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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第九章 魔神と人と
297/318

9-11 受容

〈──消えっ、失せろっ!〉


 降り注ぐ閃光、沸騰する石畳。


「お前がッ、なッ!」


 突き上げる氷塊、冷え固まる地面。


[[[ギギギッ!]]]

「「「……っッ」」」


 やかましい蜘蛛(くも)眷属(けんぞく)と押し黙る避難民たちを前に、俺とベリアルの魔法が交錯し──爆発。辺りが白煙で満たされ、それが続く魔法の嵐で拡散する。


「……」


 本気の本気、白蜘蛛(しろくも)状態となった魔神ベリアルの魔法は、凄まじい。


 乱舞する光線。

 乱れ弾ける光球。

 刺し穿(うが)ち大爆発する光の槍。


 一つ一つが地面を融解どころか蒸発させる熱量でありながら、飛んでくる数は熱帯地方の豪雨の如し。地面も建物も武器防具も何もかもを焼き尽くす光の嵐は、あの古き竜たちを思わせる。


〈ちぃぃっ! カァァイム! 何を暢気(のんき)に賑やかしている!? 余の眷属(けんぞく)ならば加勢しろっ!〉


[[[ギギッ!]]]


 その白蜘蛛が怒声をあげれば、輪となって囲む黒蜘蛛たちが瞬時に呼応。光の砲火が加速する!


 煮立つ地面は津波の勢いで面積を増し、降り注ぐ光は際限なく量を増す。輝く溶岩に溢れる光線、地獄だか天国だか分からない光景だ。


「光と氷っ、すっごい! 使徒様すごい!」「さ、騒がないの! 使徒様、皆様、申し訳ありません……」


 そんな最中(さなか)に響く無邪気な少女の声と慌てる少女の声。どちらもこの場によく響いたが、答えも(とが)めも返ってこない。


 それも当然。俺の背後に固まる人々は全て、俺の水魔法とベリアルの光魔法に度肝をぬかれているのだから。避難民たちを鼓舞(こぶ)したあの剣闘士さえ、言葉を忘れて凝視しているくらいだ。


「「「……」」」


 降り注ぐ光で闘技場は跡形もなく融け落ちて、周辺はもはや溶岩湖同然。光魔法の嵐と生まれ続ける溶岩は、絶え間なく俺たちに襲い掛かっている。


 しかしそれでも、千人以上にのぼる避難民たちは未だ健在。長蛇(ちょうだ)の列を作り縮こまる彼らは皆、氷の島に足をつけ氷の城に護られる。言うまでもなく、俺の魔法である。


 灼熱を創り出す魔神の光に、それを冷やして鎮める魔神の冷気。溶岩湖は拡張し続けるし氷の城は全く溶けない。白蜘蛛のベリアルと半降魔(はんごうま)状態の俺の力は拮抗(きっこう)していると言っていい。


(しかしロウ、このままでは……)

(わかってる。あいつの魔法が街を呑み込む勢いだし、他にも戦いの気配は幾つもある。悠長なことは言ってられない)


 遠く離れた南に銀の魔力。そして、東側には赤き魔力が入り乱れる。各所で仲間たちの戦いが勃発(ぼっぱつ)しているのは疑いようもない。


 おまけに、都市の中央部からは金の魔力と虹の魔力が大火のように立ち昇る。仲間だけではなく竜のことも念頭に置かなければ、この帝国首都は滅んでしまうだろう。


 となれば、如何(いか)にするか?


 答え: 切り札たる曲刀憑依(ひょうい)を使い、力の均衡(きんこう)を突き崩す。


 黒刀に負担を()いるため、憑依も長くは使えない。


 一瞬で片をつける。


(いつでも行けるのです!)

「頼むぜ、ギルタブ」


 頼もしき相棒に頷き憑依を開始。


 髪が逆立ちぞわりと伸びる。血肉魔力が(みなぎ)(たぎ)る!


「使徒様の、髪の毛が……っ!?」「わあぁっ! すごい! 使徒様、かっこいい!」


 全ての(かせ)が外れた俺の力。魔を増幅させる都市の結界。そして、力を限界まで引き上げる曲刀憑依。今この時の俺は、古き竜でさえも止めることができないだろう。


 全身余すことなく行きわたる全能感。この世の全てを握り潰せてしまうようなその感覚中で、ふいに思い知る。


 やはり俺は、闘争を求めてやまない魔神なのだと。この力を思うがままに振るって一切合切を破壊したくて仕方がない、魔の本性を(そな)えているのだと。


(……それでも、ロウ。貴方は人のために戦うのでしょう? 魔神としての破壊衝動を持ちながら、人の温和な気質も兼ね備える。相反するものの間に生まれ、その狭間(はざま)で揺れ動く……それこそが、ロウをロウたらしめていると思うのです)


 そんな俺を、相棒ギルタブは受容(じゅよう)する。


 魔としての側面を抑え込むでもなく、人としての感傷を切って捨てるでもなく。どちらも持っているのが俺という存在なのだと、彼女は包み込むように肯定してくれる。あるがままにあれ、と。


 ……恐るべき包容力である。曲刀なのに。危うく惚れるところだったぜ。無機物相手に。


(まーっ! ……言いたいことは色々ありますが、今は置いておきましょう。ロウ、時間がありません!)


 そう。今は憑依中かつ戦闘中。楽しいお喋りはやり遂げた後のために取っておこう。


「じゃあ──やるかッ!」


 迷いを受け入れ決意完了。


 虚無の魔神の本気の本気──見せてやんよ!


「おおおぉぉぉッ!」


 憑依で増幅した魔力に物を言わせ、氷の城を増築増強。


 白き氷を虚無の黒水晶へと変容させて、魔神の光を呑み尽くすッ!


「光が消えて……!?」「どろどろが固まってくー!」


〈ちぃっ。カイム! 直接壊せ!〉

[[[ギッ!]]]


 氷が発する虚無で光魔法が曖昧(あいまい)になるとみるや、砲撃に(てっ)していた眷属(けんぞく)たちが空間魔法を発動、瞬時に肉薄。


 万里(ばんり)長城(ちょうじょう)の如く伸びる黒水晶の城を、山のような巨体で踏みつけて──。


「わわっ!?」「ひッ……お、おお! びくともしない!」「流石使徒様です!」


 ──あえなく弾かれたたらを踏んだ。


 俺の氷は魔神の氷。眷属如きに砕けるはずもない。


「近づいてくれてありがとな!」


 感謝のしるしに魔法を構築。氷の城から(いばら)を撃ちだして、蜘蛛どもを締め上げ凍結させる!


[──ギッ!?][ギギギッ……]


 云十メートルあろう巨体が浮きあがり、凍り付いた蜘蛛たちが(はりつけ)となる。冷え固まった溶岩の上は、一瞬にして数多(あまた)の樹氷で埋め尽くされた。


「これが、使徒様の御力……」「あの恐ろしい魔神を、こんなにも簡単に」


「本体と決着をつけないといけないので、少しこの場を離れます。見ての通り護りは万全なので、皆さん仲良くやってくださいね」


「こっちのことはお任せ下せえ、使徒様」

「はいっ! 使徒様、がんばってください!」

「こ、こら。使徒様は皆に言ってるのよ」


 獣人の剣闘士や元気な少女に頷きを返し、城より出撃。砲撃をぴたりとやめたベリアルの下へ、氷を蹴り溶岩を蹴り移動する。


〈……〉


 攻撃をやめた白蜘蛛は完全に沈黙。俺に眷属(けんぞく)を殺されたことが尾を引いているのだろうか? そんな()()じゃなさそうだが。


「今更怖気(おじけ)づいたか? 白蜘蛛(しろくも)(おんな)。でも、もう遅いぜ。散々暴れ回ったツケ、きっちり払ってもらうからな」


〈……く、くくっ。怖気づくだと? やはり小童(こわっぱ)は小童か〉

「あ゛?」


〈周りを見てみろ間抜けな小僧。愚かにも氷の護りを捨てた己のな〉

「何を言って──!?」


 詰まらん負け惜しみが吐き出された──そう思った瞬間、視界を黒と白が埋め尽くす。


「……!」

[[[ギッギッギ]]]


 白は眼光。黒は外骨格。その二つが、空も地上も見えなくなるほどの壁を創る。


 言うまでもなくベリアルの手勢。先ほど氷漬けにした数の倍はくだらない軍勢が、光と共にぞろりと出現したのだ。


「……大層子だくさんだな? あんた。数十体倒されて笑い飛ばせるわけだ。蜘蛛()()()とこもあるんだな」

〈抜かせ愚物(ぐぶつ)が。カイム、(ずい)まで微塵(みじん)にしろ〉


[[[ギギギ!]]]


 白き巨蜘蛛が命じれば、黒き壁が全方位より押し寄せる。


 地面を(えぐ)り突進する蜘蛛。光の足場から降下する蜘蛛。


 魔法が効かないならば物量で押し通せ──そう言わんばかりの攻勢は、正しく津波。全方位に隙間なく、後続までもがぎちりと連なる大津波だ。


 されども。


「笑わせんなよ」


[[[──!?]]]


 大地をたわませ力の限り踏み込んで、正面に向けて拳を一つ。


 次いで側面から後方にかけて、腰部(ようぶ)のひねりを加えた回し蹴りを一つ。


 その衝撃が空間を砕いて伝播(でんぱ)して、押し寄せる蜘蛛たちへもろに直撃。黒光りする外骨格がぺしゃんこになり、轟音と共にきたねぇ花火が連鎖する。


 たった二撃(ふたう)ち。それだけで、百を超える軍勢は容易(たやす)瓦解(がかい)した。


 元より天と地ほどの実力差。更に今の俺は半降魔(はんごうま)にして黒刀憑依(ひょうい)中。眷属なんぞ、吹けば飛ぶ相手でしかない。


「向こうも、そんくらい分かって──ッ!?」


 疑問が像を結びかけた直後。


 目の前の空間がぐにゃりと揺らぎ──俺の()()()はカチ割られた。

この土日で三話更新(残り二話)予定です。

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