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8月31日が来たら。  作者: 真岳仁緒
最終日、8月31日
3/9

vs『絶滅派』其の弐

それは真っ赤な嘘である。



人生で稀にある、何故か、こんな気がするという所謂“勘”のような物は、大事な所では使われない事が多い。

勘というものがあるとするならば、それを使う事があるとするならば、それはまだ、心の何処かで余裕があると感じている時だけだ。本当に切羽詰まった時、頼りになるのは変わることの無い不変の真理のみである。



いつだったか、そんな本を読んだ事があった俺としては、ここであの少女が思った通り、逃げるわけにはいかなかった。流石にこの状況で、出入り口から逃げ切れたのに、逃げなかったというとんでもないミスをしでかした暁には命の保証は出来ないと感じる。わからないけど。

というわけで、約10分程瓦礫に埋もれていた体を引っこ抜いた。

割と余裕があるスペースを選んだはずだが、思ったよりも狭く、見つからないようにするのに手一杯だった。覗き込まれなくて良かった。

さて、そんな勘を信じない俺としては、あたりに誰もいない事を念入りに確認してから、出入り口に近づいた。

透明な自動ドアは内側からも、当たり前だが外の景色は見えた。

ただ、開かなかっただけで。

「入るときは開いたんだけどな」

手で押すような物ではなく、センサーで反応するものだ。

少し上を見る。別にセンサーの電源が切れているわけではなく、薄暗く、微かに赤くランプが光っている。念の為、カチカチと、ついているスイッチを動かしたが、変化はなかった。

手動ならばと思ったが、それで開けば苦労はしない。

一応、俺が入った瞬間に電気系統が故障し、何らかの障害が生じたと、考えられなくも無いような気はするが、そんな可能性があり得るのならば、さっきの戦闘?で俺はとっくに息絶えていると思うのが当然だ。

わからないけど。

ちなみに、センサーは切れているようだが、タワーの中自体は明るかった。

人は……営業時間外では無いはずだが、全く見かけなかった。

先ほどの少女はノーカウントだとして、だ。

「やっぱり、駄目か」

一応、本の作者を弁明するわけでは無いのだが、俺が真っ先に出入り口に向かわないのには、外見と内見の違和感の他にも、あのスーツの女からある情報を聞かされたからだった。

曰く、空間認識を阻害する能力をもつ人がいると。

まだまだ、油断は出来ない。



これからの行動の最適解がわからない。

俺の当初の予定としては、早めにタワーの隠れられそうな場所を見つけ、ある男に遭遇するまで待つ。という手筈だったのに、いきなり敵に遭遇し、タワーには閉じ込められ、一段一段ビクビクしながら階段を上るとは思いもしなかった。幸いにもエレベーター、エスカレーター、階段という上る為のツールは全て無事だったので、階段で上る事にした。流石にここでエレベーターは誰であっても選ばないだろう。あ、三階についた。

とりあえず目指す先としては、どこでもいいからスタッフルームらしき場所に入る事だ。俺は今圧倒的に情報が不足している。そこで地図でもモニター室でも何でもいいから手に入れて、このタワーについて知らなければならない。そもそも俺は今日初めてこのタワーに入ったから尚更だ。もちろん、下の階であればあるほど新しい敵には会わない(というか会う前に逃げる)事が出来るので、一階、せめて二階くらいが良かったが、どちらも瓦礫に埋もれてたのだから仕方がない。万が一この先の階もずっとスタッフルームに入れなかったら、俺はあと42回(階)程階段を上らなきゃいけないが、まあとりあえず三階に無事につけて良かった。

と、とりあえず三階のフロアに足を踏み入れた直後に、現れた。



「ふふ、ふふふ。や、やあ。ようこそこのタワーへ。えーと、名前は忘れましたね。はは。あ、貴方は誰ですか?ああ、いえ、この瞳の色は……黒?さては貴方は、一般人?いえいえ、な、亡骸さんはしっかりと仕事を果たした……筈ですが、あれ?いや、違う?そうか、中立なら、あるいは、枯腐姉と繋がっている可能性はあるのかな?ふふ。まあいいでしょう。とにかく、僕は目の前にいるやつを引っ張って月並くんの所へ連れて行くだけ。そう。それだけ。落ち着く。落ち着いて。失敗はしたくないの……です」


こいつの言っている意味がわからない。亡骸?月並?何を言っている?

おまえは、違うだろう?

紫の瞳。冬でもないのにコートやマフラーを付けている服装。特徴的な話し方……は知らされていなかったが。

御魂鳳作。『絶滅派』の筈のこいつが、なぜ『破滅派』である亡骸つくりの話をしている_____!

まずい。これは本当にまずい。スーツの女が嘘を言った?いや、そこにメリットはない筈。となると、裏切り……?

わからない。わからない時に戦うのはまずい。

「ふふ。では、大人しくお縄にかかりなさいっ!真っ黒な目の人!」

ぐわぁっと手を広げ、こちらに思いっきり飛び込んできた。

当たり前だが戦闘スタイルを持たない、ましてや混乱中の俺にこいつと相対するのは不可能だ。

生身だったら。

胸元にあるポケットから拳銃を取り出す。

「な……!やめ……!」

躊躇は無しだ。

「 ___! っ!」

弾丸が、吸い込まれるように、相手の心臓へと伸びる。そう認識したのも一瞬で、次の瞬間には血を吹き出し、仰向けに倒れた。はずだった。

「ふふ。僕はそういう援助が嫌いだ」

現実は……俺が撃った相手は手のひらで弾丸を受け止めていた。まあ、わかっていたことだけど。いや、わからなかったことだ。

流石にここまで化け物だとは思わなかった。これ、本当にまずいんじゃないか?

「切り札は尽きたって感じだね。じゃあ、こ、このまま捕まって……うおぉ!」

と、ここで捕まる可能性もあったわけだが、流石に俺も対策をなにもしてないわけじゃない。ブシューと激しく音を上げながら、受け止めた筈の弾丸は煙を上げ始めた。

「なんだ、これ!ま、前髪えない!ち、違う。前だ。あいつは!どこ!」

混乱しているならなおさらいい。俺は撃った瞬間に踵を返して逃げる。当たり前だ。俺が戦うことができるなんて思うわけがない。そこまで甘くないことはわかっている。いや、今わかっただけで、さっきまではわからなかった。

とにかく、スーツの女からもらった目くらまし用拳銃は効いたようだ。

とは思いたいが、あいつの能力は気付きさえすれば煙幕なんて微塵も意味をなさない。あの銃だって、銃弾自体には、殺傷力はないが、それでも速さは普通の拳銃と変わらない筈だ。エアガン並みの威力はある筈。それなのに…

これは本格的に早く隠れなければ。

しかし、タワーというのは良くない。隠れる場所がない。

個室がなく、開けている。しかし。

「見つけた」

今日の俺はついている。

というか恵まれている。

街を歩いていたらたまたま味方が見つかり、タワーにはいって早々敵と出会い、また、すぐ敵に会う。

巡り合わせの能力。繋ぐ能力。

そんな能力を手に入れた記憶はない。

ない筈、である。わからない。

とにかく、あった。

スタッフルーム。

手早く近くの小さい瓦礫をどけ、扉に力を入れる。良かった。ここはまだ開くようだ。ギギと音が立ちながらも扉を開き、中に入る。

まずはバリケードだ。

近くにあった小物、机、椅子、さっき退けた瓦礫などなどを扉の前に積む。

気休めみたいなものだけど。ないよりはマシな筈だ。

さて、その間に武器を探さなくては。地図を探すのは一旦中止。

あの男をどうにかしなければ。

幸いにも中は入り組んだ通路で、ソコソコの広さもあった。

通路のあちこちに扉があり、それぞれに部屋があるようだった。こういうところに入るのは初めてだが、中はこんなに広いのか。それともここだけなのか?わからない。が、これならなんとかなるかもしれない。

「おっと、危ない。これは…鉄パイプか」

外に比べれば比較的綺麗だったが、それでもあちらこちらで壁は崩れ、中身がむき出しになっている。

「よっ………と」

出ていた鉄パイプを引き抜いた。

とりあえず武器は見つけた。後は地図だ。

「うん?本当に今日はついてるな。俺は」

床にほこりまみれの地図が落ちていた。拾ってほこりを払う。

「ああ、ここ、倉庫か」

近くにあった部屋にはガイドブックやタワーの内部図が大量に積まれていた。

「とにかくこれで……後は後ろだな」

これが一番の問題だ。正直、戦う手段はほとんどない。ここにきたのに気づかないようにするしかない。

隠れるしかない。

見つかったら、俺ごとき軽々潰されてしまうだろう。

どちらにしろ、正攻法じゃこの鉄パイプも意味がないからな。体を鍛えておけば良かったのか?わからないが。

「援助が嫌い……か」

それは全くその通りの言葉だった。

………大きな爆音がなる。

その能力は、たしかにそうだ。

………足音が聞こえる。

そんな奴に聞いてみるのも、悪くはないのだろうか。

………足音が止まる。


俺はなんのために、ここにいる?


全力のフルスイング。扉を開けて入ってきた瞬間の御魂豊作に鉄パイプを振るう。腹部に直撃する。

「が……はっ…………!」

脈絡は全くないが、ここで御魂がどんな能力を持っているかを俺なりに判断しよう。

能力はおそらく手助け禁止。生物に効くのかどうかはわからないが、とにかく、こいつに対しては生身以外のあらゆる攻撃は必ず防がれる。拳銃から放たれる弾丸からも。この部屋に侵入するのを防ぐ為に作ったバリケードも、言い換えれば、俺を守るために俺自身でないものが壁となっていても。

御魂にはそれが効かない。というか、効果がない。この行動をすると、決めた瞬間、自分自身がそれを止めない限り、必ずヒットする、俺みたいな奴からしたら、攻撃も防御も効かない、まさに最悪のカード。隠れていても、俺を守るためのそれらの道具は意味をなさない。

だが、穴はある。

盲点はある。死角はある。

その証拠に、煙幕は効いた。

弾丸が来ると思ったからそれが効かないようにした。これが結果。ただし、煙幕とは気づかなかったから、視界は開かなかった。これも結果だ。わからない事は山ほどあるが、わかる事がないわけじゃない。

すなわち、想像外をすれば良い。

まさか、相手も、隠れていると思っている人が、いきなり鉄パイプで殴るとは思わないだろう。

それが、盲点。それが死角。

これで、決着だ。

「ね。残念。発想は悪くなかった。というか、全く正しかった。唯一のミスがあるとするならば、それは僕が、僕自身がたまたま、扉の近くにむき出しになっている鉄パイプを見て、ああ、これで殴られるかもしれないな。も思ったから。だね。惜しいよ。惜しかった。あと、もう散歩ほど、三歩程、後ろに居たならば、当たっていたかもね。ふふ」

逆に俺の腹部に、鋭い痛みが走り、体が、後ろへ吹っ飛ぶ。防弾チョッキ2型も、全く効力をなさない。

というわけで、残念ながら、うまくいかなかった。まあ、こんなもんか。わからないけど。

「なぁ」

「んー?なんだい?僕としては大人しくこのまま、捕まってくれると嬉しいんだけど、抵抗、しちゃう?」

「いや、もう……いい」

もう疲れた。わからない。わからない事が多い。多すぎる。どうして俺がここにいるのか、なぜ、俺が選ばれた10人の中の一人なのか。

どうして、俺に幼い頃の記憶がないのか。どうして、俺の目は、こんなに赤いのか。わからない。わからない。

わから



『…………………ナキガラツクリハオウコトブキカラクサヒトミアクガミホウキマガクニオリセタチナシナキト……ツキナミシロウト』



耳がつんざくほどの、大音量の、誰かの声が、聞こえた。



ない。わからない。どうしてこのタイミングなのか。わからない………が

「なるほど、事情は理解した。お前が、『ミタマホウサク』だな」

わかった。全て理解した。記憶は、正常に機能し始めた。

「んんーーーそうだけどー、というか、今の放送はなんなんですかね?僕の今のボスは何をしてるんだか、あ、いや、そういうことか。君、目、赤いね。これはますます…連れて行かないと」

先程までの余裕を持った口ぶりから、いきなり、本気を出したように、こちらに一気に飛びかかってきた。

「さあ!早く!こちらにおいで!今なら、間に合う!」

こいつ風に言うならこうだな。

駆け寄ってきた御魂に手を当てる。

「さあ!」

「巡り合わせが嫌い………だ」

その瞬間。

あれだけ勢いのあった御魂の動きが止まった。

それは一瞬の事。

次の瞬間、御魂の体は壁を突き破り、スタッフルームの外を出て、通路を通過し、さらには、このタワーの自体の壁を破って、下へと飛んでいった。

「ふう」

持っていた鉄パイプを落とす。蹴られたはずなのに、無意識に強く握っていたらしい。

「わかった。まだわからないが、わかった」

スタッフルームの入り口の扉を目指す。目標は決まった。

月夜見翔人。こいつに、会わなければ。

「これだから……巡り合わせは嫌いだ」

扉を開ける。


俺は、なんでここにいるんだ?


それを聞くまで、俺は死ぬわけにはいかない。



vs御魂豊作『絶滅派』

戦闘内容:勝利

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