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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第六章 大陸震撼
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6-29 頂上決戦の波紋

 超絶美少女エスリウに手取り足取り指導した後、お昼時。


 魔術大学学生寮の食堂は賑わいを見せているが、やはり昨日の魔物騒動に関するうわさ話で持ちきりのようだ。


 具体的な内容は魔物騒動の規模に今後の襲撃予想、防衛にあたった魔導国軍の戦いぶりや謎の大地震の原因究明、竜に関する信仰が足りぬのだ、等々。


 中でも気になったのは竜に関する噂である。


 (いわ)く──。


「さてテイラー君、今日話すことは他でもない、連日続く異常事態に関することだ。君は知っているかい? つい先日起きた大陸北部の大災害も、昨日の魔物擾乱(じょうらん)も異様な地震も。全ては一連の流れの上にあるんだ」


「な、なんだってー! どういうことだい、ベネス君」

「こういう訳だよ、テイラー君。ことの発端となったのは公国の南部、工業都市ボルドー近隣で起きた大災害……『枯色竜(かれいろりゅう)の災禍』。つまりは、竜の逆鱗に触れたことが原因だったのさ」


「なんてことだ! それじゃあ君、北部の大災害も昨日の地震も、全部竜の怒りが引き起こしたものだっていうのかい?」

「そうだとも。だから我々は、竜たちの怒りを(しず)めなければならないんだ。彼らを信仰し信奉することでね」


 ──ということらしい。


 実際、それらの騒動は竜が引き起こしている事に違いがない。逆鱗(げきりん)に触れただの怒りがどうだのということではなく、敵対する魔神を滅さんとした結果ではあるが。


 彼らの言葉は根も葉もない、事情を知らない者たちの勝手な予想であろうに。中々どうして的を射る推察である。


「「……」」


 ちらりと目を動かしてみると、彫像のように表情を固定しているマルトと頭痛に(さいな)まされているエスリウの姿が目に入った。


 彼女たちには事情を話したばかりだし、核心を突くような噂話を聞いて気が気ではないのかもしれない。


(むしろ、当の本人が一切動じていないってのもどうかと思うが)


 エスリウたち以外の面々に視線を向けようとすると、銀刀からお前がおかしいという念話を受信。ご指摘ごもっともではあるものの、こういった事態に慣れちゃったのだから仕方がない。


 銀刀の言葉に開き直って応じていると、今度は脇腹を肘で小突かれた。


 顔を向ければすぐ傍に栗色の美少女の顔。隣に座っていたヤームルである。


「ちょっとロウ君。今の話どう思いますか?」


「ヤームルさん、顔近いですよ。それと今の話って言われても何が何だか」

「ああごめん、隣の席の人たちが話してた竜がどうのこうのって話ね。その話だとボルドーの一件も大砂漠の一件も、竜が引き起こしたものだって分かってる口ぶりだったけど」


 吐息のかかる距離から離脱すれば、先ほどの竜に関する噂話を持ち出される。彼女も三件のうち二件に深く関わっていたし、聞き流せなかったのだろう。


「それでしたか。事実無根(じじつむこん)じゃないですかね? ドレイクの方……ああ、ボルドーで馬鹿やらかした竜ですけど。あいつは目撃例があったみたいですが、大砂漠では竜を見たなんて人はいないはずです。周囲に人影なんてありませんでしたし、仮にあってもヴリトラの大魔法が乱舞してたあの状況では生き残れないでしょう」


「むう。確かにあの大魔法は、竜の姿が見えない距離であっても恐ろしいものでしたし、人が確認できる範囲で生きていられるとは思えませんけど。……というか、ドレイクって竜にちょっと親しみがこもってたけど、まさかロウ君、知り合いなんて言うんじゃないでしょうね」

「!? ハハハまさかそんなことあるわけないじゃないですかー。そうだ、冷えないうちにご飯を頂きましょう、そうしましょう」


「……はぁ。はいはい、分かりましたよ」


 何事をも見透かす灰色のジト目で問われあわや窮地(きゅうち)、どっこい食事に没頭することで回避。


(誤魔化す気があるんだか無いんだか……。実にロウらしいですが)


 黒刀からは嘆息され、ギャラリーと化したアイラたちからは意味深な視線を投げかけられつつ、俺は料理を掻っ込んだのだった。


◇◆◇◆


 食事を終えてヤームルたちと別れた後、人化した曲刀たちと一緒に街の様子を見て回ることにした。


 朝の予定では銀刀のまま行動するはずだったサルガスも、買い物ではなく様子見ならばと人化している。


 街を見て回る中であわよくば服を買っておきたいところだったが、生憎大通りはどこもかしこも閉店中。以前訪れたバザールに至っては入り口すら閉まっている有様だった。


「──むぅ、弱りましたね。まさか一店も営業しているお店が無いとは」


「だなあ。飯時だからか外出してる人は少し見かけるけど、肝心のお店がないもんな。飯がない人いたらどうすんだろ……」

「流石に時期が悪かったか? おまけに雨だしな。しかしロウ、買い物は出来ないとしてこの後どうする?」

「ん~。昨日から寝てないし、一旦休もうかな。まあそれは帰ってからだし、今はもうちょいお店探してみようか」


 サルガス応じてお店探しを再開。大通りから路地に入ったり、都市の西側から東側の新市街の方へ移動したり。曲刀たちを引き連れ、街の至る所をうろうろと徘徊して回る。


 されども、一向に開いている店舗が見つからない。


 どの店も看板をしまい込み窓にカーテンをかけ扉をしめ切っている。雨天ということもあり、中々に気が滅入る光景だ。


「むむむ……ふぅ。これ以上意固地になっても仕方がありませんね。ロウ、今日のお買い物は諦めましょう」

「そうするか。ギルタブ、今日は色々とごめんな。リマージュや帝国に行った時には今日の代わりに街を歩いて回ろう」


「そうですね、ふふっ」

「フッ、お前さんにしては悪くない提案──ん? あれは……」


 謎の上から目線で話を続けようとしたサルガスが不意に言葉を切り、何事かと彼の視線をたどれば──この世界では珍しい黒髪の、若い女性二人組が目に入った。吸血鬼の姉妹、アシエラとアムールである。


「──? おっ! ロウ君だーこんにちは。今日はお兄さんたちとお出かけかな?」


「こんにちは、アムールさんにアシエラさん。こいつらは俺が頼りにしてる相棒たちで、今日は一緒に服を買いにきたんですよ。御覧の通り、不幸な結果に終わりましたけど」

「今は町全体が警戒態勢に入っているからね。私たちは街の外れにある食肉解体工場に行ってきたんだけど、そこへ行くまでに開いているお店は見なかったし。天候が雨だということも影響しているのかもね」


 姉妹へサルガスたちの軽い紹介と買い物が手ぶらに終わったという報告をすれば、街の外れの方も同様に店が閉まっているとのこと。そちらにまで足を伸ばさずに正解だったか。


「お二人さん、相棒さんか~……。ねえねえ、それってロウ君のことに詳しいってことかな?」

「そうなりますね。俺のことは何から何まで知ってますよ、二人とも」


「ロウのことは勿論のこと、貴女たち姉妹のことも良く知っていますよ、アムール」

「うえっ? そ、そうなんですか!? ロウ君、私たちのことバラしちゃったの!?」

「いや、バラすも何も、こいつらはあの場に同席してたっていうか……」


 得意げに言い放ったギルタブの言葉で大いに動転するアムール。詰め寄ってきた彼女に肩を揺さぶられていると、妹に比べ幾分冷静なアシエラも乗ってきた。


「同席? あの場には私たちとロウ君しかいなかったと思っていたけど、外に待機させていたと?」

「残念ながらそうじゃない。俺たちは室内にいたぞ? アシエラ。種明かしをすれば、俺たちはお前たち同様に人じゃないのさ。元は人だったお前たちとは事情は異なるがな」


「「っ!?」」


 何を思ったのか、人通りが皆無とはいえ街中で人化を解き曲刀となるサルガス。


「お前、ここ街のど真ん中だぞ。何やってんだよマジで」


「人通りは無いしこの雨だ。周囲に気配はないし、遠目じゃ何をやってるかまでは分からんだろう。それならこうやって人化を見せた方が手っ取り早いさ」


 再び曲刀から人型となり、氷の傘を拾い上げるイケメン野郎。ちいと大胆過ぎやしませんかね。


「そういうことならまあ……いや、曲刀だってバラすにしても俺に相談しろよなー」


「ふふ、良いではありませんか、ロウ。アムールたちも貴方が魔神だということは既に知っているわけですし、私たちのことを説明しておくことも悪いことではないでしょう」

「ぬぐ。それもそうだけどさ」


「……私たち、ってことは、ええと、そちらのお姉さんも武器ってことですか?」

「はい。ロウが日頃腰に()いている黒刀がこの私、ギルタブなのです」

「そういえば紹介が遅れていたか。俺はサルガス、ギルタブの兄妹のようなもんだな」


 曲刀たちの攻勢に負けて口をつぐむと、奴らの自己紹介が始まってしまった。持ち主たる俺の言葉でも聞き入れてもらえないらしい。やんぬるかな。


「わは~。ロウ君が持ってた曲刀が、サルガスさんとギルタブさんになるなんて。なんだかもう、言葉が出てこないです、はい」

「サルガスさんに、ギルタブさん。いやまさか、人が武器に変じているとは思いもよりませんでした。お二人はロウ君の配下、ということですか?」


「いや、さっきロウが言っていたが相棒だな。眷属(けんぞく)だったり部下だったりということはない」

「そうでしたか、失礼しました。しかし、魔神の相棒……」


 人化が可能な意志ある武器、ないし武器へと変化可能な存在というものは、長くの時を生きている彼女たちですら聞かないようなものなのだろう。


 曲刀たちのことを知るカルラには、その内彼らが人化したことを話そうかと思っていたが……。この反応を(かんが)みるに、見送った方が無難だろうか。


 思考を脇に逸らしている内に話が進み、姉妹の家でお茶でもどうかということになった。


 彼女たちも街がこの調子では暇であり、以前俺から借りていた服も返却したいこと。そして折角友人と会ったのだからおもてなしすべき、とのことだった。


 とはいえ、彼女たちには俺の血をぺろぺろした前例がある。ここは(えり)を正して行かねばな。

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