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「ヤヨイ」
私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
でも辺りは何も見えないほどの暗闇で、どこからかそんな声が聞こえる。
「ヤヨイ」
この声が、誰のものだったっけ。
「誰かのために動けるお前は本当に優しくていい子だな、父さんたちの誇りだ」
「ヤヨイのお母さんになれて本当に幸せよ」
ああ、そうだ、この声はお父さんとお母さんの声だ。
二人はいつも優しくて、私を愛してくれてて、だから私も二人が大好きで。
私に触れる少し、皺っとした手が好きで。
「誰かの役に立てる子になりなさいヤヨイ」
「人に迷惑を掛けたら駄目よヤヨイ」
わかってるよ
すると目の前が明るくなる。それは炎のような見た目に変化して。
「ヤヨイ」
燃えた二人の手が、私の顔に近づいて
「ご××ね、ヤ××」
「なに××お×××××わ×を願っ××」
...........
「起きろっつってんだろ!馬鹿面!!!」
「!?」
怒声が降って来て、耶生は驚いて跳ね起きた。
後頭部がずきりと痛み、頭を抱えてしまう、
少し唸りながら顔を上げると、黒髪に青い目をした同じ年くらいの少年が不機嫌を隠す様子もなく立っていた。
「えっと……ここは」
「試験会場の館」
「いや、それは分かってるけど……………あの、君は?」
そういうことを聞いてるわけではないんだけど、睨まれたので大人しく次の質問をすると少年は顔を顰めたまま「烏丸誠」と言う。
「お前は?」
「えっと、神無月耶生です…マコト君が私の事助けてくれたの?」
「マコト君………助けたっつか、邪魔だったんだよお前」
「え?」
「東エントランスの出入り口のど真ん中で馬鹿面晒して、不死者の死骸抱き枕にぐーすかぐーすか寝てたから、適当な部屋に退かしたんだよ」
「えっ」
不死者の最後の足掻きで気絶したのは分っていたけど、そんな事になっていたとは思って居らず思わず「嘘だ!」と叫ぶが直ぐに「噓じゃねぇよ!」と言い返される。
そりゃそうだ、そんな嘘ついたって彼に徳なんてない。それは分っているけど、色々と混乱してしまうのは許してほしい。
「つかお前、なんでこの試験受けたんだよ」
誠が聞いてくる。
「お前、寝てたんじゃなくてどうせ気絶でもしたんだろ。花無し如きで気絶してたら戦場に立ったってどうせすぐ死ぬ。
この試験が終わったらすぐ辞退しろ、いやなら他の部隊を受けることだな。お前じゃ戦闘部隊は無理だ」
指摘され顔を強張らせる。舞い上がっていたのだ、一週間前自分一人で不死者を殺せたことに。
だから油断したとはいえ一番弱いと言われる花無しに気絶させられた。あれが実際の戦闘なら、自分は死んでいたかもしれない。
”人の役に立てますか?”
半年前、善に聞いた言葉
戦闘部隊じゃなくても、他の部隊でもきっと人の役には立てる。
特にB地区のように、壊れた地区の復興を行う支援部隊なんかは特に人の役に立てる部隊と言える。それでも耶生が戦闘部隊を志願したのは……。
ウ”ゥゥゥゥゥ
「!」
そこでそんなサイレントが館中に響く。
なんだと顔を上げれば、どうやらこの部屋に付いた放送機器から音が出ていたらしい。
『試験終了15分前です。受験者の皆様は直ちに出入り口へお戻りください
15分を過ぎますと出入り口に鍵がかかります。取り残された方は失格者として扱いますので悪しからず』
「え、試験終了15分前って……私どれだけ寝てたの!?」
「今はどうでもいいだろ、んなこと、さっさとここでねぇと落とされる」
「………ねぇ、何か聞こえない?」
小さい音だが、先ほどから何か声のような物が聞こえるのだ。
其れに付いていえば誠はジッとこの部屋の扉を睨み付け。
「武器構えろ」
「え?」
次の瞬間、物凄い音と共に扉が周辺の壁ごと吹き飛ぶ。
崩れた壁の奥から出て来たのは、五体の不死者
それだけじゃない、耳をすませば、先ほどは聞こえなかったが大凡人間のモノとは思えないような引きづる音や、引っかく音、呻き声などがそこかしこからしてくる。
自分はさっきまで気絶していたから分からないが
明かに量が増えているように思える、あのアナウンスが”流れた瞬間”に。
「何かあるとは思ってたけど……」
「成程な、此奴等は俺らが出られないよう邪魔するためだけに一斉に投下された訳だ。
そりゃそうだわな、こんな簡単な試験のくせに合格者が毎年10人以下なわけねぇもんな」
でもどうしよう。ここがどこの部屋かは分からないけど、多分自分が気絶したエントランスの近くの部屋だとは思うから玄関は比較的近い。それでも此奴等を一々相手にしていればかなり時間を食ってしまう、それならやることは一つ
耶生は部屋に置かれた、椅子を片手で持ち上げると、そのまま一番目の前に居た不死者の目玉目掛けてぶん投げる。投げた椅子は一つだけの筈なのに、横から同じような椅子が飛んできて、同じ不死者の眼球に刺さる。
横を見れば、キョトンとした顔をした誠がいて、恐らく考えていることが被ったのだろう。
「お前頭は悪くないのな」
「まぁね」
相手どれば時間を食われる。それなら適当に流しつつ出口へ行くのがベストだ。
椅子で攻撃された不死者は死ぬことはなかったが、弱点を突かれただけあって絶叫し悶絶している。
その間に耶生達は他の不死者の横をすり抜けて部屋を出る。
「は?!」
耶生たちは目の前の光景に目を見張る。
予想はしていた通り物凄い量の不死者がエントランスに放たれていた。
しかしそれはどうでもいい、それより驚いたのは
「内装が…変わってる?」
内装が変わっているのだ。自分が最後に気絶したのはエントランス
恐らく誠が運んでくれたのはエントランスに繋がる部屋だろう。
しかし耶生の前にある部屋の内装は明らかにエントランスではない、極めつけは”下に下る階段”があること
誠が態々一階に居た自分を他の階に運ぶとは考えにくい。
「ちっ、15分でこの不死者共退かして出口探せってか?」
「試験内容がシビアすぎない…?」
「面白れぇじゃん、やってやるよ」
「>励縺ヲ闍」
「邪魔だ!」
襲い掛かる不死者を、持っていた刀でぶった切る誠、そのまま誠は不死者たちをバサバサと切り殺していく。
(なんていうか、迫力が凄い…)
耶生も近寄って来た不死者を躱して進む。
「階段は時間食う」
「なら一気に降りたほうが良い…ねっ」
階段を見れば不死者が集まっていた。
それならばと、手すりを掴み飛び降りる。
ここは3階だが下に居た不死者がクッションになって無傷で着地する。
「マコト君!そこ右!」
「あ?!なんで分るんだよ!」
「窓の景色、出入り口から見てほぼ正面に月があったの!」
「成程な、月は時間がたってもこの屋敷と違って動かねぇから」
月は動かない、ならその月を目印に部屋を割り出せばいい。
流石に出入り口までは変ってない……と思う、というか思いたい。
耶生は宙返りで不死者の攻撃を避け不死者の背を蹴って前へ進む。
「!」
途中、耶生は不死者たちの群れの中に人の足があるのが見えた。
そしてその足は…。
「なに突っ立ってんだ!」
誠に引っ張られる。
でも耶生は走りながら、それのことばかり考えていた。
足の持ち主は、首の骨が異常な方向に曲がって……死んでいた。
恐らく不死者の群れに踏みつぶされたのだ。重さは余りないらしいが、あの量に踏まれれば、死んでしまうに決まっている。
「……」
怖い、そう思った。
この試験は命の危険が少ない、それでもない訳ではない。
遅すぎるが、改めて再認識する。
「次は?!」
「……次も左!」
芽生えてしまった恐怖を押し殺す。
窓は踊り場にしかない見ながら走るしかない。
踊り場にある窓を見て先頭を走る誠君に指示を出しながら出入り口を目指してただひたすら走る。
『~~♪』
そこで放送機器から不協和音が流れ出す。
恐らくタイムリミットが近いから早くしろと急かしているのだろう。
その音は此方に不安や焦りを掻き立てるような音で凄く不快だ。
「あった!!!」
誠が叫ぶ。
見れば、あの玄関口に繋がる細い廊下
見た所その廊下はちゃんと出口と繋がっているらしく扉は開いていて扉の外には千歳が佇んでいるのが見える。そして見た所不死者もいないらしい。
(やった、これで合格だ!)
耶生は誠と一緒に出口へ向かい
「たすけてぇぇぇぇっ!!!!」
そんな大声が館内から響き、思わず足を止める。
「たすけてぇぇ!!!」
そんな声がずっと絶え間なく響く。
「た、助けなきゃ…」
「は?!」
口に出すと、目の前にいた誠が声を上げ耶生の肩を掴む。
「馬鹿か!?行ったって意味ねぇよ!!!どこの部屋も不死者まみれだ!どうせ辿りつけねぇ!!」
「っ、それでも!」
「それでもじゃねぇよ!!」
誠は説得しようと耶生の両肩を掴んで叫ぶが、脳裏には不死者たちに踏みつぶされた人の死体
同時に、ツクシや両親が死んだ時の事を思い出す。
未だに聞こえてくる助けを求める声
しかしその声は段々小さくなってきているのが分かる。この声が聞こえなくなってしまえば、助けられなくなる。
「離して!」
「っ、いいか!?これは試験だ!受かる奴が居れば落ちる奴もいる!
そもそも不死者と対峙する時点で、死ぬ可能性も視野に入れた状態で皆受けてんだよ!死んだってそれはソイツの実力不足だ!!」
「っ………」
誠のいうことは間違ってない。
不死者と戦う時点で、その危険性が限りなく低いからと言って絶対に大丈夫だとは限らない。
自分みたいに心のどこかで「大丈夫だろう」と安心しきっている、そんな甘い考えでは皆受けてないのだろう。少なくとも、誠はそうだ。
だからこそ、誠は馬鹿な事をしようとしている自分を止めようとしてくれているんだ。
「ああ……ヨイさんにも謝らないとかな」
「は?」
「マコトくんありがとう。でも私やっぱり見捨てられないんだ」
耶生は誠の手を振り払う。
「私が戦闘部隊を希望したのは、人の役に……一人でも多くに人を助けたいから。助けられる範囲に居るなら、私は助けたい」
「っ、おい!!」
耶生は声のするほうへ走り出した。
「やっぱ頭悪いだろアイツ」
取り残された、誠は耶生の消えて行った暗闇を睨む。
「…馬鹿らしい」
舌打ちをして誠は出口へ歩き出した。
...........
誠と分かれ、耶生はひたすら声のする方へ向かう。
声は小さくなりつつあるが、それでも耶生は何とか目的の部屋に到着することが出来た。
扉を蹴り破る勢いで開けるとそこには、一人の男の子
外に跳ねた髪に、水を落としたような色の瞳の少年
男の子が二体の丸っこい不死者に手足を持たれて引っ張られていた。
それこそ、引きちぎりそうな勢いで……それを男の子は必死に抵抗している。
直ぐに銃で引っ張っている不死者二体の眼球を打ち抜く。
男の子の夢中だったため存外簡単に殺せたことにホッとしつつ地面に落ちた男の子に駆け寄る。
「大丈夫!?」
大丈夫なはずがない。不死者の力は強いのだ。
そんな不死者に数分間手足を引っ張られ続けたのだ。
もしかしたら、筋が切れているかもしれない。
そう思って未だグッタリと地面に転がる男の子を抱き起すと前髪で見えなかった目がパッと開かれる。
水色の、くりくりした目が耶生と目が合った瞬間、ウルっと潤む、そして
「う、うぅぅ!!」
ボロボロと滝のように涙を流し出した。
「あり、ありがとうございましたぁぁぁあああ!!
武器途中で折れちゃってぇ!そしたら…死”ぬ”か”と”思”っ”た”ぁぁぁぁ!!!」
ワンワンと大きな声で泣く男の子
(不死者に引っ張られてたわりに、凄く元気…)
『残り一分』
アナウンスにハッとする。
そうだ、こんなことをしている時間はない。
「君、走れ__」
耶生の言葉は最後まで続かなかった。
何故なら、ガンッという音と共に天井が落ちて来たからだ。
後ろを振り返れば、蛇のような見た目の不死者が天井を破って降りて来たらしかった。
埃を振り払い銃を構え発砲するが俊敏な動きで躱される。
なんとか抜けようとするが、逃げの姿勢を見せた瞬間、長い尻尾で薙ぎ払おうとしてくる…逃げられない
(これは、もう受かりそうにないな)
残り一分、この男の子も走れるかどうかわからないし何よりこの不死者を一分という短い時間では撒くことも倒すことも出来そうにない
(試験に受かれなかったのは残念だけど、また後期リベンジして)
目の前に”黒”が宙に舞った。
不死者がのた打ち回り、絶叫する。
何が起こったのか、耶生にはわからなかった。
「間抜け、今すぐそのチビつかめ」
「ま、マコト君…なんで」
不死者の上を取り、その目玉に深々と刀を差す誠が居た。
蛇の不死者誠君の一撃により、死んだ。
しかし蛇の不死者が破壊した天井からドンドンと新たな不死者が降って来る。
「早くしろ、じゃねぇと死ぬぞ」
誠が取り出したのは……手榴弾
それを見た瞬間、耶生は男の子の腕を引いて走る。
背後でドンっという凄い爆発音が響くと同時に誠も煙の中から飛び出す。
今ので何体かの不死者は死んだだろう。それでも生き残っている不死者は居る。
黒い煙の中から不死者が這い出てくるのが分かる。
「時間がない、このまま突っ切るぞ」
「ひぇ、お、追って来てるよォぉぉ!!」
「気にせず走れ!」
「でもでも!」
目の前には扉、しかしその扉は少しずつ閉まり始めている。
「もう無理だぁ!」
「ちっ、さっきからうるせぇんだよ!」
「わぁぁぁ!?」
誠は男の子の横まで走って来ると、ガッと男の子を抱き上げ、そのまま扉目掛けてぶん投げる。
投げられた男の子はそのまま真っすぐ扉に目掛けて飛び、そのまま外へ
「お前等はもう一発喰らっとけ」
誠はもう一つ手榴弾を取り出すと、後ろに投げ不死者を爆撃する。
その間に耶生は何とか扉を抜ける。
「マコト君!早く!」
「っ、分かってる!」
扉は閉まりかけ。
「落ちるわけには、いかねぇんだよ!!」
誠はあろうことか刀をぶん投げる。
その刀はクルリクルリと回転し、扉に不格好な形で突き刺さる。
しかしその刀は扉のストッパーになる。
だが扉は閉まろうと、挟まった刀を圧し折る様に力が加えられ、ミシミシと音を立てる
「っ!」
そしてついに刀が割れ
「あっぶねぇ……」
誠は何とかギリギリ扉の隙間を抜け、外に出た。
つまり……合格だ。
「よ、よかったぁ…」
そう言ってバタンとその場に倒れる。
試験に受かれたことは勿論、誠が落ちなくてよかったと心の底から安堵する。
「情けねぇ奴」
誠が少し肩で息をしながらいう。
「あはは、なんか力抜けちゃって……助けてくれてありがとう、でもなんで助けてくれたの?」
「……なんとなく」
それだけ言うと誠はそっぽを向いて何処かに行ってしまう。
耶生は仰向けに倒れながら空を見上げる。夜風が肌を撫でて心地よい。
一時はどうなるかと思ったが、これで本当に殲滅隊に入隊できたんだ。
耶生は起き上がり、辺りをぐるりと見渡す。
あれだけ人が居たのに、この場に集まっているのは耶生とあの男の子と誠と…知らない男の子が一人……この四人だけだったらしい。そこでパンパンという拍手の音が響く。
「皆様お疲れ様でした。
試験に合格した皆さまには十日後から戦闘部隊で活躍していただきます。
それに当たって制服や靴の支給されます。
今から皆様の寸法をさせていただきます、では一人ずつ、此方に来てください」
...........
「やっと…帰って来た」
あの後寸法を終え何とかE地区に戻ってきた。
合格者のカードを受け取った耶生はしっかり電車を利用して帰ってこれた訳だ。
「あ、タイミングバッチリ」
「ヨイさん…」
「おかえりー」
キラキラと光る石階段を登ろうと足を掛けた所で、聞き覚えのある声が聞こえ弾かれたように顔を上げると善が立っていた。
いつも通りのヘラッとした笑みを浮かべ階段を下りてくると、耶生の顔を見て「髪の毛凄いボサボサじゃん、ウケる」なんて言いながら手櫛で髪を梳かしてくれる。
「まぁ何はともあれお疲れさん、まともに準備する期間も無かったのに其の中での合格、よく頑張ったじゃん」
「全部ヨイさんのせいなんですけどね」
「何のことだ、か」
「わ!?」
善はいとも簡単に耶生を抱え上げる。しかも姫抱きだ。
「ちょっ、はな、離してくれません!?」
「疲れてんでしょ、甘えときなさいな」
「いや、でもこのまま街歩くんですよね!?はず、恥ずかしいんですけど!!」
「大丈夫大丈夫、人にされてるって思わなけりゃ恥ずかしくないよ。ソフトクリームにでもされてるって思いな」
「なにそれ無理に決まってるじゃないですか!」
暴れるが最終的に善が笑顔で「投げるよ?」と言われたので大人しくして置いた。
そのまま耶生は家に戻ってきて漸く下ろされる。
「さ、ご飯作っておいてあげたから、さっさと食べて寝な。殲滅隊は寮住みだから新しい環境になるし
あそこはマジでブラックだから休めるうちに休んだほうが良いよ」
「は、はい……あの」
「ん?」
耶生は善の腕を掴んで引き留めると、頭を深く下げる。
「私が殲滅隊に入れたのも、今ここに居る事が出来たのも全部ヨイさんのおかげです……本当にお世話になりました」
「………なんか、気持ち悪いな」
「え」
いきなり何を言い出すんだと、耶生は善を見れば、善は何所か引いたような表情を浮かべる。
「君、そういう真面目な感じ似合わないから止めときな」
「それどういう意味ですか!?私学校では優等生何て言われてたんですよ?十分真面目が似合いますよ!」
「そういう所が似合わないんだよなぁ」
そう言って善は私の額を小突いた後、軽く頭を撫でる。
「まぁ入隊したら会うこともそうそうないと思うけど精々長生きしなね。ほーら、ご飯冷める前に食べな」
「はい!」
善がご飯を作ってくれることは初めてだった。
偏見だが、なんとなく善が作る料理と聞いた瞬間変な物が出てくるような気もしたが物凄くおいしい料理で、少し驚いた。出されたご飯は、かつ丼
「こういうのって試験前に食べるものなんじゃ」
「いいじゃん何でも」
「そうですけど」
人が作ったご飯を食べるのは久しぶりで、途中からかつ丼がしょっぱくなってしまったけど。
それでもかつ丼は温かくて、凄く美味しくて
「また、作ってくれますか?」
思わず、耶生は善に聞いた。
善は意外そうに目を丸くした後、笑みを浮かべる。
「いいよー、ヤヨイちゃんが頑張ってたらその時はヤヨイちゃんが食べたいもの作ってあげるよ」
「約束ですよ?」
そう言って耶生たちは、一つ約束を交わした」
_______その約束は、最後まで果たされることはなかった。