vs『絶滅派』其の壱
とにかく、戦争になったらしい。
いやまったく、どうしてこんな経緯になったのかまったくわからない。どうして俺がここにいるかすらもわからない。
どうやって生まれたのかも。
どうやって今まで暮らしてきたのかも。
わからない。わからない事がわからない。まったくもってわからない。
派閥の結果、らしい。
どうやら俺の立場は、中立、らしい。
なんの中立なのかはわからない。わからない事だらけだ。
考える事はやめた。そういうものだと、受け入れた。
*
というわけで今の自分の状況を整理してみよう。
5W1Hというらしい。
わかりやすいものから順に。
今現時点、日時は8月31日。時間はおおよそ午後10時45分。
場所はとある研究施設……名前は確か総合革命研究所………いや、多分違うのだろう。よく覚えていない。
ええと、後はそうそう何故、どうして、どんな経緯を持ってこんな状況になったのか。これがさっぱりわからないのだ。そしてもう一つ、何か忘れているような気もするが、別にいいだろう。物凄く重要な気もするが、きっとどうでもいい情報なんだろう。
ああ、そうだ。これで最初の話と繋がった。
どうやら、戦争になったらしい。
*
さて、もう少し具体的に今の状況を表すと俺は今、ついこの瞬間に目覚めたらしい。体を起こす。柔軟運動を軽くしながら、布団を丁寧に畳み、身だしなみを整える。今になっては対して必要のある行動とは言えないが、習慣はそうそう直らないらしい。
この研究施設は大体6つに分けられているらしく、今俺がいるこの棟は第3研究施設…らしい。
もちろん俺が一人だったら、こんな大層な研究施設にそもそも入れるはずもなく、俺の他にも後3人、どこかの研究施設にいる、らしい。
ちなみにこの人数配分だと、一人一棟分以上使える為、一棟ずつ、という配分になったらしい。戦争なんだから、敵に襲われる事も考慮して、同じ棟に居た方がいいんじゃないかという案があったような気もするが、否定された気がする。結局、就寝時のみ、それぞれの棟に分かれる、という意見で落ち着いた気がする。よく、覚えていない。
なんて事を考えたら、全員が普段集合しようと決めた棟……すなわち第7研究施設にたどり着いた。
隣の棟は近くていい。移動が楽だ。
*
「はい。というわけでおはようございます。というよりこんばんはですね」
出し抜けにそう言ったのはビシッとしたスーツ姿の女だった。
「全員が揃うのは初めてだと思うので、自己紹介だけさせてもらいますね。私は……もうあなたはご存知だとして、そちらの机に座っているのが秋髪箒さん。そしてあちらに立っているのが立梨鳴人さんです。私の後ろに控えているのが葉央一暉です。仲良くしましょうね」
お互いがお互いに軽い会釈をする。
もちろん、会釈をしたのは俺だけで、他の二人はこちらを少し見た後、視線を戻した。
「ああ、あなた以外は既に自己紹介は終えてますので、安心してください」
そうなのか。
コホン、とその女は咳払いをする。
「私たちは中立という立場です。目的を明確に表すと、私たちはこれから起きる、2つの派閥争いを止めるという事です。たったこれだけ。頑張りましょう」
というわけらしい。
「ああ、勘違いをしないで下さい。中立というのは立場上そうであるだけであって、私たちは2つの派閥両方を潰してもまったく構いません。私たちはこうしたいという思想を持たない選ばれた10人のうちの一人です。そしてこの二つの派閥の目的は、ゴールが違うだけであって、過程は同じ。どちらも自分たちのチーム以外の選ばれた10人をこの世から消す事。だから、思想を持たない私たちが固まる事で、最低限の被害だけは避けようという魂胆です。別にどちらの派閥についても構いませんが、私たち中立グループが守るべきルールは1つ。それはお互い戦わない事です。わかりましたね」
成る程。よくわかった。
「一応、顔合わせをしておく事で、誤解を招くという事態だけは避けられたので、これで一応、私がしたかったことは終わりました。後は自由にしてください。仮眠も充分にとれたでしょうからね。ちなみに、戦争は、この町の中心部に位置する阪竝タワーで行われるそうです。それでは、解散。また無事に、会えるといいですね」
と、真っ先に話し終えたスーツの女はこの部屋から出て行った。
同様に、後の二人も出て行った。
*
さて、これで再び一人になったわけだが、正直これからどうすればいいのかさっぱりわからない。ここは空気を読んで、さっき言っていたタワーに向かうべきなのか?
考えがまとまらない。
外に出てみるか。
近くの扉を開け、エレベーターを使って一階まで降り、受付口辺りに出る。
そのまま出口を見つけ、そこから出た。
当然かどうかはわからないが、もう俺の他の三人全て、俺の視界には写っていなかった。
外は当たり前だが、もう真っ暗で、消えかけの街灯が1つ、道路の隅にあった。人の気配は全くしない。ただ、暗い、道がどこまでも続いている。
今夜は月が見えないな。雲はないのに。星は見えるのに。
などと、わかりきった事を呟きながら、足は町の中心部へと向かっていた。なんだ。結局俺も、周りの流れに従う人間なのか、と思ったけれど。
俺が何をしたいかなんて最初に決めたんだった。
どうして俺はここにいるのか。
その答えが、俺が今最も望むもの。
俺も、自覚はないけれど、選ばれた10人のうちの一人なら。
あのタワーに行けば…何かがわかるのだろうか。
*
「誰だ?お前。いや、どいつだ?」
と、真上から声が聞こえた。
まさかタワーに入って数歩で誰かに遭遇するとは思わなかった。スーツの女はまるでまだ戦いが始まってないみたいな口ぶりをしていたが、タワーに入って驚いた。すでに一階部分は半分崩れかけていて、残りの支柱がかろうじてこのタワーを支えているように見えた。
なんだこれは。これは常識を、逸脱しすぎだ。こんな奴らのうちの一人なのか。俺は。
と、驚いてもないのにそんな感想を漏らした時、エンカウントした。
まるで小学生のような出で立ちに、真っ黒なTシャツを着ている少女。黄色に染まった瞳は、こちらを見つめている。
スーツの女が言うには、そいつの名前は鎌刃真終焉。選ばれた10人のうちの一人で、『絶滅派』所属だと言っていた……らしい。
*
「さて、もう一度聞く。お前、名前はなんだ。俺の中ではある程度目星はついているんだが、もしかしたらお前の事は相手にしなくてもいいかもしれねぇ。名前は、なんだ?」
はて、俺の存在を知ってるかもしれないと言う少女が現れた。それにしても、こんな奴が選ばれるとは……誰が、どのような基準で選んだのかは知らないが、これなら次は老人あたりが出てきてもおかしくはなさそうだ。
冗談をいうのはこれくらいにして。
現実と向き合おう。
はっきり言ってこれはまずい。
想定していた最悪の事態から三番目くらいに厄介だ。
「あー、俺が誰かわかったら、どうするつもりだ?」
とりあえず話してみよう。
「………………それを俺に言わせるか?」
そうだった。こいつらの目的は全員の殲滅。別に俺が中立だろうと何だろうと関係がないんだった。
じゃあ、そろそろ……いや、その前に。
「お前は……
「なんか言ったか?」
見ず知らずの奴に、こんな事を聞く意味はないとわかっている。これも。
「お前は、なんのためにそこにいるんだ?」
「…………はぁ?」
質問は終わった。やはり、自分の事は自分でなんとかしなきゃならないとわかった。
それをどうするかはわからないが。
「……はぁ、もういいや。とにかく、始めようぜ。時間は、あんまり、ない」
それはそっちの勝手だろう。俺に時間は関係ない。
思っていても、口には出さない。
それが俺のルール。わからない事があるうちは、俺は相手には、感情は見せない。
「わかった。いや、わからなかった。それでは……逃走を開始する」
「おう、ってええ⁉︎」
こいつと戦っても俺に勝ち目はない。そして勝とうとする為に無謀に挑む意味も見当たらない。そんな意味はわからない。という事で、こいつから逃げる事を開始する。
出入り口は諦めた。当たり前だ。半分も倒壊しかかったタワーが、外見からみて何も異常がないわけがない。つまりは、そういう事なんだろう。
「わからないけど」
とにかく、接触だけはまずい。幸いにも彼女は上の階にいたので、体を無理やり倒壊しかかった瓦礫にねじ込み、退却する。俺はパルクールには向いていないので、剥き出しになっている鉄骨に手をかけ足をかけ…とはいかないかった。ともかく、そうやって俺は、彼女の視界から外れ、この場から退却した。
気軽にタワーに入ってしまったが、どうやらとんでもない事態に巻き込まれてしまったらしい。
*
「まいったなぁ。まさかいきなり逃げるとは……まあ、ここから逃げ切る心配はないし、そのうち会えるだろ」
黒いTシャツの少女は崩れかかった瓦礫を見つめる。
「それにしても、バレねぇ……いや、バレないものですね。いや、これも違います。気づかれない。そうです。これです。体が小さくなるのは一長一短と言ったところですが、今回は長の方でしたね。まともに戦って負けるのは私の方だったと言うのに……まあ、それも仕方がありません」
ほっと、ため息をついた。
「それにしても……一体誰……?なんでしょう?既にこのビルには11人いるのに……いや、11人しか来れない筈なのに……。どうやって入って来れたのでしょう?ううん、今のところは保留にしましょう。一応、あの人に伝えておきますか」
そういって今来た道を戻るように暗闇の中に入っていった。
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vs環状豊花『絶滅派』
戦闘内容:逃走により不成立




