ピンっと腕を上げ紡が聞く。

日向(ひなた)は紡の渾名に驚いたのかキョトンとした後、小さく笑う。


「それはね通信機兼情報共有端末だよ。リングの側面に小さいボタンが付いてるでしょ?」


言われて確認すると、確かに小さい出っ張りが3つついている。

3つとも色が違い、黒っぽい色と白色っぽい色、そして青っぽい色に分かれている

「黒色のボタンを押してごらん」と言われたので、押すと青い宝石から青い光が出て、宙に画面が現れる

右上には耶生の名前が書かれていて。

右から任務、電話、メールというアイコンが出ている。

試しに宙に浮かぶ画面に触れると、触れた感覚はない物の、画面は反応する。


「任務が来たら連絡が入る様になってるから、連絡が来たら逐一見てね」

「一日平均2つか3つくらい任務入るが、場合によってはほぼフルタイムで働くこともある。休める時はマジで休んだほうが良いぞ、過労で倒れるからな」


善も殲滅隊はブラックだってよく言っていたな、と耶生は思い出す。

一日2、3こなら問題もなさそうだが、フルタイムは流石にきつそうだな。

過労でも人は死ぬらしいから、死因が過労死だけは嫌なので、休める時はしっかりと休んでおこうと心に誓う。


「電話とかメールの使い方は普通の携帯と同じ。因みにボタンさえ押せば声でも操作可能だから仲間と離れてる時に不死者とかと相対した時はそっちの機能使うのもありかな。

白色ボタンは速攻本部と連絡が付くようになってる。緊急事態の時はそっちを押してね」

「お前等面倒臭いからって任務とかバックれたりするなよ?規則違反起こして断罪部隊が動いても俺等は守ってやんねぇからな」

「最後に青ボタンだけど、押せば武器の出し入れが出来たりする」


青ボタンを押した瞬間、手に持っていた銃が吸い込まれるように宝石に消えていく。


「すごい……」

「殲滅隊を良く思わねぇ連中も一定数居るからな、厄介ごとに巻き込まれたく無けりゃ武器はしまっとけ、邪魔だし」

「さ、その手荷物も重いだろうし、お腹もすいてくる時間だからね。

部屋に行って荷物置いたらご飯食べておいで、一階の西棟に食堂があるから」


耶生たちは制服と武器を取り壁に掛けられている鍵を手に取って廊下へ出る。

耶生が取った鍵は【203号室】らしい。

部屋の番号を確認しながら歩く、そうして探していると【203】と書かれた部屋を見つける。


「ここか」


鍵をはめ、ぐるりと回すと簡単にロックが解除される。

中はポツンと一つベッドが設置されているだけで、他には何も置かれていない。

ベッドの上には窓が一つ用意されている。


「はぁぁぁ、ひっさびさのベット……」


ごろりと転がると柔らかい感触が背中に来る。


「あの布の山とは全然違う……幸せ」


そう呟き、ベッドの近くにある窓を見る。


「…星ないなぁ、真っ暗」


隅で黒塗りした様な世界が窓の外に広がっていて少し新鮮な感覚を抱く。

暫くボンヤリと窓の外を見ていると、トントンと扉が叩かれる。

ガチャリと扉を開けると、そこには誠が立っていた。


「アレ、マコト君だ…って制服に着替えたんだ」

「まぁ、いつ任務言い渡されるか分かんねぇし」

「あ、そっか」

「お前も着替えとけよ、後着替えたら飯食いに行くぞ」

「え?」

「チーム組むことになっちまったんだ、ある程度お互いの事は知っといたほうがいざという時連携取りやすいだろーが」


「分かったらさっさと着替えろ」と言われ、扉を閉められる。

耶生は急いで、ベッドに置いてある着替えに手を付ける。シンプルな服装だ。

茶色の隊服にベルト、スカートとタイツ、ブーツだ。


「この制服……可愛い」


隊服の袖には金色で線が入っていて、首元には花の刺繍が入っている。

スカートにも、裾の方に金の糸で可愛らしい刺繡がされている可愛らしい隊服だ。

誠や善の制服には金の線は入っていたが、ここまでお洒落にも見えなかったし、男女でデザインが少し違うのかもしれない。袖を通し、服を着替える。最後にブーツを履き、外に出る。


「おまたせ」

「んなに待ってねぇよ、行くぞ」


誠は階段の方へと向かう。

確か食堂は一階の西棟だと聞いていたので、西棟に向かうと直ぐに人の賑わう音が聞こえる。

覗き込めば、案の定そこは食堂で人が沢山いた。

中に入ると、席を取っておいてくれた紡と律が居たわけ、なのだが。


(なんかすごい食べてる…!!)


紡の前には空にあった皿が既に大量に置かれていた。


「あ、ヤヨちゃんとマコちゃん来た!」

「マコちゃんいうな」

「そっちのカウンターでご飯貰えるから貰っておいでよ!凄くおいしいよ!」

「無視してんじゃねぇぞクソチビ!」

「……」


紡にキレる誠だが”クソチビ”という度に律が微妙に反応している。

もしかしたら気にしているのかもしれない。律の方が少し紡より身長が低いから。

なんだか少し面白いなんて思いながら紡が指さしたカウンターに目をやれば、そこには恐らく支援部隊の人であろう女の人たちがせっせとご飯を作っておりトレーには既にいくつもの食事が並んでいる。


「おいしそう…!」


駆け寄って一つトレーを取ればいい匂いが鼻をくすぐる。

献立表を見れば、なめこと豆腐の味噌汁と鮭のムニエル、トマトと大根のサラダ、白米とメニューが掛かれていた。

誠の分もとって席に戻れば、未だに誠は紡に突っかかっていた。

其れに苦笑いしつつ、誠にトレーを差し出せば「ありがと」と小さく零してから大人しく席について食事を始める。耶生も腰を下ろして食事に手を付ける。

そうこうしている間に斜め前に座る紡は既に15人前を平らげていた。


「ねぇツムグ君、そんなに食べて大丈夫?」


紡はゴクンと口の中にあるモノを飲み込み、大きく頷く


「大丈夫!僕沢山食べないと倒れるからこのくらいなら余裕で食べれるよ!!」

「そ、そうなんだ」


一体その小さい体の何処に入っているんだろう。そんな疑問を抱えながらも、野菜に手を付けていると

ふと目の前に座っている誠がなめこをじっと見つめ……そっと紡に味噌汁のお椀を差し出す。


「これ、やるよ」

「え!?ほんと!」


誠のお椀を目を輝かせて受け取る紡


「あと、これも」

「やった!野菜すきなんだ!」

「なら全部くっていいぞ」

「わぁい!」

「ちょっ!駄目だよマコトくん!ちゃと食べないと栄養かたよっちゃう!」

「一食くらい偏ったって問題ないだろ」


そんな風にワイワイと話ながら食事をとる。


(大人数でこんな風にご飯食べるの久しぶりだな、なんだか)

「楽しいね、こういうの!皆でご飯囲ってさ、お話ししながら食べるの!!僕がいた”施設”はそういうことしてこなかったから」


そうけらっと笑う紡


(そっか、ここには施設出身の子も着てるのか…当然、といえば当然だよね。こんな世界だし)


耶生はごくりと味噌汁を飲んで頷く。


「そっかぁ、じゃぁこれから毎日みんなで食べようか!そっちの方が楽しいし、親睦も深まるだろうし!」

「まぁ、いいんじゃねぇの?」

「リツくんはどう?」

「……」

「いいってさ!」

「何も言って無くね……?」

「……これから毎日こんな風に食べれるの?」

「そうだよ!今日みたいに皆で喋りながら食べるの」


そういうと、紡の顔は見る見るうちに明るくなり。


「やったぁ!」


そう言って万歳しながら嬉しそうに笑う。その拍子に箸が吹飛び、誠の頭に突き刺さる。


「てめっ、箸投げてんじゃねぇよ!!」

「あ、マコちゃんごめん!」

「マコちゃんっていうな!」

「所でお前がいた地区ってどこだ?」

「N地区!」

「ああ、あの結構荒れてる所か」

「え、荒れてる?」


思わず聞き返す。


「地区によって荒れてる地区と安定してる地区があるんだよ。

Nは確か結構荒れてたはず、飯とかよく取り合いになるって聞くけど」

「んー、そうでもなかったよ?少なくとも僕たちは毎日ちゃんと食べれてたもん。

でも僕はお腹が直ぐすくから、よくつまみ食いして怒られちゃってたけど」

「どんだけ食い意地張ってんだよお前、つかN地区っていえばあのハゲが長やってるとこじゃねぇの?」


そう誠が聞けば紡は「そうだよ!良く知ってるね!」といえば誠は「俺も施設育ちだから、前にウチの施設にそいつ来たし」と答える。どうやら誠も施設育ちだったらしい。


「あの施設長、前に見た時なんかスゲェ怖い印象会ったんだけど…やっぱ怖ぇの?」

「怖いよ!つまみ食いがバレた時にしこたま怒られたもん!でもね、お説教中に月光が施設長の頭を照らして…っ!」

「やっぱ輝くんか?!」

「宝石より輝いてた!見たら笑いそうになるから顔を逸らすんだけど、ふと前を向いたら目の前に居て!」

「そ、それで?」

「口の中に入ってたお菓子噴き出しちゃって二倍で怒られたけど窓辺でお説教する施設長が悪いと思うって言ったら次からお説教するときに、微妙に窓があるか確認するようになったから、其れも面白かった!」


施設でのことを楽しそうに話す紡と、その話をこれまた楽しそうに聞く誠、淡々と食べる律

学校の友人たちと弁当を食べる時もこんな風に楽しみながら食べたという事を思い出す。

思い出すだけで、懐かしくて、同時に悲しくて寂しい、けれどいつまでもめそめそなんてしていられない。

悲しむのは全部終わった後でもできる。

自分はここで、この人たちと一緒にこれからも同じご飯を食べて一緒に不死者を殲滅する。

大切な友人たちや母さんを守れなかった分、自分は彼らを守って助けるんだ。

すると耶生の腕輪からジジっという音が響く。

耶生だけじゃない、他のメンバーの腕輪も成る。確認してみれば任務が入って来ていた。


「あ、さっそく任務来たな、てかあと30分後に出発かよ!」

「……任務」

「僕お代わりしてくるー」

「ツムグ君はほどほどにしとくんだよ」

「はーい」









「あ、もう時間だ」


時計を見て、耶生は言う。

耶生の言葉を聞いて、誠は律を起こしながら「なら行くか」と立ち上がる。

紡も食器を直して隣に並ぶ。

カツカツと足音を響かせ、任務地へ向かう為食堂を出て廊下を歩く。


「場所はJ地区の東エリア、目撃された不死者は花咲き一体だとさ」

(花咲き……異能を操る不死者!)

「んじゃまぁ、初任務、気合入れていくぞ」

「おー!!」


こうして耶生の初任務が、ついに始まる。

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