2-20 黒の番犬
ロウが傭兵団への電撃作戦を終わらせ、時刻は昼下がり。場所は商業区、冒険者組合である。
時間帯はピークを過ぎているものの、組合内部はそれなりの賑わいをみせる。時間帯をずらすと逆に任務達成報告を行う冒険者が増えてくるため、少年は今のうちに納品を済ませようと足早に受付へと向かう。
(組合内部に人が多いのは、例の魔物素材が組合へ持ち込まれたことも関係しているかもしれませんね)
(なるほど。魔物素材に対しての見識のある冒険者を集めて、意見交換を行っているのかもしれないな)
遭遇したと言えば説明を求められる可能性があるだろうと、ロウは知らぬ存ぜぬで通す方針を固め受付の列に並んだ。
(状況や姿を説明するくらいならしてやっても良いんじゃないか?)
(今日は色々あったし、もういいかなって。なんやかんや対人戦闘って、精神面で疲労が溜まるんだよな)
(ケロッとしてるように見えたが、お前さんでも人並みに疲れるんだな)
(あくまで精神面の疲れであって肉体、魔力的な疲労が無いのは流石ですね)
「あら、ロウ君! いらっしゃい!」
「こんにちはダリアさん。依頼品の納入にきました」
順番が回りダリアから声を掛けられたため、少年は脳内の井戸端会議を打ち切った。ついでに、彼は可愛らしい笑顔を振りまく彼女の豊かすぎる胸部を脳裏に焼き付けていく。
(はんっ……)
ギルタブが冷笑したような気配を知ったことかと無視したロウは、背嚢から薬草を取り出した。
「おー丁寧に包んでるのね~感心感心。……うん、バッチリ。これなら依頼主の方も満足されると思う。ちょっと待っててね」
小豆色の瞳をかすかに開いて驚きを表すと、彼女は受付の奥へと消えていく。
(大金が手に入ったから、もう組合に用はないんじゃないのか?)
彼女を待っている間に、今度はサルガスから少年へ質問が飛ぶ。
(一理あるけど、冒険者組合を利用してるのは、資金を稼ぐというより身分を得るためって側面が強いかな。資金が潤沢になろうとも仕事をサボるわけにはいかないだろ? 仕事もしてないのに大金を使うやつがいたら真っ先に怪しまれるぞ)
(人族の社会は面白いですね。管理が行き届いているということでしょうか)
(管理というか監視体制かな? とはいえ、このボルドーの官職組がどの程度市民の生活を把握してるかは分からんけどなー)
(お前さんは妙な所で事情に詳しかったりするな……結構抜けてたりするのに)
果たして感心されたのか馬鹿にされたのか。少年が反応に困っているところに受付嬢が帰還する。
「お待たせ~。依頼を受けた時の札は持ってる? よしよし。はい、依頼完了です! 初めての依頼達成、おめでとう!」
「ありがとうございます。ダリアさんが丁寧に説明してくれたので、初めてでもやりやすかったです」
「ふふっ、そうかな? ロウ君ってば聞き上手だからついつい話しちゃうんだよね。何か分からないことがあったら、お姉さんに何でも聞いてね! ……って、そうだった。そんなロウ君に聞きたいことがあるんだった。ちょっといいかな?」
「はい。食事のお誘いならいつでも大歓迎です」
「そうなの? じゃあ今度一緒に……ってそうじゃなくて。ロウ君、薬草採取の時に変わった魔物に遭遇したり戦ったりしなかった?」
見境なく粉をかけるロウだったが、軽くいなされ本筋へと戻された。
「変わった魔物ですか。探しに行った時は魔物化した狼くらいにしか会ってないですね」
異形の魔物との戦闘には触れていないものの、少年の言葉は嘘ということもない。事実薬草採取中はあの異形の魔物に会っていないのだから。遭遇したのは収集後である。
「ただ、冒険者と思わしき遺体は幾つか発見しました。損傷が激しかったので、身分の証明となりそうなものしか回収できていませんが……」
回収していた組合員章を受付に並べ、少年はしばしの間彼らを悼んだ。
「……これは。そっか、ガストンさんたちは、やっぱり……。回収してくれてありがとう、ロウ君。この人たちの遺体、どこにあったか覚えてる?」
「はい。森の奥、山脈の近くだったと思います。薬草探している内に近づいちゃってたみたいで……」
「もうっ。あそこは危ないから近づいちゃダメだって言ったでしょー? 何人も行方不明になってるし、ロウ君が見た通り本当に危険な場所なんだから。この人たちの組合員章を拾ってくれたのは嬉しいけど、もう近づいちゃダメだよ?」
「はい。心配させちゃって申し訳ないです」
ぷりぷりと怒るダリアに対し、ロウは良心の呵責を覚えながらも頭を下げる。
そこから「言い過ぎた」「そんなことはない」「いやいや、そんなことなくない」と謝罪合戦を繰り広げた後、少年は報酬の小銀貨二枚を受け取り冒険者組合を後にしたのだった。
◇◆◇◆
依頼品を納入した後。
ロウは宿泊している宿「ピレネー山の風景」へ帰ろうと考え、居住区へ向かっていた。
様々な事件に巻き込まれたもののようやく帰れると、足取り軽く宿を目指していた少年だったが──不意に表情を鋭くする。
(つけられてるな。数は四人、亜人入り。一人が囮で残りが本隊か。囮の方の魔力は中々の物だが、果たして……)
(ムスターファとの繋がりが明るみに出て、ロウから金の臭いでもしたのかね?)
(いや、それはまだないと思うぞ。つけられだしたのが組合を出てからで、工業区や上層区からってわけじゃないからな)
(ならば、子供を狙った恐喝でしょうか?)
脳内会議の通り、ロウは何者かにつけられていた。
彼はずば抜けた魔力の感知範囲を持つため直ぐに察知したが、尾行は巧妙かつ自然に行われている。囮と見られる稚拙な尾行者以外は、明らかに素人のそれではない。
(面倒ごとの予感がヒシヒシとするなー。空間魔法で撒いてもいいけど、また尾行されそうな気がする)
(殺ってしまいますか?)
(物騒すぎんだろッ! 見つかったら確実に騒ぎになるだろ、却下だ)
(騒ぎにならなかったら殺るみたいな、お前さんの思考も大概物騒な気がするぞ)
欠片の緊張感もない雰囲気で大通りから外れ路地へと進むロウ。その間に魔力を漏らさぬよう注意深く身体強化を行う。
(どう出られても対応できるようにして話を聞いてみるか。言い訳されても困るし、まずは釣り出さないと)
指針を定めた少年は瞬時に壁へと走り跳躍、三角飛び。十階建ての建物を軽やかに登り切り、眼下の路地を観察する。
「……あれ? 居ない? 何でっ!?」
そこで待つこと一分少々。路地に幼い少女が現れ、ロウを見失ったことに対する驚きを露わにした。
(ん? 何かどっかで見たことあるような幼女だ)
(ああ、ロウが今朝食べ歩き用のパンを買ったところの娘だな。尾行が拙いのも道理だ)
(本業の尾行者とは無関係で、囮代わりに利用されたのかもしれませんね)
(あの子だったのか。朝あった時は気が付かなかったけど、魔力の濃さがヤームル並みだな、あの子。只者じゃない)
ロウたちが少女の分析を進めていると、本職の方にも動きがあった。少年の姿が忽然と消えたことに彼らも気が付き、痕跡を探すために現れたようだ。
「──へ? きゃぁ!? むぐっ」
「静かに。騒がなければ危害は加えない」
「駄目だ。なんも痕が残ってねーよ。一瞬で索敵限界まで振り切られた」
「こっちの追跡はバレてないはずだし、また今度組合にきた時に追跡しよう……このままじゃボスにどやされるし」
「……」
そんな会話がロウの耳に入る。
──そう、既にロウは屋根からの移動を終えていた。
影が落ちるように路地へ無音の着地を決め、姿を現した追跡者たちの背後をとっていたのだ。少女が声を上げてから僅か十秒ほどのことである。
「誰からどやされるんですか?」
「「「──っッ!?」」」
驚愕ッ! そうとしか形容しようのない表情がロウの声を聞いた三者に浮かび、即座に飛びのく。それにつられて拘束されたままの少女が苦しげに呻く。
「とりあえず、その娘のことを放してあげませんか? 無関係なんでしょう?」
「……」
「むーっむーっ!」
ロウが少女の解放を提案すると追跡者らは目配せし合ったが、了承しない方向で舵をとったようだ。
「……まあ待て。今、君と俺たちは大きな誤解の中にいる。話し合うことでこの誤解は解消できるんだが、聞いてもらえないか?」
「幼子を人質のように扱っておきながらその言い草、誤解も何もないような気がしますね」
「ぐッ」
リーダーらしき体格の良い金の長髪の男は、ロウが自分の出した提案を切って捨てると言葉に詰まってしまう。彼の仲間の女と犬人族の男も若干非難するような目を彼に向けており、今のこの状況が彼らにとっても望ましいものではないことが窺えた。
(面倒臭そうだけど、個人的な恨みを買ってるだとか金をせびろうとしているだとか、そういった目的じゃあなさそうだな)
荒事に慣れてきた頭でロウがそんな風に彼らの目的を推測していると、突如として膠着状態が動いた──拘束されていた子供によって。
「むーっ!」
「「「っッ!?」」」
(青い魔力の集束ッ!?)
大人を丸呑みしようかという巨大な火球がロウと男たちの間に出現し、炸裂。周囲に火焔と熱波を撒き散らす!
「フッ!」
人外たる反応速度を見せたロウは、すぐさま魔力の強化を衣服にまで拡張。灼熱渦巻く高温地帯へと稲妻の如く切り込み──刹那で通過。
抜けた先に身体強化を行い踏みとどまっていた少女を発見すると、水魔法を使い氷壁を創り出して保護と同時に隔離完了。
「──なっ!?」
「マジかよッ!?」
突然の爆発で追跡者たちが吹き飛ばされ、少年が少女を氷壁で保護し、受け身をとった三人の鼻先に迫るまでの所要時間は、ほんの三秒。
そこは既に、肉体が成長途上である少年の腕すら届く、必殺の間合いである。
「待ッ──」
「──嘩ッ!」
リーダー格の男が二の句を継ぐ前に、残炎をなびかせるロウは右足を踏み出し、連続貫き手──八極拳金剛八式・探馬掌で男の腹部を打ち抜く!
「ゲ、ェ!?」
膻中に水月。立て続けに胸部の急所を打ち込まれた男は、悶絶する間もなく意識を断たれ地に沈んだ。
ロウが放ったこの貫き手、本来は掌を開いた穿掌の形で打ち抜くものだが、今の彼の力では文字通り人体を打ち抜いてしまう。そのため、指を曲げたうえでの攻撃だ。
(──危ねえ。軽く打ち込んでも野郎の身体ぶち抜きそうだった)
それでもなお強烈な貫通力を有していたため、少年は内心で冷や汗をかく。
「哈ッ!」
「「っッ!?」」
そんな内省と並行し、同じく八極拳の金剛八式・虎抱で両脚震脚。大地を揺るがす振動をもって残る二名を威圧する。
そのまま静かに力を溜めつつ、ロウは相手の出方を窺っていたが──。
「待って! ちょっと待って!」
「やべーよ。なんだよ今の。え? 火の中通って、ジョルジオ瞬殺かよ? あ、震えてるし死んでないか」
「……はあ。何でしょうか?」
(戦闘専門じゃないみたいだな、どうも)
(長引くよりは良かったと思うのです)
明らかに戦意のない男女の態度に、ロウは気の抜けた声を出す。
少年が構えを解くと、彼らは地に頭が付かんばかりに頭を下げ、全力の謝罪を始めた。
「「すみませんでしたぁー!」」
「……俺は謝罪を受け入れますけど、あの娘にもちゃんと謝ってくださいね」
謝罪を受け入れたロウは水を操り火種が残る周囲の消火作業を行い、作業が終わると少女を保護していた氷を変形させ、彼女を解放した。
「ふわー! おにーさん、すっごく強いんですね!」
「ふふん。鍛えてるからね。……さっきの炎は君の?」
「そうなんですよっ! おにーさんと同じ、精霊魔法なんですよ。えへへ」
(捕まってた割には余裕そうだな、この娘は)
得意満面といった様子の少女を見たロウは頭を掻きながら迷った挙句、軽く注意を促すことにした。
「凄い精霊魔法だったけど、周りの家に火が燃え移ったら大火事になってたかもしれないし、注意しないといけないよ。今回は全部あの人たちが悪いから仕方がないけど」
「うっ。ごめんなさい……」
「「ごめんなさい!」」
ロウがチラリと目線を向けると平謝りする大人たち。もはや彼らも完全に萎縮してしまっている。
「人質をとったのはその場の勢いとして。尾行していた理由を教えてもらっても?」
ロウが水を向けると、露出の多い格好の片目が赤髪で隠れた女──ルールーが事情を語りだした。
彼女の言によると、冒険者組合の支部長から直接依頼され、ロウを尾行することになったのだという。依頼は前日、すなわちロウが組合へ冒険者登録を行った日とのことだ。
(最初から目を付けられてたか。まあ二種の精霊使いって珍しいらしいし、さもありなん、か。隠れてコソコソ監視しようなんてのは気に食わんが)
(まあまあ。正面から怪しいだなんて言えないし、仕方がない面もあろうさ)
依頼を受け組合で張っていた彼らは、目的のロウが現れると追跡を開始する。
途中、大通りで幼い少女が何故か少年の尾行を始めたが、少女の拙い尾行が自分たちの丁度良い隠れ蓑になると考え放置し追跡を続行。少年が路地へ入るまでは順調に進んでいたのだが──。
「──そこから先が御覧の通りと」
「面目次第もありません! いやーロウ君、強いなんてもんじゃないね。尾行振り切られたとき一切気配がつかめなかったのに、いつの間にか真後ろに居たんだもん。アレどうやったの?」
「特別なことはしてないですよ。垂れ流していた気配を消して背後に回っただけです」
「簡単に言ってるが……そんなナリでなあ。ジョルジオはご愁傷さまだな。運が悪かったとしか言えんわ。誰もこんな割に合わない仕事とは考えねえし」
リーダー格の男を背負う長身痩躯の犬人族の男──アドルフは、ロウに貫き手を打ち込まれた背中の男へ同情しているようだ。
「その娘に手を出さなければ荒事にならなかった気もしますけど」
「「うぐっッ」」
「えへへ、おにーさんに助けてもらえたから気にしてないよ」
ロウがアドルフの言い訳がましい言葉を切って捨てるが、当の少女はそれほど気にしていない様子。
そんな少女の豪胆さに感心しつつ、ロウは少女へ水を向けた。
「そういえば、君は──」
「アイラです! ロウおにーさん、よろしくねっ!」
「ああ、よろしくねアイラ。で、だ。どうしてアイラは俺の尾行を?」
「うぅ……。ええと、街でおにーさんを見かけて、おにーさんだって思って追いかけて、私も精霊魔法が使えるから、おにーさんに教えてもらえたらなって思って……」
ご機嫌な様子から一転、桜色の大きな瞳を揺らしたどたどしく事情を語るアイラ。不安げな様子の少女に慌てたロウは、急いで訂正を入れる。
「責めるように聞いてごめんね。怒ってるわけじゃなくて、理由を知りたかっただけだから」
「おにーさん……でも、ごめんなさい」
しゅんとこうべを垂れた彼女の薄桜色の髪を梳き、少年は宥めるようにして優しく撫でる。「アレ? なんか似たような事がちょっと前にもあったような」と考えたが、少女が愁眉を開き幸せそうに頬を緩ませているので深く考えないことにした。
(ロウは女性に甘々ですね。将来たちの悪い女に騙されないか不安なのです)
(いや、女性って言うか子供だろこの娘は。何言ってんだお前)
黒刀の意見にドン引きする銀刀。ロウも彼に同意見だが、藪をつついて蛇を出しても困るので口(思考)を閉ざした。
「それで、ルールーさんたちはどういう風に依頼の報告するんですか?」
「あー、うーん……ええっとね。できればで良いんだけどね、ロウ君──」
「──ぶっちゃけた話、ロウにも俺らと一緒にもう一度組合に出てきて欲しいわけだ。どの道俺らの監視が失敗したら向こうからお呼び出しがくるだろうし、そうなりゃ二度手間だろ? なら、これから一緒に出向いた方が情報の共有もしやすいだろうぜ」
「……というわけで、どう?」
ロウが話を彼らの依頼へと戻すと、揃って答える冒険者たち。それを聞き、少年は腕を組んで唸る。
(ちょこちょこ監視するより正面からこいってクレーム入れたかったし丁度いいけど、なーんか向こうの思う壺になってる気がするんだよな)
(彼らも触れていましたが、ロウを監視せよとした依頼主が組合支部長である以上、接触は避けられません。今回彼らを伴っていくことで、監視の動かぬ証拠を突き付け、ロウの優位になるよう話を運べるかもしれませんよ)
(俺だけで行っても知らぬ存ぜぬって態度取られたら、証明しようがないもんなー)
「……分かりました。ただし、自分たちが支部長の命を受けて監視をしたと証言するなら、という条件付きですが」
少年が提示した条件が想定通りだったのか、彼らはすんなり受け入れ嬉しそうに破顔した。
「いやー良かったよ。私らもこんなクソ依頼回したボスに文句言いたいところだったし、ロウ君が来てくれるなら凄く話しやすくなるし」
「ついでにボスからジョルジオの治療費ふんだくれねえかなあ」
(転んでもただでは起きないって言うかなんて言うか。逞しいな)
あまりにも変わり身が早いためロウが引き攣った表情を浮かべていると、静かに成り行きを見守っていたアイラがおずおずと口を開いた。
「あのー……冒険者組合へ、あたしも連れて行ってもらえませんか?」
「アイラ? 組合についていくって、どうしてまた?」
彼女の言葉に三人とも困惑の表情を浮かべ、代表する形でロウが理由を尋ねる。
「ええと、あたしも巻き込まれちゃったし、その、おにーさんが支部長さんに説明するとき、あたしも居た方がいいかなーって……」
「うーん」
ロウの反応ををチラチラと窺うようにして続けるアイラ。そんな彼女にロウとアドルフは首を捻るが、ルールーは何か得心がいったように頷き、ウィンクと共に宣言する。
「よし! 許可しようアイラちゃん! 巻き込んだ私らが悪いんだし謝罪もかねてね」
「マジかよ。こんな子供を人質代わりにしたって言ったら、ボスから半殺しにされそうだわ。ジョルジオのせいにしようぜ」
リーダーのジョルジオが意識のない事をいいことに彼へ責任を擦り付けていく二人。ロウは軽く同情したが、行動を起こしてしまったのは彼自身なので自業自得だろうと考え直した。
「やった! あ、おにーさんも、あたしがついていっても大丈夫ですか?」
「いいけど……怖い大人が沢山いるから一人で動き回ったり精霊魔法使ったりなんてのはダメだよ」
「はいっ! おにーさんの傍にいるので大丈夫ですっ! えへへへ」
何か良いことがあったのか、アイラは心配そうな顔からニコニコ笑顔へと早変わりし嬉しそうに語る。
話が纏まり、四人と気絶した一人は組合を目指すことになった。子供二人に大人の男女、そして何故か背負われている男。実に奇妙な組み合わせである。
(はぁ。俺の休息時間奪いやがって。クレームぶちかましてやるから覚悟しとけよ支部長ッ!)
──そんな中、ロウは何とも微妙な理由で組合支部長への怒りを滾らせ、自身の鬱憤を発散する算段を付けていくのだった。