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八百万の神々はお怒りです! 四の神~バケガミ~

作者: おむすびころりん丸

『八百万の神々』

この世の森羅万象には神が宿るとされてます。それは大地や大海のみならず、作物や塵一つに至るまで。


ここに一人の神がおりました。その名をバケガミ様といいます。バケガミ様はお化けの神様。先祖代々続くバケガミ家の十代目で、最近当主となりました。

バケガミ様は市松人形のような幼い少女のような見た目。ですがその姿は血塗れで、片側の目は三百眼の極みをいく、白目剥き出しのおどろおどろしい瞳。そんな恐ろしい見た目のバケガミ様ですが、なにやらお化けの在り方にご不満です。


神の怒りは大地の怒り、神罰が下るその前に、怒りを鎮めてあげましょう。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦



「気に食わぬ。なぜ先祖代々お化けどもは人を驚かせねばならぬのじゃ。人を驚かせたところで何になる。褒美が貰えるわけでもなければ、ただただ恐れられ、やっかみがられる不毛な存在。この悪しき風習、必ずやわらわの代で変えてみせようぞ」


 開始早々不満を吐露するのはお化けの神であるバケガミ。バケガミは先祖の風習に不満を持っていた。褒美が欲しいとかそういう邪な思いで言っているのではない。慣例的に行っていることに、ただただ意味が欲しかったのだ。

 そんなバケガミだが、どうやらこの現状に対して無策ではない様子。果たして一体何をしようというのだろうか?



 場所は変わってここはバケガミ家の大広間。日本家屋を連想させる古風な佇まいだ。数多のお化け達が列をなし頭を垂れる中、こほんと一つ咳払いをした後に集まる衆へと質問を投げ掛ける。


「さてぬしらよ、ぬしらはなぜ人々を驚かす? 驚かした所で何を得るわけでもなかろう。まったく不毛で、まったく無意味だとは思わんか?」


 答えるはまげ頭の平吉というお化け。射抜かれた頭の矢が彼のトレードマークでありチャームポイント。その姿から分かるようにお化け歴も相応に長い。


「いや、バケガミ様よ。なぜかと言われてもあっしら人を驚かすのが仕事だろう? だからあっしらは人を驚かしてるんだ」


 平吉からはありきたりな答えが返ってくる。バケガミは大きく溜め息を吐くとちんまい手で頭を抱えた。


「だからなぜそれが仕事だと思っておる。その理由について考えたことはないのか?」

「んー、特にないなぁ。生きてる時もお化けは人を驚かすものだと思ってたし、死んだ後もやっぱりそうするべきかなってなんとなく続けていたけど……」

「馬鹿者め! なぜそのような悪しき風習に囚われる。我らも時代に合わせてその在り方を変えていかねばならぬのだ!」


 お化けといえども時代が変われば世代も変わる。新しき考えを持つ者だって出てくるのだ。とはいえ平吉のように長く成仏しない者も大勢いる為、人間のそれと比べると大いに時間は掛かるのだが。


「よって! これよりお化け達は人を驚かせることを禁ずる! 人々に好かれ、愛され、可愛がられる存在となるのだ!」


 声高々と改革を宣言する。賛同と称賛必至の名演説だが、存外皆の反応は微妙だ。平吉は皆の言いたいことを代表してバケガミに伝える。


「とはいってもよぉ……お化けは人とのコミュニケーションは禁じられているだろう?」


 そう、お化けは人と関わり合うことを禁じられている。関われば人の世が大いに狂ってしまうからだ。これについてはバケガミも心得ており肯定的だ。呻き声や独り言のようなコミュニケーションに該当しないものは許されているが、会話を試みることや親しくなることは固く禁じられている。

 仮に会話が許されたとして。例えばそう、ギャンブルが一番分かりやすいかもしれない。あなたはカジノでカードを使ったギャンブルをしたとして、あなたは自分の手札を見るだろう。そしてお化けは……相手の手札を見る。お分かりだろうか。お化けが人と接すればギャンブルに限らず、個人情報やらインサイダーやら、人間界は大きく乱れてしまうのだ。

 お化けはただ、そこに存在することのみが許されている。


「愚か者め。そんなことはわらわも重々承知じゃ。よってやることはただ一つ……」


 ごくり……



「可愛くなるのじゃ」



「え?」


「我らお化けは写真に写ることができよう。毎度毎度のごとくぬしらはその阿呆面をひっさげ人々を脅かしよる。それではダメじゃ。我らは愛されねばならぬ。お前達は厚塗りをし」

「盛る、ね」

「いと可笑し面をし」

「変顔、ね」

「人々のお化けへの印象を変えるのじゃ」

「だけどバケガミ様!」

「なんじゃ?」

「バケガミ様のお顔が一番怖いです!」

「黙れ! この血塗れの顔は長き年月でこびりつき、いくらが拭こうが取りようがないのじゃ! 仕方が無かろう!

 だが、此度のわらわは意気込みも違うぞ。見よ」


 するとバケガミは一つのビニール袋を取り出し、その中身を卓の上に広げていく。


 ざわざわざわざわ


「白粉などではないぞ。『ふぁんでぇしょん』やら『あいらいなぁ』やら、数多なる化粧道具を買ってきた。それに……」


 話をそこで一旦途切れさせると、何やら背を向け一人何かと格闘しはじめる。慣れない手付きでそれを装着すると、バケガミは再び皆の前へと振り返った。


「わらわの片眼も『からこん』とやらを使えばこの通りじゃ」


 おぉ!


「ふふふ、可愛かろう」


「これで我らは可愛くなり、お化け達は『すぅぱぁあいどる』となって人々の癒しとなるのじゃ!」



 こうしてバケガミのお化け改革は始まった。この噂は瞬く間にお化け達の間で広がり、人々を驚かすことを禁じられた。代わりにありとあらゆる化粧道具と衣装が用意され、お化け達は皆一様に可愛く彩り、着飾り、そして顔に自信の無い者は変顔を極め、人々の写真の中に写りこんだ。


 中にはかえってそれが怖いという人々も居はしたが、結果としてお化けに対する世間のイメージはガラリと変わる事となった。


「ふふふ、見たか間抜けな歴代当主達よ。わらわはお化けの負の『いめぇじ』を払拭し、新たな時代を築きあげた。いまやお化けを恐れる者はごく僅かの古き者達のみ。余計な思い込みが無い分、子供に至っては一人も恐れる者はおらん。世代が変われば誰一人としてお化けに恐怖する者はいなくなるだろう」


 野望を達成し悦に浸るバケガミ。そこへ一匹のお化けが慌てた様子でバケガミの下に訪れる。


「ば、バケガミ様ぁあああ!!!」

「ぬ、どうした? そんなに慌てよって」

「バケガミ様、やべぇよ、やべぇんだよ!」

「いいから落ち着くのじゃ! まったく要領を得ぬ。息を整え一から話せ」

「あのな、バケガミ様。おれぁ今日大変な所を見ちまったんだよ! 男二人が廃屋の中で話してたんだけどよ。よくよく聞いたら何か危ないブツのやり取りだったみてぇなんだ」

「何を驚く。お化けをやっていれば見ることもある光景であろう。人気の無い所にはお化けもいれば裏家業の者も集まる」

「ちげぇんだよ! バケガミ様! そんなブツのやり取りをしている所に男女のカップルがやって来ちまったんだよ! そして口封じの為に殺された!」

「それは不憫な……運が悪いとしか言えんな。して、場所はどこじゃ?」

「場所は○○県の山奥の廃旅館だよ」

「な、なんと! そこは呪われし旅館として誰も寄り付かぬ廃墟ではないか! なぜ『かっぷる』はそのような廃墟に……」


「バケガミ様ぁあああ! てぇへんだぁあああ!」

「なな、なんじゃ!? 次から次へと……」

「○○市の神社の横の坂道で、夜に女が暴漢に襲われるところを見ちまった! 可愛そうに、おれぁ何もしてやれなかったよ……」

「ななな、なんと! そこは冥府の坂道と呼ばれ、闇夜に通る者など皆無の道ではないか! なぜ女子はそのような道をわざわざ……」


 なぜ、なぜ人々はそのような場所に訪れた。人気のない所は犯罪も起きやすい。両者とも恐ろしい逸話がある場所だというのになぜ……



「あっ!」



 そうか、だから先祖代々バケガミ家は人を驚かし続けたのか。人を脅し、恐怖させ、危険な場所に寄り付かせぬように……

 前者は可愛いと噂のお化けを探しに行ったのだろう。後者は夜は使わない近道を通るようになったのだろう。

 わらわは馬鹿だった。そんな大事なことも知らずに人々からお化けへの恐怖心を奪い取った。先祖代々が築き上げた人々への警告を無に帰した。


「どうしましたバケガミ様?」


「阿呆! 貴様、何をそんな馬鹿げた化粧をしておるのじゃ! はがせはがせ! 可愛く写るのも今後一切禁止じゃ!

 太古から続くように、我らは人々を驚かせ、恐怖させるのじゃ!」


 お化け達を追い返したバケガミは、しんと静まり返る大広間に一人佇む。



 そして、血塗れた顔を……ゆっくりと……


 あなたの方へ……

 


「わらわは化け神。悪霊、亡霊、魑魅魍魎。それらの上に立つ神様じゃ。

 わらわを恐れよ! そして謂われのある場所には近づかぬことじゃ!」 

今回はお化けの神様『バケガミ様のお話』

ちょっと高飛車な神様ですが、好かれることを諦めて、嫌われてでも人々を守る。

そんな心優しい神様です。

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