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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第二章 工業都市ボルドー
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2-12 理不尽極まる太極拳

 乾いた破裂音に重苦しい衝突音。俺と美少女とのキャッキャうふふなショッピングは、この不測の事態で強制中断だ。


 瞬時に聴覚強化。音の発生源を一階吹き抜け方向と同定した、ところで──柏手(かしわで)一拍(いっぱく)。周囲に良く通る声が木霊(こだま)する。


「皆様、どうか落ち着かれますよう。当商店は国の騎士同様の訓練を積んだ警備兵が有事に備えています。入店前に武装解除を行っているため、どのような不埒者(ふらちもの)が出ても直ぐに鎮圧可能です。ご安心を」


 声の主は魔術で素早く簡易演説台を創ったヤームル。まだ幼さの残る姿からは想像できないほど堂々とした演説は、大人でも聞き入ってしまうほど様になっていた。


「フィエン、アイシャ、シータ!」


「「「はっ! ここに!」」」

「お客様の皆様の安全を確保した後、避難の誘導をなさい。安全を最優先にね。私は現場付近の職員と協力して、不埒者(ふらちもの)をとっちめてきます」

「「「はい!」」」


 迅速に指示を出していく少女は実に堂に()って──って、お前が動くんかいッ! 流石にそれは不味かろう。


「ロウさんもお客様と──」


「俺も付いていってもいいですか? 武装もない状況で騒ぎを起こす連中ってのを見てみたいもので。万が一相手の腕が立つ場合、こちらの手札も多いほうがより安心ですよ。自分で言うのもなんですけど、俺って相当な実力者ですし」

「──結構わがままですよね、ロウさん。敬語辞めたくなってきました……」


「その方が堅苦しくなくていいかもですね。こっちも軽い感じに変えますが、目に余るようなら言ってください」


 万が一を考えて同行する旨を伝えると、疲れた顔で思案するヤームル。如何(いか)に知り合いとはいえ、客が同行するというのは抵抗があるようだ。


 それでも俺の実力を知っている彼女である。すぐに頷きが返ってきた。


「では、音の発生源と思わしき場所へ向かいます。無茶しないで下さいよ?」

「了解」


 こちらも短く返して行動開始。彼女が口調を改めると、途端にサバサバ女子感が(かも)し出されるから不思議だ。


 ──仮に彼女が転生者、それも俺より前に記憶が目覚めていた仮定すると、そんな彼女の能力にも納得は行く。


 俺がこの世界で地球での記憶に目覚めたのがほんの一週間ほど前。僅かな期間に実績を積み重ねられるとは到底思えないし、記憶があるとすれば時期が俺より早いのは間違いないだろう。あるいは、生まれながらに記憶を有していたのか……。


 いずれにしても、転生初心者である俺の先輩にあたる。今後はヤームル先輩とでも呼ぶか? 彼女が地球の記憶を持っていれば、の話ではあるが──。


「ここですね」


 下らないことを考えつつも疾風のように駆け、吹き抜けエリアへと到達。何気にヤームル先輩の身体強化も並ではなかった。


「……」


 階下には三人の闖入者(ちんにゅうしゃ)(たむろ)していた。周囲には魔術によるものと思われる破壊痕が随所に見られ、死傷した警備兵たちの姿もある。


 できるだけ早く生存者を助けたいところだが……彼ら以外の人員は不明。闇雲には突っ込めない。


 気配を消したまま手すりへと近づき、彼らの会話を拾うべく聞き耳をたてる。すると──。


「──ハハッ! 意外と大したことねーな! こんなに楽ならこっちで正解だったぜ」

「無駄口を叩くな。ここの警備兵は騎士並みだ。群れてこられると三人では不味い。時間を稼いだらすぐに撤退できるよう遅延魔術を準備しておけ」

「次の増援がきたら撤退で良いんじゃない? 本隊もそんなに時間が掛からないでしょ」


 などという会話が耳に入った。どうやらこの場は三名だけらしい。

 たった三名で警備兵を無力化しているし、実力がある故なのだろうが……なんとも緊張感に欠ける会話だ。


「ここに居るのはおもっくそ陽動みたいですね。売上金や金品の保管庫の警備はどうなっていますか?」

「万全のはずですが、妙に自信ありげなのが気になりますね。面倒ですが、話せる程度に(おさ)えて鎮圧しなければなりません」

「さいですかー」


 小声で隣の少女へと話しかけると恐ろしい答えが返ってきた。喋れないくらいメタクソにするつもりだったらしい。


 とはいえ、自分のところの従業員に死傷者が出ている以上、ヤームルの怒りも当然のものだろう。


 ……俺も盗賊時代に仲間を守るためとはいえ、衛兵を殺したことがある。


 当時は割り切ってたのかもしれないが、今の俺の倫理観では中々(こた)える事実だ。復讐(ふくしゅう)のような大義名分のない、単なる強盗殺人なのだから。


(ロウッ! 聞こえますか!? 大変なのです!)


 感傷におぼれつつヤームルと共に連中の動向を探っていると、ギルタブからの念話を受信。


 そういえば念話なんてものもあったねと思い出すが、こちらから話すことはできない。レシーブ専用である。


(返答がないのです……まさかロウの身にも何かっ!?)


(落ち着け馬鹿。そもそもロウは念話ができないだろう。それに、あいつは殺しても死なないような奴だ)


 サルガスも念話通信に割り込んできた。その信頼感は嬉しいけど……君、扱いが何気に酷くね?


(ううっ、そうでした。ならば状況報告だけすべきですね。ロウ、現在私たちは盗人の手に落ちています。どうやら客の魔道具や武装を保管している倉庫を狙った犯行のようです。今はまだ店内にいますが、すぐに脱出してしまいそうなのです)


 なにやらギルタブたちが誘拐……じゃなくて盗難にあったらしい。念話で位置を教えてもらえば済むし、そう焦るものでもないけども。


(複数名による計画的な犯行と思われます。恐らくは脱出後にアジトのような場所で落ち合うでしょうから、判明次第念話で報告します)

(早めに助けにこいよー)


 ギルタブはやや焦燥に駆られていたが、サルガスなどどこ吹く風だ。盗まれても所有者が変わるだけだからだろうか?


 曲刀たちの念話が終了したところで、武器を準備していたヤームルが作戦内容を話す。


「そろそろ逃げそうな雰囲気ですね。私が奇襲をかけますから、ロウさんは失敗時のフォローをお願いします」

「了解。と言っても失敗する気がしないですけど」


 相手は腕利き三人だが、奇襲の優位性は非常に大きい。ましてや儀式魔術を単独で扱うヤームルである。加減を間違わないかどうかの方が心配なくらいだ。


 うーん、俺のお荷物感。我がまま言って付いてきたけど、別行動の方が良かったか? ギルタブたちを盗んでいった本隊がいるらしいし……。


 いや、付いてきた以上今更か。ここはヤームルが失敗したときのために後詰(ごづめ)待機だ。


「では、始めます」


 大きく広げられたヤームルの両手に複雑な魔法陣が浮かび、右手に握られた短刀が光り輝く。


 この世界において、魔術は発動者によって効果の増減は起きない。


 だが杖や宝珠、アミュレットやタリスマンなどの魔術触媒(しょくばい)を用いることで、効果を高めることができる(と曲刀たちが言っていた)。彼女の持つ装飾が美しい短刀も、そういった道具の一つのようだ。


「……? なんだ──ッ!」


 賊の一人が高まる魔力に気が付いたようだったが、遅きに失する。


 ヤームルは祈るように胸の前で両手を合わせると、ナイフに込められた魔力を解放し術式を発動させる。


 遅延された魔術の総数、おおよそ二十。蹂躙(じゅうりん)の始まりである。


「──はあっ!」


 賊を隔離(かくり)するための障壁展開に始まり、彼らをまとめて吹き飛ばす爆炎。


 回避を許さず寸分の狂いなく肉体を貫く雷光に、商品ごと巻き込み猛り狂う暴風。フロアを凍てつかせ、這いつくばればそのまま縫い付けてしまう吹雪。


 どう考えても人が生き残れるものではない、大魔術の乱舞である。


「うわぁ……」


「ご安心を。アレでも生きているようですから。健康体ではないでしょうけどね」


 口角を上げて話す彼女は大商人の娘というより悪の組織の女幹部。話せる程度に抑えるって話じゃありませんでしたかね?


 少女の蹂躙(じゅうりん)がひと段落したところで、障壁を解除した彼女が二階から飛び降り、凍り付いた床面へと着地。


 俺も続いて飛び降りて辺りを見回すが……もはや一階は廃墟(はいきょ)同然。賊が荒らした被害よりも、彼女の魔法で破壊された被害の方が大きいような気がする。


「ああ、生きてますけど……あれじゃ喋れないんじゃないですかね」


 見回すうちに第一生存者(?)発見! 紅一点だった女性はぼろ雑巾のように転がっていた。


「──クソがッ! 何だってんだよ!」


 女性に近づこうとすると、第二の生存者が立ち上がる。三人組のうちのチャラそうな男。(わめ)くそいつは生傷だらけだが、身動きできる程度には元気なようだ。


「丈夫ですね」


 短い言葉と共にヤームルが遅延術式を解放する。


 紫色の魔法陣が浮かび上がり、同時に対象へと向けられた指先から走る電撃。立ち上がった男に避ける間などなく、あえなく直撃。


「ガァッ!? ハッ……」


 奇怪な姿勢で硬直し再び地へ伏す哀れな男。ぴくぴくと痙攣(けいれん)する様には同情を禁じ得ない。


 男が倒れ周囲に静寂が訪れた。が、三人目は見当たらない。


「一人見当たりませんね」


「上手い事逃げたんですかね? 少なくとも見える範囲には──」


 ──油断。というより、意識の外。


 突如として床から生えた腕に足を(つか)まれ、ヤームルが引きずり倒された。


「ヤームルさん!?」

「ボクの相手は、こっちだよ!」


 同時に、身動きのなかった女が強襲!


 ボロボロだったのは見かけだけ。拳と蹴りのキレは衣服がぱっくり割れるほど。刀剣並みの鋭さだ。


「こん、のぉっ!?」


 女へ応じる最中(さなか)に盗み見れば、床から現れた男に宙吊りにされた少女が遅延魔術の展開を行う姿。だがそれも、腹部へ強烈な拳をねじ込まれ強制的に中断された。


 逆吊りのままえずいた少女へ、男は(くわ)で大地を掘り返すように叩きつけ。


 凍り付いた床が砕け、(にぶ)い衝突音が嫌に響く。


「かっは……」


「化け物が。これだからここを狙うのは嫌だったんだ」

「まーまー、生きてるんだから良いじゃん? こっちの子もサクッとヤってオサラバしましょー。あ、でも、それなりに動けるみたいだから気を付けてね」


 少女を放り捨てた男が吐き捨てるように呟くと、俺から距離を取った女があたかも仕事が完了したかのように(なだ)める。


 横目でヤームルの様子を(うかが)えば、意識は無さそうだが最悪の状況ではなさそうだが……どうするか。


「酷いことしますね。陽動が終わって後は帰るだけって感じですか?」


 じりじりと後退しながら賊へ話しかける。いかにも逃げる機会をうかがっているかのように。


「時間を稼ぐつもりなら止めておいた方が良い。楽に死ねなくなるだけだぞ? 俺たちの会話をどこから聞いていたかは知らんが、見逃すことはできん」

「ジェイクさん容赦ないもんねー。ボク~お姉さんなら楽にヤってあげるぞぉ~」


 連中の空気は既に弛緩(しかん)している。大魔術を放ったヤームルは行動不能だし、俺は応戦時の格闘術しか見せていない。少々腕の立つ子供程度にしか見えないのだろう。


 それにしても……盗賊団というより、略奪(りゃくだつ)のためにはあらゆる手段にうったえる強盗団か。


 階下から見ていた時にバルバロイでのことを思い出したが、比べるものではなかったようだ。


 ──それなら心置きなくぶちのめせるってもんだ。


「──ガァッ! あのクソガキ! ぶち殺してやるッ!」


 俺が意識を切り替え終えた丁度その時、電撃でのびていた男の意識も戻る。


 とても良いタイミングだ。連中の注意が逸れるから。


「いやーカスパーが(おとり)になってくれて助かった! 今回の功労者だよ!」


「確かにあのまま──ッ!!?」


 手始めに暢気に会話する連中の足元を水魔法で凍らせ、動きを封じる。


 次いで吹き抜けエリアと外部を遮断(しゃだん)する岩壁の生成。生きていた警備兵らの安全も確保完了だ。


「……なにこれ?」


「おいおい、こっちのクソガキもやべえじゃねえか。割に合わねえぞ」

「黙れ馬鹿が! 足を見ろ! 凍らされているんだぞ!」

「ゲェッ! マジじゃねーか!?」


 騒ぎ立てる賊どもを無視して倒れているヤームルも岩壁で護り、安全対策の全てを終える。


 後は、ぶちのめすだけだ。


「フッ!」


「「「っッ!?」」」


 制限していた魔力を全力解放。(ほとばし)る魔力が凍り付いた床面を鳴らし、岩壁を(きし)ませる。


 豹変(ひょうへん)した俺に狼狽(うろた)える賊たちだが、慣れるまで待つつもりもない。


「一応勧告を。抵抗せずあなた方のアジトを教えてくれたら、警備兵に突き出して終わりにしますよ」


 魔力を練り上げ悠然と歩み寄り、傲岸不遜(ごうがんふそん)な最後通牒(つうちょう)を突き付ける。


「……抵抗したら?」


 先ほど俺と殴り合った女が言葉少なに問う。玉のような汗を(したた)らせる彼女に対し、口角を吊り上げて応じる。


「そりゃあもう。ご想像にお任せしますよ」


 勧告終了。蹂躙(じゅうりん)開始。


 ぶっ潰す!


「──散れッ!」


「「っッ!」」


 俺の両手を広げる動作を見るやいなや、素早く散開する三人衆。足元の氷は既に砕いていたようだ。


 ヤームルの魔術でボロボロにされていた割に、連中の動きはいい。

 あの魔術の嵐を防いだのは一体どういう仕組みなんだか。


「囲んじまえば袋だぜッ!」


 散開した彼らは間を置かず、機先を制すように三点同時攻撃を仕掛ける。


 側面から首と胴。背後からは足。

 急造ではない息の合った連携攻撃が、ほぼ同時に迫る!


「死に腐れッ!」「ぶちまけなっ!」


「やなこった!」


 応じるこちらは腰を落とし正面を向いたまま、魔力感知と太極拳(たいきょくけん)にて受け流す。


()ッ!」


 首へ迫る手刀を、手の甲付け根の橈骨(とうこつ)で円を描くように弾いていなし。

 反対側から襲う中段回し蹴りに、腰部の回転を乗せた肘を合わせて応じ。

 背後の下段回し蹴りは、後ろへと蹴り上げた(かかと)で勢いを殺して受け止める。


「「「!?」」」


 我ながら曲芸めいた受けだ。録画出来るなら後で見返したいくらいである。


「チッ!」「こんのっ!」「ぬんッ!」


 一撃で終わると思っていはいなかったのか、彼らは体勢を崩さず更なる連携へ繋いでみせた。


 弾かれた手刀は膝蹴りへ。防がれた回し蹴りは横蹴りへ。下段回し蹴りは脇腹を狙った(かぎ)突きへ。


 流れるように連撃が我が身へ叩き込まれるが──。


「──()ァッ!」


「「「──ッっ!?」」」


 ──それらへの返答、陳式(ちんしき)太極拳小架式(しょうかしき)金剛搗碓(こんごうとうたい)ッ!


 溜めていた呼吸を鋭く吐き出し、同時に腹式呼吸(ふくしきこきゅう)の逆の要領で身体の内から外へと発勁(はっけい)


 座禅を組むような所作でもって己が身を剛体(ごうたい)と化し、突き刺さる三人の攻撃を弾き返すッ!


 おまけで、蹴り上げていた足を叩き落して震脚。


 発勁と禅を組む所作で勢いを上乗せした踏み込みは強烈な衝撃波を生み、周囲を強襲。体勢の崩れていた攻撃者たちを纏めて吹き飛ばし、岩壁に叩きつけた。


 凍り付いた床面が大いに砕け、岩壁内で爆音が反響する。ただの一撃で奴らは瓦解(がかい)したのだ。


「げはッ!?」「ぐぅっ」「がッ……」


 攻撃した側が吹っ飛ばされる珍現象。こちらも多少は痛いがあちらはもっと痛い、理不尽極まる技である。


 やっててよかった太極拳!


 金剛搗碓はともかく、震脚の衝撃波で吹き飛ばすなど本来の用途から外れているが、気にしてはいけない。


「ガハハハ! 死ぬがよい!」


 広げた両手を胸元で打ち鳴らし、駄目押しの追撃構築。


 祈りにも似た所作で思い描くは、先日異形の魔物が放った大魔法。凶悪無比なる石の槍。


 岩壁で保護しているヤームルの位置にだけは気を配り、発動準備万端。


 魔力の操作量は全力の半分程度。さっきの魔術の嵐を生き延びた彼らなら、きっと死ぬことは無いだろう。


 というわけで──くたばりやがれ!


「げほっ……何か分からんけどヤバいよっ! 鳥肌尋常じゃないっ」

「防ぐ努力でもしてろッ!」


「どっせいッ!」


 掛け声とともに土下座平伏(へいふく)


 地鳴りような音が(とどろ)き、建物全体が悲鳴を上げるように振動し──魔法発動。


 地面壁天井。天地全てから石槍が突き出し、賊たちへ殺到する!


「「「うおおおぁぁぁっッ!?」」」


 石で埋め尽くされる空間、そして破砕音と怒声。


「クッソッがァ!」

「だりゃあぁっ」


 気合の咆哮と共に石林を砕き割って出る三人組。


 全員血だらけ。かたや大小様々な石槍が腕や脚に突き刺さったままの男。かたや両腕がひしゃげ血反吐を吐く女。リーダー格の男──ジェイクは相当やるようで、衣服が赤で染まりながらも四肢は無事のようだ。


 共通していたのは、なにやら青白い光を放つ手甲に足甲。それには魔力の(よど)みが見て取れる。店の売り場で見た高級な防具と同じである。


 ヤームルの魔術に耐え切れたのも、この防具による魔術への干渉があったからかもしれない。俺の魔法は術式を介さない物理的なものだったため、軽減はできなかったようだが。


「──化け物がッ!」


 そうやって様子を観察していると、比較的無事だったジェイクが石林から脱出。姿勢低く飛び掛かってきた。


 その鋭さはレスリング選手のタックルを彷彿(ほうふつ)とさせるものだが……肉弾戦は俺の領分(りょうぶん)(おく)れをとろうはずがない。


(ふん)ッ!」


「ゴッ!?」


 男が着地する前に距離を詰め、震脚と共に裏拳正面打ち下ろし──八極拳(はっきょくけん)大八極(だいはっきょく)反砸(はんざ)で、顔面を打ちのめす!


 叩きつけられるようにして地面へ沈んだ相手に、おまけの追撃。両腕の骨を拳で砕き、両足の膝を踏み砕く。


 一人終了。残るは二人。


「「……待てっッ」」


「待ちません」


 無慈悲に接近し、男の腹へ内臓破裂パンチ。女の胸部へ胸骨破砕キック。


「ぎゃあッ!?」「ごふっ……」


 両者沈没、戦闘終了。


「ふぅ……」


 汗をぬぐい身だしなみを整え息を吐く。

 終わって見れば、実にあっさり片が付いたものである。


 ……こいつらも相当強いはずだけど、負ける気がしなかったな。やっぱりドレイクや異形の魔物が強すぎただけで、俺の戦闘能力も大概ぶっ飛んでいるようだ。


 こういう時にサルガスやギルタブがいてくれたら、思い上がらずに済むんだけども。


 いつの間にか曲刀たちと一緒にいるのが自然になったんだなと実感しながら、俺は岩のシェルターで保護しているヤームルの介抱へと向かった。

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