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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第一章 異世界転生と新天地への旅立ち
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1-4 冒険者との出会い

 受付嬢ディエラと話し終えた後、自室に戻り寝台へダイブする。


「意外と話せるもんだなー」


 ロウとしては何度も顔を合わせた馴染みだが、中島太郎(なかじまたろう)の意識では初対面。単なる可愛い異性だ。


 中島太郎としての意識が強い今の俺では、どうにも居心地の悪さを感じてしまう。


「俺が転生しなきゃ死んでるような傷だったし、割り切るかね」


 思い出すのは転生直後。肉体が作り変えられるような激痛と一緒に、体に負っていた傷も消えていた。


 今の肉体は中島太郎やロウと比べても非常に強靭かつしなやかで、魔力を纏っていない状態でも大型の肉食獣並みに運動能力がある。


 腕力握力はゴリラ並、脚力はチーター並み。持久力も馬並みと極めて高性能。控えめに言って人外である。魔力の色が人から外れているし、本当に人外だろうけども。


「発展途上の子供でこれなら、将来的には真っ当に稼いだ金で魔術大学にもいけるかな?」


 リマージュの東にある公国首都よりも更に東にある隣国、サン・サヴァン魔導国の研究機関。それが魔術大学だ。


 バルバロイで習得した開錠術も、源流は魔術大学講師から学んだ土魔術を応用し、魔力操作と組み合わせた技術なのだという。


「どうせなら土魔術も教えてほしかった……」


 開錠術は練度に差があれど団員達のほとんどが習得していたのだが、肝心の土魔術は誰も習得していなかった。


 というのも、開錠術をもたらした人物はバルバロイの団員だったわけではなく、団長の知己(ちき)である盗賊だったのだ。


 そして団長には魔術的な素養が無かったらしく、辛うじて開錠術を模倣できたのみだった──そんな話を、かつてディエラから又聞(またぎ)きした。


「あ、でも開錠術を応用したら土魔術めいたことが出来るかも?」


 リバースエンジニアリングとまではいかないが、開錠術の原理を突き詰めたら土魔術の基礎くらいは理解できるかもしれない。


「後はリマージュを出てからじっくり試してみるかな」


 まずは寝て体力の回復に努めよう。サクッと就寝。おやすみなさい!


◇◆◇◆


「──おぉぉー。凄いです団長!」

「ハッハッハ、これが魔力式開錠術ってやつさ」


 日当たりが悪く、日中でも窓から入る明かりが少ない。そんな室内にいるのは俺ともう一人、砂色の髪を伸ばし無精ひげを()で粋がる男──ルーカスである。


 盗賊団の頭領である彼は内部構造を直接見ることができる特殊な錠で、平たい金属棒を錠穴へ突っ込み開錠術を実演している。


「ほぇ~。バネがグネグネ動いて面白いですね」


 錠内部はバネと金属の棒の組み合わせで出来ており、バネの圧力の掛かり具合で、固定された状態から錠を解除できる可動状態になるといった仕掛けがなされていた。


「金属棒に魔力を伝わらせて、そこからシリンダー──バネに押されてる金属棒だな、これを動かしているんだ。よっと」


 ルーカスが金属棒から魔力を伝わせると全てのシリンダーが固定状態から可動状態になり、鍵の代わりの棒が回転した。見事開錠だ。


「開錠術は魔力による索敵の応用で錠の構造を解析し、そこから鍵へと魔力を流し込んで錠の内部を操作する、非常に高度な技術だ。これからは夢に出てくるぐらい修練してもらうから、覚悟しとけよ? ロウ」


「はい!」


 既に盗賊としての歩行術や戦闘訓練で大人顔負けの実力を示していた俺に、ルーカスとしては調子にのらぬようくぎを刺そうとしていたようだが……。


 この頃の俺は母親の復讐(ふくしゅう)に役立ちそうな技術習得に対し貪欲(どんよく)だったため、調子に乗りようがなかった。


 素直に応じる俺を見て微笑みを見せたルーカスは、こちらに錠を投げて寄こし開錠術の指導を始めたのだった。


◇◆◇◆


「マジで夢に出てきやがったか」


 微睡(まどろ)みから覚め、独り言をこぼしてしまう。一時期延々と錠と(たわむ)れていたため文字通り夢にまで出てくる始末だった。


「最近は見てなかったけど、寝る前に土魔術について考えたからか?」


 ぼんやり(まなこ)で外を見れば、もうすぐお昼時という時間だった。


 伸びをして身体の調子を確かめると、あまり時間を取って寝ていないわりに疲労感もない。軽く休んだだけで疲労がすっ飛んでしまったようだ。


「やべーな俺。色々なところでハイスペックすぎるぞ」


 若干引きつつも寝巻姿から旅装束へ着替え、一階にある浴室の洗い場へ。


 水を生み出す魔道具で口をゆすぎ顔を洗いつつ、糸による歯みがきついでに姿見で身だしなみを確認する。


「キラン☆」

「……」


 そのままキメ顔もチェックしていたら、小振りのナイフで(ひげ)()っていた冒険者らしき男に白い目を向けられてしまった。


 俺も十歳くらいのガキがおとがいに指を当てウインクしたり、額と腰に手を当て身体をよじったりしてたらドン引きすると思う。


 魔が差しただけなんだ。信じてくれ!


 これも何かの縁だと無理やりこじつけて男と談笑し、一緒に昼食を取るため食堂へと向かうこととなった。


◇◆◇◆


「──俺は仲間と一緒に南の都市ボルドーへ行く馬車の護衛依頼を受けてるんだ。最近南の方で魔物被害が多いみたいで、冒険者の仕事が増えてるみたいだからな」


 黄土色の短髪を切り揃え、サッパリとした印象を与える青年──アルベルトは語る。


「おぉー、凄いですね。南といえば、西の大森林の奥深くに居るような強力な魔物がいるって聞いたことがありますけど」


「おうとも、よく知ってるな? だが俺は一人で亜竜を討ち取ったことがあるんだぜ。頼もしい仲間もいるとなりゃあ、危険な場所も金稼ぎの場に早変わりさ」

「ほぇ~」


 亜竜といえば、俺のロウとしての知識にもある存在。“最低でも”国の精鋭たる騎士が一班──五名ほどで討伐にあたる、強大な存在はずだ。それを単身で打ち倒すとなると、冒険者としては規格外。この大都市リマージュでも、恐らく両手の指で足りるくらいだろう。


「──あれ? アルベルトさんって凄い冒険者らしい割には、高級宿には泊まらないんですね?」

「ギクゥッ!」


 ふと考えに至った疑問を口に出せば、露骨に動揺する青年である。ジト目を向けると彼の黒目は泳いでいた。


「し、仕方がないんだ。リマージュは色々面白いものが沢山あるし、装備だって良いモノが山ほどあるんだ! 少しだけ、ほんの少しだけのつもりだったのにいつの間にか……」


 ああ、哀れなるかもねぎよ。使い込んでしまうとは情けない。


 俺は──肩には手が届かないから仕方がなく──腰を優しく叩いて慰めるのだった。


◇◆◇◆


 だらだらと談笑しながら歩いていれば、完全にお昼時となっていた。「異民と森」の食堂は賑わいを見せている。


 既にバルバロイの拠点に向かったのか、看板娘たるディエラは宿に居ない。ディエラ目当ての客がしょぼくれている姿を散見したので間違いないだろう。


「アルーこっちこっち~」


 テーブルの一席で金髪長身の美女が眩しい笑顔で手を振り、アルベルトがそれに応じる。


 彼女の装いは如何にも冒険者然としていて、革鎧に金属の胸当て、若草色のインナーに灰白色のレギンス、革のブーツを着こなしている。


 正に美女。アルベルトに対する嫉妬(しっと)心がムクムクと沸き上がるくらい素敵な女性である。


 青年と共に金髪美女の待つテーブルへ向かうと、今度は美女の隣にいた褐色の少女と目があった。


「ん? その子、どうしたの?」


 俺よりも少し背の低いくらいの小柄な少女は、やや黄みを帯びたピンク色のショートヘアに深紅の瞳、あどけなさと鋭さが混在した成長途上の美を(かも)し出している。


 これまた美少女。野郎に対する嫉妬の念が臨界点に達しそうだ。


 前世においてイケメン女たらしの親友が言っていたことだが、女性との出会いは最初のつかみが大切らしい。ということで、まずは先制のジャブ!


「初めまして。父さんの隠し子、ロウです。仲良くしてもらえたら嬉しいです」


 折り目正しく一礼して告げると、女性二人がギョッと目を見開いた後、非難するように白い目でアルベルトを見た。


「ちょ! ふざけんなお前ッ!」


 ガハハハ焦ってやんの。男一人女二人のハーレムパーティーなんぞ糞食らえだ、童貞の逆恨み舐めんなよ。


 とはいえ、ふざけすぎるのも問題だ。まともなあいさつを付け加える。


「すみませんちょっとした冗句です。アルベルトさんとは先ほど知り合ったばかりですが、気が合うので一緒にお昼を食べよう、ってことになりまして」

「そうそう……ガキとは思えねえくらい人を食ったやつでさ、何かもう友達同然になっちまってな」

「「へぇ~~」」


「色々待たせて悪かったな。飯にしようぜ」

「ご相伴(しょうばん)させていただきます」


 従業員を呼び寄せ「異民と森」のおすすめ料理を四人分頼んだところで、簡単な自己紹介が始まった。


「どうもどうも、ロウです。隠密行動だったり体術だったり、斥候(せっこう)みたいなことは得意ですね。彼女はいませんフリーです」


「斥候かあ~。確かにロウ君、闇に紛れると見え辛そう……」

「体術……でも、線は細いよね。ちょっと手合わせしてみたいかも」


 女性二人の反応はまずまずだろうか──そう考えていると、アルベルトが若干の呆れ顔を滲ませつつも質問をしてきた。


「なーにが彼女いませんだよ……っていうかお前、『小さく黒い影』だろ? 手配書みたいな仮面でも白髪でもないが……さっきの話と身のこなし、その背格好を見りゃ予想が付くぞ」


 彼の言う「小さく黒い影」とは、リマージュを拠点にしていると噂される盗賊だ。


 (いわ)く、白面を被った白髪のその姿は十歳にも満たぬ子供に見えるが、恐るべき身軽さを持ち城壁さえも悠々と超えていく。


 曰く、その者は極めて高度な開錠術を持っており、彼の前ではいかなる金庫も扉も用を成さない。


「──『曰く、その正体はまさに正しく美少年』でしたっけ? やだなあそんなに褒めないでくださいよ」


「それは聞いたことねえよ。というか仮面被ってるだろうが」


 ──「小さく黒い影」が狙う対象は、潤沢な資金を持つ大商人や貴族たちに絞られている、とされている。実際にはここに盗賊やら強盗やらの同業者らも含まれるが、噂にはのぼっていない。


 しかしここ半年、リマージュ近隣でも「小さく黒い影」に活動は見られない。拠点を変えたのか命を落としたのか、それとも姿を変えてしまったのか──。


 そんな噂はリマージュでは広く知られているため、アルベルトが俺の正体へ言及したのは悪意からということは無さそうだ。人前で盗賊ってばらすのは止めてほしいけどな!


「行方知れずの噂がある通り、盗みはもう足洗ったのでパスですけど、噂に恥じない斥候技術を持っているつもりですよ。南であった時はよろしくお願いしたいですね」


 そういって自己紹介を締めると、隣にいた褐色少女から質問が飛んでくる。


「ロウも南に行くの? 一緒に護衛依頼受けるわけじゃない?」


「南へ向かう予定ですが別口での移動ですね。旅支度は整ってるんですけど、まだ色々買い足していきたいですから」


 なるほどといった様子で頷く少女と、ニコニコ笑顔でこちらを見ている美女。なんだか落ち着かない。


「それじゃあ次は俺だな? アルベルトだ。『竜殺し』の二つ名を持つ凄腕の冒険者だぜ」

「自分で凄腕って言っちゃうところが台無しですけど、『竜殺し』は本当に凄いですよね」

「パーティーリーダーとしては計画性に欠けてるけど、戦闘だと物凄く頼りになるのよ~」

「行き当たりばったりだけど、義理堅くて良いやつ」


 おおむね好印象なアルベルト。きっと(都合が)イイやつなんだろうなあ。


「一言余計に言わなきゃ気が済まねーのか、お前らは……まあなんだ、よろしくな、ロウ」


「じゃあ私ね? レアよ~。目立つのが嫌だから耳をベールで隠してるけど、エルフなの。魔術や弓で牽制してることが多いかな?」

「レアはフォローが上手。いつも助かってる」

「野営で寝床作るときのレアの魔術は凄いぜ? 簡易なのが勿体ないくらいだ」


 少女とアルベルトがほめそやし、レアは気恥ずかしそうに手を振っている。恥ずかしがる美人というのはとても良いものだ。眼福である。


「是非とも見てみたいですね。機会があればお願いします」

「ロウ君に見せても恥ずかしくないよう、魔術を磨いておくわ~」


 冒険者と言えば旅、旅といえば野営というのが俺のイメージだ。快適な寝床を(こしら)える技術というのは是非とも見てみたい、あわよくば技術を盗みたいところである。


「最後は私、アルバ。単純な力はアルベルトよりも強いよ。土魔術が扱えて、皆の装備の手入れも担当してる。ドワーフの血が入ってるから鍛冶も少しできる」


「マジで俺より怪力だからな。魔力で身体強化してるとはいえ、岩竜の甲殻(こうかく)を打ち砕いたときはちびったぞ」

「もうっ。女の子に怪力とか言わないのっ」


 レアがアルベルトを(いさ)めているのを眺めながら、語られた内容に戦慄する。


「岩竜の外殻を砕くとなると、そこいらの冒険者が束になっても敵いそうにないですね」

「そうだぜ? この前なんか絡んできた野郎を片手で捻りつぶ──」


 突如身を震わせ言葉を切ったアルベルト。しかし時すでに遅し。あいつ死んだな。


「生き急いでるなら相手になるよ? アルベルト」


 そんな彼へ視線を向け、目を細めるアルバ。彼女の小さな体からは考えられないほどの覇気が滲み出るが……傍から見てるだけでもめっちゃ怖いです。


 大の大人がブルブルと壊れた人形のように首を振る様は哀愁(あいしゅう)をさそう。ここは一つ、話をそらしとくか。


「力強いだけじゃなくて整備も魔術もできるのは羨ましいです。ご一緒することがあれば是非とも教えてもらいたいですね」

「うん。整備は大事。命を預ける道具のことだから、覚えておいて損はない」


 少し得意げに語るアルバは、先ほどの覇気をまき散らしたときと打って変わって少女らしい可愛らしさだ。無事話を逸らせたようで一安心である。


 その影で、助かったとばかりに小さく息を吐く青年。貸し一だぞこの野郎。


◇◆◇◆


 ちょうど全員の紹介が終わったところで配膳が完了した。


「おうおう、昨日の夜も思ったが豪勢だな。一泊小銀貨二枚で二食付きなのは凄いぞ」


 早速肉料理にありつきながら語るアルベルト。小銀貨一枚は日本円にしておよそ千円、宿泊すると昼夜二食が付いてくるため、宿泊客にはとてもありがたい価格設定と言えよう。


「お肉の臭みが無くて食べやすいわねえ」


 そう語るはレア。灰汁(あく)をとった上で酒を使い臭みを飛ばしているため、猪肉の食べ辛さを解消できていると、宿の看板娘たるディエラが語っていた気がする。


「ん。旨い。串ごと食べられるのは楽」


 アルバは魚を頭から豪快に食らっている。串は木製ではなく小麦を使った乾麺で、そのまま食べることが出来るのだ。今回はないが、スープ料理に入っていることもある。


 仮とはいえ自分の所属する店が褒められるのは嬉しいものだなと三者三様の反応を眺めつつ、食べ放題のバゲットを(むさぼ)り食らう。


「わざわざ身体強化してまで固いパンを食うって、どうなんだそれ」


 アルベルトに呆れられたような気がしたが気にしない。食事とは(いくさ)なのだ。


「そういえば、三人はどんな成り行きでパーティーを組むことになったんですか?」


 バゲットを一本丸々平らげたところで、この世界の知識を引っ張り出しながら三人へと質問をしてみた。


 レアの種族たるエルフと言えば森の中で里を作り、そこに引きこもって生活するため、同族以外との交流が皆無だということで有名だったはずだ。


 一方で、アルバに流れている血の半分、ドワーフはといえば、これまた引きこもることが知られており、山に根付き麓に町を築く種族である。


 いずれにせよ、旅に出たり人間族──ヒューマンの国で冒険者となったりするものは多くない。そんな彼女たちがどうして冒険者となっているか興味惹かれたのだ。


「私は里での暮らしに飽き飽きしちゃってねえ。人間族の町に降りてきて冒険者で身を立ててたんだけど、最初の頃は声掛けられることも多くて大変だったわ~」


 詳しく聞けば、すり寄る男どもをエルフにのみ伝わる魔術や己の腕力で蹴散らしたらしい。ふわふわしてるかと思いきや、意外に過激なお方だった。


「しばらくその町に住んでたんだけど、少し面倒臭い人たちに絡まれちゃってねえ。その時に色々助けてくれたのがアルだったの」


「エルフで冒険者やってる奴がいると聞いて、一目見ようとビルバオ──西の王国にある町だな、そこに向かってみたんだ。そしたら貴族と揉め事起こしててなー」

「もうっ。細かいことはいいじゃないの。とにかく、そこでアルと会って、一緒に冒険者として行動することになったの」


 何やら思い返したくもない事だったのか、いきり立つレア。とはいえ、美人がプリプリ怒っても可愛いだけである。


「なるほど。駆け落ちだったわけですね」

「「違うから!」」


 要約すると同時に否定されてしまった。


「それから港町の方へ行ったり王都の方へ行ったりしながら旅をして、王国の南、ガイヤルド山脈の麓にある鉱山街へたどり着いたんだ」


「あの時もちょうど今みたいに、魔物被害が大きいから依頼が沢山あるぞ~っていう理由で、その街までの護衛依頼受けたんだったね~」


 楽しそうに話すレアとは違い、アルベルトの表情は何処か硬いものだ。


 多分王都辺りでお金使い込んだんだろうなあ。アルベルトだもの。


「おい。そんな目で見るなロウ。装備と旅具揃えたら資金が尽きかけただけだ」

「尽きかけたのかよ!」


 やっぱりこいつは金を持たせると駄目な奴だ。


「その鉱山街、シエラスで私はアルベルトとレアと出会った。アルベルトたちは装備の整備がしっかりできる仲間が欲しかったし、私は町を出たかった。だから魔物の討伐依頼を一緒に受けて、そこで力を示した」


 アルベルトの言葉を引き継ぎ、アルバが端的に語る。渡りに船というところだろう。


「即断即決って感じですね、アルバさんは」


「ああ、あれには驚いたな。冒険者組合で依頼探してたら、身の丈よりも大きい鈍器を持った女の子が、いきなり話しかけてきたからな」

「いきなりって訳でもない。町の外からきた人で、それも長居はしなさそうな人に絞ってた」


 簡潔な言葉で語る彼女は中々に計算高い。アルベルトに足りないのはこういうしたたかさかもしれない。


「お前な、毎回そんな目で見られるとな、傷つくんだよ俺も」

「いやいや、不足しているところを補い合える、良い関係だなと思っただけですよ」

「! そうか、そうだよな! 流石ロウだ、それでこそパーティーってもんだしな!」


 アルベルトはリーダーとして上手くやれていたのか思い悩んでいたようで、月並みな言葉でも第三者から評価されたことは大きな意味を持っていたらしい。


 チョロいやつだ──と思わないでもないが、女の子二人と旅するのは役得(やくとく)というより気疲れが大きそうだ。前世でも今世でも童貞の俺には想像もつかない境地である。


 嫉妬心から崇敬(すうけい)の念へ鞍替えした俺は、アルベルトに対し優しく接することを決意する。


 その後も初対面とは思えないほど話は弾み、楽しい昼食はあっという間に終わったのだった。

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