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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第七章 混沌の交易都市
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7-24 神魔竜会談、交易都市編

 黒煙けむる交易都市。


 その中心地で、街を荒らし尽くしていた邪竜を討伐し終えた集団が、情報交換を行っていた。


「──いや~、凄いもんだな。魔導国に手練れの冒険者がいるって話は聞いたことがあったが、変異した亜竜をこうも簡単に捻るとはなあ。アシエラさんたちがこの街へ流れてきてたのは幸運だったぜ」


「『竜殺し』のアルベルト殿にそう評してもらえると自信がつくよ。私たちはあの邪竜が何なのか分からないまま迎撃してたんだけど、貴方がたは何かご存じで?」

「ああ、それは──」

「──竜信仰の一団が召喚したみたいなんですよ! 『再誕の炎』っていう近頃活発に動いてた連中なんですけど、とうとう尻尾出したって感じです。いや~、それにしても、アシエラさんも妹さんも強いし綺麗だし可愛いしで、滅茶苦茶すごいっすね!」


 代表同士の会話に鼻の下を伸ばして割り込んだのは、冒険者にして転生者のベクザット。姉妹に合流した時は見惚れていた彼だったが、会話を聞いているうちに正気に戻ったようだった。


「分かりやすいくらいにテンション高いな、お前」

「あはっ。ありがとうございます、かな?──!」


 黒髪美少女がほんのり困り顔で応じたところで──突如、枯色(かれいろ)の流星が飛来!


「「「!?」」」


 熱波を撒き散らして地に降り立ち、灼熱の瞳でアルベルトたちを睥睨(へいげい)するは、王者の覇気を吹き散らす枯色の青年。人へと変じる若き竜ドレイクである。


「わはっ!? ドレイクさん、その登場の仕方はちょっと……」

「なりそこないの始末は終わったか。であれば、次へ行くぞ。じきにロウもくる」


「あんた、ロウと一緒にいた人か? というか、ドレイクって名前は──」

「──ひ~。お前、飛んでくのは無しだろ!」


 名を耳にしたアルベルトは、伝説の存在であり、かつて手痛い敗北を喫した相手「枯色竜」を彷彿(ほうふつ)としそうになったが──折悪(おりあ)しく褐色少年たちが到着。その思考が結びつくことはなかった。


「うお、ロウ!?」

「おっ、ロウ君だ。おかえりー。服変わった?」


紆余曲折(うよきょくせつ)……色々あって駄目になったんで、着替えちゃいました。アルベルトたちも、ご無事で何よりです。この様子だと邪竜はもう片付いちゃった感じですか?」

「ああ。ロウたちも加勢にきて──」

「──うおぉぉッ! 黒髪ツインテール! しかも褐色美人!? 最高かよ!」


 真剣な面持ちで状況把握に努めていたロウたちなど知らぬと声を上げるのは、またもベクザット。絵画の世界より抜け出たような美貌を持つフォカロルを前に、黒髪スキーな彼の理性は崩壊していたのだ。


「えっ、なにこの人。気持ち悪い。お兄ちゃん、消し飛ばしていい?」

「駄目に決まってんだろうが」


「えっ」「おっ、お兄ちゃん?」「どう見てもロウより年上なんだが」「どういうことなの……」


「ぐうッ、辛辣(しんらつ)。だが、それがいい! 素敵なお嬢さん、お名前を教えてもらっても?」

「やい、馬鹿ども。茶番もほどほどにしろ。妾は時間を無為にしにきたのではないのだぞ」


 一瞬で真面目な空気が吹き飛んでしまったものの、ここでウィルムが一喝。冷気を帯びた魔力を発散し、物理的に周囲を冷やしてみせた。


「そうだった。ちょっと外せない用事があるので、アシエラさんたちを回収していきますね。邪竜もいないみたいですし」

「えー? ここで衛兵の人を待ってないと、謝礼金もらえないかもだよう」

「割と急用なんで、すみません。それなりの埋め合わせはしますんで」


(……ロウの埋め合わせ予定、どんどんと積みあがっていきますね。貴方には一向に崩す気配がありませんが)

(そうでしたっけ? ウフフ)


 脳内で黒刀と益のないやり取りを行いつつ、ロウはこの場の責任者たるアルベルトに了承を求める。


「急用ねえ。今この時ってのは気になるが、まあロウだしなあ。追及はしないでおいてやるよ」

「ネイトの一件を抜きにしても、ロウは謎めいてるもんね」

「あの子の面倒、ロウが見るようになったんだっけ。元気にしてる?」


「してますよー。宿に戻ったらレルミナさんにも元気な姿見せるんで」

「ふん」「ようやく終わりか。我らは先行するぞ」


 少年の話が終わったとみるや、退屈していた竜二柱はただちに跳躍。熱と冷気の烈風を撒き散らし、貴族街を飛翔していった。


「「「は?」」」


「あいつら、本当どうしようもねえ……。それじゃ失礼しまーす」

「そういうお兄ちゃんも、結構雑だよねえ」


「いや、ちょっと待てって!」「え? 飛んだの?」「……」「クソ、速過ぎて美人さんの下着が見えねえ」


 当然騒ぎ立てるアルベルトたちだったが、ロウはこれを無視。説明の一切を放棄して走り出し、瞬く間に姿をくらました。遁走(とんそう)である。


「もしかして、置いてかれた……?」

「流石ロウ君だ。いつでも私たちの考えの遥か上……下? をいくね」


「はあ。しかたないなー。私についてきて」


 所在なさげに顔を見合わせていた姉妹に声をかけたフォカロルは、無責任の権化たる兄の後を追うのだった。


◇◆◇◆


 貴族街の中枢。幾重もの城壁が張り巡らされた内に、ジェリコ・ジラール公爵の住まう屋敷は存在する。彼の(めかけ)であるルネ・ジラール──魔神バロールも同様だ。


 現在、邪竜が暴れまわったことで堅固な城壁もいくつか損傷しており、その隙間を()ってロウたちは屋敷の敷地内へと侵入していた。


「──入ったはいいが、どうするか。事前に連絡してないし、正面からだと追い返されそうなんだよなあ」

「追い返される? 矮小(わいしょう)な人如きに魔神であるロウがか? 力でねじ伏せればよかろう」

「それが一番楽なんだけど、後々面倒になる予感しかしないし。今回はパスで」


 ごく自然に強行突破を提案したドレイクへ、ロウは竜ならばさもあらんと納得しつつ否定を返す。竜への理解が進んだ今、この少年も彼らの言動にも動じることが少なくなっている。


(面倒が起きないのならば採用するというのも、またなんとも……)

「急用じゃなけりゃ勝手に入ったりしないって」


「? お兄ちゃんどうしたのーって、ひょっとして意志ある武器と会話してる?」

「そうそう。フォカロルも大刀(だいとう)がそうなんだってな? うちの武器が姉弟だって言ってたぞ」


 などと会話する不法侵入者ら一行は、屋根伝いで敷地内を進む。


 いずれもが気配の一切を遮断(しゃだん)していたこと、黒煙が立ち込める状況下であったことで、彼らは周囲に発見されることなく目的地へ到着した。


「──ついた……けど、警備手薄だったな。つーかこのあたり、半壊してるじゃん」


()いだ湖面の如き気配に、(くら)むような金なる魔力。同族の気配はシュガールだったか」

「そのようであるな。あやつとバロールの因縁は浅からぬ。こうして冷えた怒りを発散しているのも道理か」

「怒ってるシュガールさんか。そういえば前にバロール様の名前を出した時も、凄い形相(ぎょうそう)になってたっけ」


 荒ぶる雷神に相応しい怒気を思い出しながら、ロウは屋根からバルコニーへ移動。割れた窓ガラスを踏みしめ家具や瓦礫の散らばる室内へと踏み込んだ。


「きたね。魔神に若き竜、それぞれが二柱。改めて見てもおかしな集団だ」

「それがルキフグスの娘だという魔神か。色濃い“深紅(しんく)”の魔力、確かに奴を感じさせる」

「いらっしゃいロウ君。……それに、フォカロルも」


 廃屋(はいおく)のような室内で少年たちを出迎えたのは、神と魔神と竜である。魔神と竜の魔力に気をとられ神の魔力に気が付けなかったため、一行はその存在に大きく動じてしまう。


「へ? 貴方は、あの時の神様!?」


「ミトラス!? 何故貴様がこの場にいる!」

「ほう、これが太陽神か」

「神に竜に魔神……私たちよりそっちの方がよほど変な集団だと思うけど? バロール」

「うふふ、確かに。貴女たちのお席もご用意していますから、どうぞお掛けください」


 憎しみの籠る視線も(やなぎ)に風と流した象牙色の美女は着座を(うなが)し、音頭をとった。


「それでは、神魔竜会談を始めましょう」


◇◆◇◆


「──話すことなんて何も無いよ、バロール」


 宣言を受け席に着いたロウと竜たちを尻目に、魔神フォカロルはバロールの言葉を切って捨てた。その深い茶色の瞳には色濃い憎悪が滲む。


「まあまあ。とりあえず席には着こうぜ、フォカロル。ミトラス神? やシュガールさんだって座ってるんだしさ」


「お兄ちゃん……ごめん、ちょっと無理」

「妾たち竜属が怨敵(おんてき)を前にして抑えているというのに、分からん奴だな。やいロウ、この者は異空間に放り込んだ方がよいのではないか?」

「いやいや、今回バロール様に話を聞く張本人だし、それはちょっと」


 深紅の魔力を(たぎ)りに滾らせ、半壊した室内に追撃を仕掛けるフォカロル。


 その圧力を空間魔法で逸らしたり、魔力の圧でもって相殺したり、屈するまでもないと正面から受け止める上位者たる面々。そんな中、彼女の怒りの元であるバロールが開口する。


「何度も言っている通り、彼を滅ぼしたのはワタクシではありませんよ。聞き分けのない子供のような貴女を見ていると、彼の理知的な気質が受け継がれなかったことが悲しく思えてしまいます」


「破壊を振りまく悪鬼が何を言うか! もういい、この場で滅ぼすっ!」

「うわッ、ちょいタンマ、待てフォカロル!」

「ははは。魔神同士の潰し合いか、良い見世物だ」

「とはいえフォカロルには先の戦闘がある。バロール相手では分が悪いであろうな」


「煽んな馬鹿!」


 相手の神経を逆なでするような言動をとるバロールに、どう転んでも愉快だとはやし立てる竜たち。


 そうやってロウたちが盛り上がる一方で──。


「……月白竜(げっぱくりゅう)、気付いたかい?」


「汝が『魔眼』で見抜いておいて、我が『竜眼』で見抜けぬ道理がない。バロールの見え透いた挑発は、あの魔力を呼び覚ませることが目的か?」

「恐らくはね。彼女の話を聞いたときは虚言(きょげん)かと思ったけれど。確かにあの魔神の頭部には……深紅ではない“臙脂色(えんじいろ)”が見て取れる」


 ──注意深く観察していた太陽神と月白竜は、フォカロルの発する魔力に彼女以外の魔力が混じっていることを看破していた。


「臙脂色の魔力。聞いた当初はバエルと考えたが、奴ではないな。アレは緋色(ひいろ)だ」


「フフフ、貴殿が知らない魔神のものだよ。天則(てんそく)たる僕は当然知っているけれどね」

「ハッ。バロールには見当がついているようであるし、汝が得意になって語らずとも明らかとなるものだ。当てが外れたか? ミトラス」

「そうだね。まさかバロールを憎んでやまない貴殿が、その彼女からの答えを求めるなどとは思いもしなかったよ」

「……」


 金髪金眼の少年が発した言葉に、分かりやすいくらいの青筋(あおすじ)を立てる銀髪の壮年男性。


 神に竜に魔神。どこもかしこも煽り合いばかりである。


 他方、竜と神とが睨み合う間に舌戦(ぜっせん)が過熱していた魔神たちは、いよいよその熱が臨界に達しつつあった。


「お兄ちゃんどいて。もう殺すっ!」


「ちょっと落ち着けって。バロール様もなんでそんなに煽ってるんですかね。これ以上は屋敷半壊どころじゃ済まなくなりますよ」

「うふふふ、ご心配なく。夫のジェリコは官邸にいますし、私の手の者以外は竜のなりそこないが騒動を起こした時点で、ここから避難させていますから。……あと少しといったところですね」


「む?」「フム」

「はい? 何の話ですか?」

「訳のわからないことを──ぐっ!?」


 バロールの意味深な発言に激高するフォカロルだったが──突如、(ひたい)を押さえて丸くなる。


「ん? どうかしたか──うげぇッ!?」


 突然言葉を切った彼女の顔を覗き込んだ少年は、腰を抜かしてへたり込んだ。妹の眼球から白く長い虫が飛び出す、奇怪極まる光景を目にした故である。


「出ましたね。では、手筈(てはず)通りにお願いしますよ。ミフル、シュガール」

「良かろう」「貸し一だね、ルネ」

「一体、なにが……」


「ぐうぅぅぅっ!」


 ロウが状況を理解する間もなく、フォカロルの頭部の虫が成長し──深紅と臙脂色(えんじいろ)の魔力が、屋敷の一角を消し飛ばした。

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