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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第二章 工業都市ボルドー
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2-17 蹂躙劇

 引き続き傭兵団のアジト。その地下にある廊下で、一人頭を捻る。


 亜人の子供に別れを告げ物置部屋から出たは良いが、ここからどう攻めたものか。


(さっきまで余裕ぶってたのは何だったんだよ……)


「いやいや、攻めあぐねてるわけじゃないって。あの子に言ったように奇襲すれば問題ないと思うし」

(? それでは何に迷っているのですか?)


「トロンは行動不能にしたけど、まだ上階には十数人傭兵たちがいるからな。奇襲していくにしても相当迅速に行動しなければ逃げ出す奴もいるかもしれない。出来ればここで壊滅させておきたい身としては、一人残らずとっちめておきたいわけだよ」

(つまり……確実に殲滅(せんめつ)出来るような策を模索(もさく)している、と)


「そういうことです、はい」


 一人だと動きやすい分、包囲殲滅(ほういせんめつ)のような大がかりな戦略は採れない。どうしても手が回らない場面が出てきてしまうだろう。


 とはいえ俺は魔族。ならば魔法で如何様(いかよう)にも補うことができよう!


 気絶中の傭兵を地下の廊下に投げ捨て、移動を開始。例の如く(はり)を這い回り一階に向かう。


「全員を集めるならここが一番いいかな?」


 一階へ上がり向かったのは、階段前にある踊り場のような広い空間。一般的な家が一軒(いっけん)丸々入りそうだし、作業するにはもってこいの場所だろう。


 まずは下準備。圧縮空気層を多重に張り、周囲の防音を図る。


 次に、新たな魔法へ着手する。人手が無いのならば増やせばいい──そんな荒業を可能にするため、魔力を研ぎ澄ませて想像力を羽ばたかせる。


「……よし」


 考え出したのはムキムキマッチョな石人形。


 武骨(ぶこつ)な外観。圧倒的な質量。命令に忠実な戦士。そして、血の通わぬしもべである。


 想像図が固まれば、凝縮された紅き魔力が人型を(かたど)っていき──思い描いたとおりの岩の大男へと姿を変える。


[──]

「おぉ~……」


 体高は俺の倍近く、肉厚。

 数十トンはあろう巨体は魔力で強化されていなくとも恐るべき戦力。それが魔族の魔力で強化されるならば、その脅威(きょうい)は語るまでもない。


 既にダミー精霊や岩壁の変形で岩を動かす術は心得ているので、石造でも可動は問題ないだろう。ゴーレムへの命令の行い方も、ダミー精霊を動かす時にひそかに練習していたので大丈夫だ。


(これは……ゴーレムか?)

(この大きさの岩が自在に動けば、それだけで強力な戦力となりそうですね)


「いわんや複数体ともなれば、ってな」


 天井に接するほどの巨体に感心する曲刀たち。

 その間にも新規の石像を創造。紅の魔力から新たな尖兵(せんぺいが)生まれ落ち、ゴリゴリと空間を圧迫していく。


 熟練の戦士たちでも一体に対し数人がかりで対応せねばならないだろう存在が、六体。


 圧倒的な戦力差。

 もはや勝敗は火を見るよりも明らか。

 勝ったな。俺は入り口や隠し通路警戒して探知を行っていたら大丈夫だろう。


 さあゴーレムたちよ! やーっておしまい!


 俺の脳内号令に従い、石像たちは大きく右足を踏み出し──盛大にこけた。


「!?」((!?))


 轟音、烈震。


 周囲を(おお)う防音魔法すらぶち抜く、ド派手な衝撃音が館を貫いた。


「──なんだ!?」「襲撃か!?」「近いぞ。地下室の方からだ!」「武器を持て!」


「げえ!?」

((ちょっッ!?))


 やぁっちまったァッ!?


 いきなりすってんころりんの転倒劇である。


 が、すぐに当然の結果かもしれないと思い当たった。


 それは生前に見たロボットコンテスト番組の記憶。直立二足歩行というものは足の振り上げ着地踏み出しのタイミングやら重心の移動やらの総合であり、再現するのが非常に難しいなどというものだ。


 ましてや、俺の創った石人形は上半身がめっちゃデカい。つまり全体のバランスがなお悪い。


 そりゃコケるわ。


(訳の分からないこと考えてないで何とかしろッ!? このままじゃ奇襲すら怪しいぞ!)


 フッ、愚か者め。この俺が何の考えもなしに現実逃避してるとでも思ったか? この(たわ)けが!


((……))


 逆切れしてすみません。

 でも考えがあるのは本当なんだよ。こけるのが問題ならば、転ばないような構造にしたら解決だ──。


「何だアレはッ!?」

「ゴーレム……なのか?」

「よく分からんが倒れている! 近寄るのは危険だ。魔術で破壊しろ!」

「まだ術者も近くにいるはずだ! 探しだせ!」


 ──とか考えてるうちに傭兵団到着。そしてゴーレムへの攻撃開始。


 彼らの行動は素早く、迷いも見られない。梁の上にいる俺に気が付いてないのは幸いだが、この分だとすぐにバレそうだ。すぐにでもゴーレムたちに働いてもらわねば。


 うつ伏せだったり仰向(あおむ)けだったりする石像たちに魔力を追加し、変形を(うなが)す。


 二足が無理なら多足で行こう──そう考えた時に思い浮かんだのは他でもない、先日戦ったあの異形の魔物だ。


 俊敏(しゅんびん)かつ多彩な、人ならぬ異形ならではの奇妙な動き。多脚ゆえに安定感もバッチリ。真似るならこれしかなかろう、だ。


「よし、倒し……なんだ?」

「体が変化していく……」

「ゴーレムではない、のか?」


 攻撃を加えていた傭兵たちも手を止め変化に見入るほどに、魔力を与えられた石像たちの変化は目まぐるしい。


 巨大な足や極太の腕が胴体へ引っ込んだかと思うと、人の胴体程あろうかという脚が幾本も突き出して。

 饅頭型(まんじゅうがた)の頭部が埋まるように消えていったと思えば、(はさみ)のような腕部が突き出して。その様は、映像の再生と逆再生を繰り返しているかのようだ。


 並行して、館内の探知を行う。


 石像がこけた時の爆音によりこの建物内にいたやつらは休んでいた者たちも含め、例の亜人の子供を除く全員がこの場に集まっていた。


 彼らの疑問を感じれば即座に動くという警戒感の高さ故だろうか、実に素早い集合である。


 しかし一方で、こうなれば退路を断つのは簡単だ。


 二階と地下へ繋がる階段と、傭兵たちのやってきた通路。どちらも岩壁で(ふさ)いでしまえば、あっという間の袋の(ねずみ)である。


 災い転じて福をなすってな。ガハハ。


「なにっ!?」「つ、通路がッ!?」「まさか、誘い出されたのかッ!?」「ゴーレムだ。まずはゴーレムを狙え!」


(……まあなんだ、後はゴーレムの戦いぶりを楽しむとするか)

(実にロウらしい流れなのです)


 それでは始めよう。

 蜘蛛(くも)型石像蹂躙劇(じゅうりんげき)、開演でございます。


 岩の巨人からずんぐりとした大蜘蛛へと姿を変えた石像たちが、傭兵たちへ一斉に飛び掛かる!


「「「っッ!?」」」


 六体全てが同時に動き出すとは思わなかったのか、二人の傭兵が回避に失敗した。


 推定数十トンの大質量が急発進した自動車ばりに激突。


 自動車の正面衝突事故よりも数倍激しい衝撃を受けた彼らは勢いよく吹き飛び、(にぶ)い音を響かせ岩壁へとめり込んだ。


 残り十名。


「うおおぉぉぉッ!」


 他の傭兵へと突進した石像の背後をとり、魔力を込めた長剣を振りかぶる男。


 がら空きの胴体を狙った一撃は──しかし、石像の足一本に防がれる。


 背後に目でもあるかのように正確な形で攻撃を弾かれ、ギョッと硬直しつつもすぐに飛びのいた男は、そのまま体勢を立て直そうとしたが──背を向けたまま男の方へと跳躍した石像に吹き飛ばされ、全身強打。行動不能。


 残り九名。


「まともに戦うなッ! 回避を優先して魔術を叩き込めッ!」


 団長であろう茶色い髪を短く切り揃えた精悍(せいかん)な男が、石像の胴体を槍で貫きながら声を張り上げる。


 水平に構え中段から放たれた強力な突きは蜘蛛型の腹を大きく穿(うが)ち、見事一体討伐となった。


 さりとて、その間にも他の石像たちは多脚を動かし高速で動き回り、腕部の(はさみ)で傭兵たちを微塵(みじん)に刻む。


 吹きすさぶ嵐のような斬撃を回避しきれなかった傭兵の一人は、石像同士に両脚を挟まれ大腿骨(だいたいこつ)を損傷。泣け叫びのたうち回り、行動不能である。


 残り八名。


「あああぁぁぁっ!」


 同じように石像の猛攻を凌いでいた女傭兵もまた、死力を尽くし双剣を振るっていたが──無情にも得物が砕け、石像の腕部によって腹部を穿たれる。


 崩れ落ちる女、そこへ多脚による慈悲なき追撃の蹴撃。


 喀血(かっけつ)しながらぼろのように宙を舞った彼女は、果たして生きているのだろうか? 胸部鈍的(どんてき)外傷及び裂傷により行動不能。


 残り七名。


((……))


 押し黙る曲刀たち。蹂躙はなおも続く。


「放てぇぇぇッ!」


 残っている傭兵たちの術式構築が完成し、様々な魔術が放たれる。


 氷槍、火球、爆発、果ては樹木による拘束。血路を開かんとした怒涛(どとう)の魔術により、石像たちは脚や腕を幾つか吹き飛ばされはしたが──それでも行動不能にまでは追い込めない。


 残った腕部で挟まれる傭兵。多脚に踏み潰される傭兵。体当たりではね飛ばされる傭兵。いずれも動くことすらままならぬ重傷者。窮状(きゅうじょう)を脱さんと死力を尽くしたところで、(ねずみ)は猫を噛めても狩れはしない。


 残り四名。


「態勢を立て直す! 一時撤退だ! 足場を崩してやつらを撒くぞ!」


 相手にしていた石像を更にもう一体(ほうむ)ったリーダー格の男は、宣言と同時に魔術を解放。石像たちの上部の天井を砕き瓦礫(がれき)で埋めつつ自らの足場を崩して逃走を図る。


 アフマト団長の採った行動はボロボロになった仲間を見捨てるという、清々(すがすが)しいまでの逃げの一手だが……。その人数、消耗具合じゃあ無理だろう。その判断は遅すぎた。


「団長! 待っ……」


 崩落の直撃を受けた石像たちに損害は無く、傭兵たちを追うべく瓦礫の山を押しのけ崩れた足場へ雪崩れ込む。逃走に遅れた傭兵の一人が石像の巨体に薙ぎ倒された。その女はピクリとも動かない。


 残り三名。


「何故だッ!? 何故こんなことにッ!?」

「団長ッ! ここからどうするんだッ!? 地下からじゃ逃げ場も──」


[──]


 怒号を上げていた傭兵たちを黙らせるように、魔術により耐久度が落ちていた一階の床が崩落し階下の彼らへ殺到する!


 どっこい、流石にここまで生き残っている傭兵。満身創痍(まんしんそうい)の身ながら、見事にこれを回避する。


 それでも──瓦礫の陰から岩雪崩のように降ってきた、石像たちの回避までは叶わない。


「「「──ッ!?」」」


 巨石衝突、全身粉砕。


 直撃を見舞われた傭兵たちは声なき悲鳴を上げ、ゴーレムたちの下敷きとなった。強力な身体強化を身につけていたおかげで辛うじて生きてはいるようだが……虫の息だ。


 ここに行動可能な者はゼロ名。よって戦闘終了である。


(これは……酷いですね。まさかこれ程とは)

(実に圧倒的だな。もう知ったつもりでいたが、お前さんのことをまだまだ過小評価していたみたいだ)


 (はり)の上から石像の背へと飛び移り感想戦。


 といっても大して語ることは無い。岩壁で退路を塞いでから十分も経ってないのだから。正しい意味で蹂躙(じゅうりん)であったと言えよう。


 石像たちを戦わせてみて気が付いたことは、数に対応するにはこちらもある程度の数を用意した方が優位に事を運べるということだ。


 俺は石像よりもずっと強いし、仮に六体の石像が同時に襲い掛かってきたとしても粉砕することが可能だろう。


 しかし十二名もの戦闘集団が相手となると、討ち漏らしが出ていたかもしれない。


 体が一つである以上取れる行動に必ず限界があるのだ。転移や空間魔法を使えば全員無力化できたかもしれないが、魔術や精霊魔法から大きく外れたものは流石に見せられない。


(あのゴーレムも大概常識から外れていると思うが……)


「そこはほら、卓越した魔力と精霊の力で云々ってことにしたら誤魔化せる。……はずだ」


 戦闘における数による利を実感しつつ感想戦を終え、退路を塞いでいた岩壁を流用して新たな石像を創出する。合計十四体となった蜘蛛型の石像に一人一人傭兵を拘束させ、その場待機を命じていく。


「こんなとこかなー……ん」


 地下で寝ていたトロンを含む「灰色の義手」全員の拘束が完了し、余った石像の背に乗り屋敷を探索して回っていると、魔力探知に反応あり。館の外からだ。


 この質屋「金の蝶番(ちょうつがい)」を囲うように反応があることから、ムスターファが話を取り付けてくれた衛兵とみて間違いないだろう。実に素早い到着である。


 戦闘そのものよりも、俺のゴーレムと激しい戦闘痕が残るこの惨状をどう説明するかの方が難題ではあるが……ムスターファに丸投げするか。彼ならきっと上手い事誤魔化してくれるはずだ。出発前にも話したし、問題なかろう。


 丸投げの方針を固めた俺は石像を玄関へと走らせ、征伐(せいばつ)部隊の隊長の下へと向かったのだった。

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