表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第二章 工業都市ボルドー
69/318

2-45 魔神と魔物の共同生活

 夕刻、アーリア商店での買い物を済ませダリアと別れた帰り道。


(──ッ!? ロウ! 無事かッ!?)


 雷撃で気を失っていた、世話焼きお兄さんことサルガスが復活を果たした。結構長いこと寝ていたが、大丈夫だろうか?


(俺の心配より自分の──って傷が、無い? それにここは、ボルドーか?)

(サルガス、ロウはもうセルケトを打ち倒して傷の治療も終えたのですよ。今は服を買い足した帰り道なのです)


 妹(?)のギルタブがざっくりと事情を説明する。あれから色々あったけど、要点を纏めたらなんてことは無いから不思議だ。


(……傷が治ってすぐに買い物に行ったのか? 少しは休めよ)

(私も同じことを考えましたが、ロウはマイペースですからね。サルガスが寝ている間も組合の受付嬢や商店の女性店員にチヤホヤされて、鼻の下を伸ばしていましたよ。腹に穴をあけられてからさほど時間も経っていないというのに)


 早速お小言頂戴しました。んなこと言っても泥やら血やら傷だらけだったし、服を買いに行くのも必要なことだったんだよ。


 ──あ、服といえば。セルケトの服も買わなきゃいけなかったのか。すっかり忘れていた。


((は? セルケトの服?))


 サラウンドな疑問符を受け、そういえば言ってなかったと思い出す。


「事後報告だけどセルケト捕獲しましたんでよろしく。あいつが魔物型から人型になって、俺にとっては殺す動機や正当性が無くなったからな」

(二度も殺し合った相手が、お前の都合を納得したのか? いや、捕獲なら無理やり拘束か)

「拘束というか、気絶してるところを異空間に放り込んだだけだな」


 情報共有していて気が付いたが、捕獲どころか拉致監禁だった。


 盗賊から凶悪犯罪者にランクアップしていたようだ。足を洗うはずだったのにどうしてこうなった。


(人型ですか、なるほど。大方女性を手にかけたくなかったんでしょう? ロウのことですから)

(そういうことか。言われてみれば納得がいく)


 それで納得されるのもどうかと思うけど、実際美人じゃなくても助けたのか? といわれると微妙なところだ。そう考えるとやはりギルタブの言は正しいのかもしれない。


 業務連絡を行いつつ商業区を抜け、居住区の宿「ピレネー山の風景」へ到着。まずはセルケトの泊まる部屋を確保するため、タリクに空いている部屋があるかどうか確かめねば。


 わざわざ部屋を借りずに今のまま異空間に放り込みっぱなしというのも考えたが、あの空間は時間の流れがこちらとは異なっている。こちらで半日経ったら向こうでは三日経っていました、なんてこともあるかもしれない。


 アルベルトの報告書によればセルケトも普通に飢えるようだし、彼女が空間を繋ぐ術を持たないうちはあまりにも危険だろう。


 それに、いずれは彼女を人族の世に放つ予定だし、この宿で人族たちに慣れてもらいたいという思惑もある。今の姿ならばアルベルトやヴィクターたちにさえ会わなければ、異形の魔物とバレることは無いだろうし、この宿に限ればさほどリスクも無いはずだ。


(あいつを人の世に放つのか? 正気の沙汰(さた)とは思えんぞ)

「人族の治める社会に対して一定の知識を持っているようだし、外見も誤魔化せるようになった今なら大きな問題は無いと思うぞ。食性も人に近いようだし」

(魔物が、いえ、人型になったのなら魔族ですか。とにかく、魔族が人族の世で暮らすのは容易ではないと思うのです。魔界に放逐する方がまだ簡単でしょう)


 魔神の俺だって暮らしていけているし、そう難しいもんでもないと思うけどなあ。まあ魔界に連れて行くのはアリか? 場所は分からんが。その辺りも含めて要相談だ。


 方針を固めてタリクの下へ行き、親戚が宿泊するということにしてひと月分部屋を借りることに成功した。満室ということもなく、俺が借りた当初の値段で支払いを済ませる。


 親戚を迎えに行く(てい)で宿を出た後、人目を忍んで宿の屋根に移動し、自室へ転移する。


 暗い室内で異空間への門を開き、深呼吸。


 残るはセルケトの説得だけだが……あいつ全裸なんだよな。ちゃんとローブ羽織ってくれてるといいけど。というか意識が戻ってない可能性もあるか?


 門を開けちゃった以上うだうだと考えていても仕方がない。

 ええい、ままよと異空間へ突入!


「──ほうほう。これも良いな! 汝の作る衣服は中々どうして……」

「……」


 白一色の異空間へと踏み込めば、実に魅力的な笑顔でモデルウォーキングのフルターンを行っている元魔物と目が合った。


 互いの時が止まる。


((……))


 どころか、曲刀たちの思考も止まった。


[[……]]


 あまつさえ、ゴーレムたちの動きまで止まった。


 元魔物がファッションを楽しむ奇妙奇天烈な状況。

 それを前にどうリアクションするか天を(あお)いで考えあぐねていると、セルケトが真っ白い肌を真っ赤にして震えだした。


「──き……」

「き?」

「──貴様っ! 入ってくるなら合図くらいしたらどうだっ!?」


 俺の沈黙に耐えられなくなったのか、目を瞑りわーっと喚くセルケトさん。


 ええー? 何その反応? うら若き乙女かよ。ちょっと可愛いんですけどー?


 だが、俺に非難される(いわ)れは無いはずだ。断じて物申す!


「いや、ここ俺の空間だし、お前を放り込んでるだけだし。というか、お前に合う服なんてあったっけ?」

「はんっ! この服は貴様の従者に作ってもらったのだ。返してくれと言われてもやらんぞ」


 物申すも恐ろしい剣幕で再反論されてしまった。どんだけ気に入ったんだよ。


 こちらを睨み自分の服を守るように構えていたセルケトだが、はたと思い出したように表情を真面目なものに変え疑問を口にする。


「ん? 貴様、今ここを己の空間だと言ったか?」

「ああ。お前がどう思っていたか知らないけど、俺は魔神なんだよ。この空間は自前で創ったから正に俺の空間だ」

「……そうか、魔神か。貴様の馬鹿げた強さも道理よな」


 俺の魔神宣言に対し、彼女は目を点にしながらも抵抗なく受け入れた。こいつの前で魔法を使いまくったし、元々人間かどうか疑われていたのかもしれない。


「我を生かしたままここに幽閉したということは、眷属(けんぞく)や従者にでもする腹積もりか?」

「生憎と自分が魔神ってことに気が付いたのがごく最近でな。そういうのはやり方が分からん。お前を生かしたのは単純に、俺と似たような人型の人外を殺すのが躊躇(ためら)われたってだけだ」

「……」


 元魔物相手に建前を語っても仕方がないと、思ったままを口にする。


 殺そうとしといて保護するなんて身勝手そのものだが、捕虜(ほりょ)のような扱いだと考えればそこまで非人道的でもない……はずだ。


 内省を挟みつつ、沈黙する相手に言葉を続ける。


「俺としては、今後お前が人族を襲わないなら敵対しないし、二度も襲い掛かったことの謝罪もかねて、人族社会がどんなものか案内してもいい。何なら服を買いに連れて行くことだって出来るぞ?」

「何ぃっ! 服を買いに行くだと!? くっ、だが……」


 お洋服という餌をぶら下げると面白いくらい反応するセルケト。


 シアンに服を作ってもらって随分と嬉しそうだったから言ってみただけだったが、まさかこれ程効果が出るとは。チョロいもんだわ。ガハハ。


(はぁ……そんなことばかりやっていると、いずれ深い谷に突き落とされますよ? ロウ)


 ギルタブの恐ろしい発言は聞えなかったことにして、セルケトの答えを聞き出すべく続けて質問を投げかける。


「別に俺に同調したくなければそれで構わない。確認しておきたいのはお前に人を襲う意思があるかどうかだ。どうだ?」

「……ふん。肉体が変化してからは人族に対し憎悪の念も湧かんし、態々(わざわざ)襲う気など無いわ。貴様らのように、相手方から仕掛けてくるというのなら別だがな」

「そこに関しては悪かったと思っているけど、お前も前は人族を殺してきたんだし痛み分けみたいなもんだろ」

「むう……」


「まあ襲う気が無いってのは分かった。とりあえず飯でも食おう。人の食べるもので良いんだろ?」


 反論される前に話を変えておく。これで最初に俺が殺意全開で襲い掛かったことも有耶無耶(うやむや)にするって寸法よ。


(外道だな)(極悪人なのです)


 曲刀たちから扱き下ろされるが、放置しないでちゃんとセルケトのサポートはするつもりだし、そこまで言われることでもない。……はずさ。


「ほう! 良かろう、食事としようか。して、どこにあるのだ?」

「異空間の外に食いに行くんだよ。ほら、ついてこい」

[[──……]]


 セルケトを伴って異空間を後にする。出る時にシアンや石竜が寂しそうにしていたが、案外打ち解けていたらしい。


(ロウの創るゴーレムは、総じてゴーレムらしからぬ自由意志を持っていますね。もしかしたら、ゴーレムというより、半ば魔神の眷属のような存在となっているのかもしれません)


 確かにギルタブの言う通り、命令を実行する無機物というよりは、生物的な振舞いが多い我がゴーレムたち。案外俺の魔神パワーで眷属化しているのかもしれない。


 ゴーレム眷属説を考えながら自室へと帰還し、異空間の門を閉じる。ここから屋根の上に転移して、それから宿に入り直さねば。


「むお……これが空間魔法か。あの白い空間が、よもや人族の街に繋がっているとは思わなんだ」

「繋がっていたっていうか繋げたって感じだな。お前を放り込んだ時はあの森の中だったし」


 解説を行いながら座標指定、転移発動。自室から宿の屋根へと二人同時に瞬間移動を行う。


「──ぬあっ!?」

「今の移動も空間魔法だ。お前を落雷の(にえ)としたのもこれだから、いい思い出は無いかもしれん」

「……あの時は何が起きたかすら把握できなかったが。貴様、本当に何でも(ほしいまま)としているな。勝てそうだと思ったことすらまやかしだったとは、口惜しいものよ」


 セルケトは苦々しい表情を浮かべているが、実際槍ぶっ刺されたときはこっちもヤバかったんだよな。わざわざ言わないけども。


「そういえば確認してなかったけど、食事中に前の姿に戻ったりしないよな?」

「む? 騒ぎを起こすような真似を我がするわけが無かろう。そもそも今の我は貴様に殺されかけたおかげで魔力が枯渇しているのだ。元より戻りたくても戻れん」

「そりゃ悪かったな」


 確認を取ったら口を尖らせて反論されたでござる。表情豊かな奴だな。本当に元魔物かよ。


 しかし、今の姿は不完全な状態ということか。やはり魔物状態は継続中ということか? よく分からない存在だ。


 思考を打ち切り、人目を忍んで屋根から街道へと飛び降りる。既に日も暮れているため見つかるということもなく、そのまま一緒に宿へと入りなおす。


 宿へと入ったセルケトは興味深そうにあたりを見回している。人の生活の知識もある程度持っているようだが、一体どの程度持っているのだろうか?


「おかえり。ロウ、そちらのお嬢さんが親戚の方か?」

「はい。人里離れた村からきたので少し世情や常識に疎い部分もありますが、大目に見てやってください」

「セルケトだ。よろしく頼むぞ人間族よ」


「はあ……。なるほど、ロウの親戚らしく変わったお嬢さんだ」

(言われてみれば、なるほど。変わり者という点では似ているな。ククッ)


 居丈高(いたけだか)なセルケトの態度に呆けた様な返しをするタリク。不本意な納得のされ方だが、誤魔化せたのならそれで良し。サルガスの戯言なんぞ聞えん。


「人間族って呼び方はないだろ。この人はタリクさんだ。名前で呼べ名前で」

「むっ。そういう貴様も我のことをお前としか呼ばぬではないか。説教をするならまず己を正してからにするんだな!」

「ぬぐっ。いいだろう、セルケト。ちゃんと人のことは名前で呼びなさい。俺のことも貴様じゃなくてロウでな」

「ふふん。物わかりの良いやつは嫌いではないぞ? ロウよ」


 得意満面という表情で(のたま)う元サソリ女。


 あまりのドヤ顔にこめかみの血管がぴくぴくと反応するが、俺も名乗っていなかったような気がするし、彼女の言うことも筋道が通っている。仕方がないか。


「まあまあそれくらいで。二人とも食事をするんだろう? 早く食堂へ行ってきな」

「そうよな、こんなところで茶番をしている暇などない。我は空腹なのだ」

「ただ飯食らいが偉そうにすんなっての」


 やいのやいのとセルケトから催促(さいそく)されながら食堂に(おもむ)き夕食へ。


「……おいアレ、あの子の家族か?」「うわ~っ。すっごい綺麗な人だ」「あたしのロウ君に着く虫……許せないっ」


 正しく人外とも言えるセルケトの美しさに、目にした宿泊客たちが大きくどよめく。


 元から類稀(たぐいまれ)なる美貌を誇る彼女だが、シアンの作ったセンスの良い服も相まって、今の彼女はちょっとやそっとじゃお目にかかれない傾国の美女と化している。俺も中身を知らなければ骨抜きになっていたかもしれない。


(ロウはいつでも女性に対して鼻の下を伸ばしていますからね。きっとそうなっていたことでしょう)


 黒刀さんのチェックが厳しい。確かに見惚れてることが多いとは思うが、知り合いに美人が多すぎるのがいけないんだ。


「ここで待てばよいのか? それとも取りに行けばよいのか?」

「運んできてくれるからそんなにソワソワするなって」


 柴染色(ふしぞめいろ)の瞳を輝かせ食事を待つセルケトは、大好物を前にした子供のようなはしゃぎようだ。


 いや、異形の魔物の目撃報告って最近になってからだし、実際子供のようなものなのか?

 身体は大人、意識は子供で漫画に出てくる某名探偵の逆版か。


 そんなセルケトを(なだ)めながら待つこと十分。配膳が完了する。


 今回のメニューはいつぞやの蛇の唐揚げに、焼いたタルト生地っぽい円形の卵料理、トマトがふんだんに使われたミネストローネっぽい野菜スープ。そしてビールにバゲットである。


 毎度のことながら一品一品の量が多い。一泊二食で小銀貨五枚は伊達ではないな。


「おおおぉぉぉ……良い、実に良いぞ。我は今、未だかつてないほどに唾液が湧き出すのを実感している」

「そう……じゃあ食べるか。あんまり服を汚さないようにな」

「ぐっ。そうだな、折角あやつに作ってもらったものだ。気を付けねば」


 今にも飛びついて皿ごと食い尽くしそうなセルケトを軽く(たしな)め、いざ実食。景気付けにビールを軽く(あお)る。


「あ゛~。生き返るー」

「むおおぉっ!? この肉、旨いぞ!? 皮も肉も、何故こうまで旨いのだ!?」


 喜びに打ち震えるセルケトをスルーしてジョッキをテーブルに置き、まずは温かいものからだと汁物のトマトスープへと手を伸ばす。


 薄くスライスされた肉や角切りにされた玉ねぎ、じゃがいも、キャベツなど野菜が沢山入った赤いスープ。ニンニクの良い香りが漂うこの料理はとても食欲をそそられる。木のスプーンも付いているが、まずはバゲットと一緒に頂こう。


「うむ、トマトの酸味も程よくて肉の旨味が際立つ。期待通りの味だ、旨い。やはりバゲットとよく合う」

「……旨そうな食べ方だな。そうやって食べるのが作法なのか?」

「お薦めではあるけど、決まった作法は無いから好きにすると良いよ」


 セルケトに答えながらモリモリと食べていき、ほどなく完食。飲むというより食べるという感じだったな。


 お次は謎の円形卵料理だ。一見するとタルトだが……六等分の切れ目が入っているのでひょいと持ち上げてみる。


 中身はひき肉やアスパラガスっぽいもの、にんじんらしき存在に、よく分からない葉物野菜など。香りはチーズを焼いたような旨そうな匂いだ。


 こういう料理も前世で見たような気がする。思い出せないけども。


 考えていても答えが出ない気がしたので、持ち上げたものをそのまま口へ。チーズと肉の味、そしてアスパラガスの食感が心地よい。


 タルト生地はふわふわしてるかと思いきや、小麦粉を大目に使用しているのか、意外や意外にもさっとしている。


 卵料理と舐めてかかったが、これは中々ヘビーである。甘さが控えめなので美味しく頂けているが、これが甘かったら食べきるのに苦労したかもしれない。


 途中でビールを挟みつつ食べ進み、無事卵料理を胃に収め切った。


 ちらりと隣のセルケトを見れば、ニコニコ笑顔で幸せそうに卵料理を頬張っている。本当に魔物かよこいつ。


 気を取り直して以前食べた蛇の唐揚げを見据える。

 身体強化は万全。骨ごとかみ砕いてやんよ!


 右腕で掴み取り、口へ放り込み、咀嚼(そしゃく)する。見かけほど濃い味ではないが、旨し。左腕で確保した分も口へ運び、噛み砕く。淡泊ながら良き食感。旨し。


 骨の破砕音をバリバリと響かせながら平らげる。美味しゅうございました。


 食後、良きひと時を終えた余韻に浸っていると、セルケトが(やぶ)から棒に語りだす。


「──ロウよ、我は決めたぞ」

「ん? 何を?」

「我は人族の料理の、食の探求者となる!」

「へえ、そう」


 反応するのが面倒くさいので適当に流すことにした。


(これがあの難敵だった異形の魔物とはなあ。お前さんの懐柔(かいじゅう)能力が並外れているのか、こいつが単純なだけなのか)


 サルガスの声には呆れが滲んでいた。セルケトは単純な奴だとは思うけど、おかげでこっちとしては扱いやすくて助かっている。(都合の)イイやつだよこいつは。


 そんなセルケトに食器の片づけかたや部屋の位置、鍵のかけ方等をレクチャーしていく。


「──なるほど。宿の中というのは様々な決まり事が有るものなのだな。常に宿の外にいた母の記憶では未知なる領域よな」

「お前の母親って神とか魔神じゃなかったのか。てっきりそういった上位存在に創られた生き物かと思ってたぞ。外見からして色々混ざってたし」


 セルケトの借りた部屋でトイレや浴室の使い方を教えたり、服を異空間から運び込んでいると、彼女はふと思い出したように語りだした。


「そうではない。我が母は──ふぁ~ぁ……んにゃ。……ふむ。わざわざ話すことでもあるまい。我は寝るぞ」

「眠いだけだろお前」


 真面目な空気出しておいてそれかよ。気ままな奴だな。


(奔放さではロウといい勝負なのです)


 いい勝負なのかどうかは置いとくとして、確かにセルケトは奔放不羈(ほんぽうふき)だ。魔物故なのか、生まれて間もないからなのか。


 既に半分寝たような状態のセルケトに、毎日用意される木の枝と糸での歯みがきを教えながら、思わず溜息。彼女を人族社会へ慣れさせていくのは大変そうだ。


(もと)を正せばロウの行いに帰結するのですけどね)


 ギルタブに嘆息されてしまった。それを言われちゃうと、ぐうの音も出ませんよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ