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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第六章 大陸震撼
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6-27 悪鬼の懐古

 舞い踊る火の粉に、吹き乱れる茜色(あかねいろ)の魔力。下手すると部屋が火事になりそうな顕れ方をしたのは、魔眼の魔神バロールである。


 そんなド派手な登場を終えた彼女は、いきなり愛娘を抱き寄せた。


「ああ、エスリウ。無事でしたか……良かった。海魔竜の怒りを感じた時は、何かあったのではないかと気が気ではありませんでしたよ」


「うぷっ。お母様もご無事で何よりです……けれど、ロウさんもいますし、抱擁はそこそこにして頂きたいです」

「あらロウ君、いらっしゃい。ワタクシに隠れてエスリウと密会だなんて、中々隅に置けませんね」


 俺のことは目に入っていなかったらしく、娘を抱き寄せた状態で妄言(もうげん)、もとい挨拶を行う彼女。この親にしてこの子あり、という言動である。


「ご無沙汰(ぶさた)してます、バロール様。……この街ってイルとかミネルヴァみたいな女神が目を光らせてるはずなんですけど、そんな派手な空間魔法使って大丈夫ですか?」

「うふふ、この程度であればアレらが感知することは難しいでしょう。『竜眼』を持つ身であれば話は別ですけれど、その竜もロウ君が飼いならしていますから」


 確かに彼女の言う通り、ウィルムに関してはある程度融通(ゆうづう)が利くが……今はこの街に溶岩ぶち撒け野郎ことドレイクも滞在している。


 一応あいつにもエスリウやバロールの事情は説明しているし、いきなり突っ込んでくるような事態になるとは考えていないが。彼女たちにはあいつのこともきちんと伝えていた方がいいかもしれない。


「そのことなんですが、実は今この街にはウィルムだけではなく別の竜も滞在してるんですよね。ウィルムの姉弟みたいな奴で、ドレイクっていうんですけど」


「「「は?」」」


 こういうことはさっさと言ってしまうに限ると、バロールが席へつき紅茶を含んだところで発言投下。


 案の定異口同音(いくどうおん)で呆けられてしまったが、矢継ぎ早に説明を続ける。


「ウィルムは俺から技術を学びたいらしく一緒に行動しているんですけど、ドレイクは魔神と竜とが共に行動している事態が見過ごせないらしくて。それで結局、ウィルム共々俺が面倒を見ることになりました」


「……ロウ。やっぱり前に言っていた通り、君の周りに竜が増えてしまったじゃないか」

枯色竜(かれいろりゅう)ドレイク。リマージュとボルドーを結ぶ街道にあの溶岩湖を創り上げた、若き竜の中でも力ある存在。ワタクシは会ったことがない竜ですが、様々な問題行動……伝説を持つ竜ですね」

「力ある竜、ですか。まあロウさんが琥珀竜(こはくりゅう)や海魔竜と戦っている以上、そういった竜を従えることに違和感は覚えませんけれど」


 予想通り溜息三連発を見舞われた。

 が、エスリウが古き竜に触れたことで、その話題を知らないバロールが寝耳に水とばかりに目を白黒させ、娘を問い(ただ)した。


「ロウ君が、あの古き竜たちと戦ったですって? エスリウ、どういうことか話してごらんなさい」


「うっ。どうもこうも、言葉のままと言いますか。というかロウさん、貴方が当人なんですから知らんぷりせずに説明をお願いします」

「えー? そんな面倒臭……あ、ちょっと『魔眼』光らせないで下さいよ。シャレになりませんからそれ」


 拒否など許さぬと茜色(あかねいろ)に輝く四つの瞳に屈し、再度十分程の事情説明。


「──という訳で、晴れて真なる魔神となった感じです」


「あの古き竜を相手に生き残るとは……それも二度も。ましてや、軍勢すら持たずに。『魔眼』で竜たちの魔力を感じていなければ、荒唐(こうとう)に過ぎると笑い飛ばしてしまうような内容ですね」

「レヴィアタンさんと殺り合った時はセルケト……前に連れてきた魔物ですね、あいつに助力してもらって何とかって感じでしたよ。軍勢といえば、火山平原で色々話を聞いていた時にバロール様の話が出てましたね。何でも、深淵竜エレボスの寝床を襲撃したとかなんとか」


「あらあら、これはまた随分と懐かしい話ですこと。まだ大陸が人族に明け渡される前、魔族が全盛期だった時代……ワタクシと同じ、力ある魔神のバステトやモリガン、ルキフグスと、各々(おのおの)が軍勢を率いこぞって竜狩りや神殺しに出かけたものです。あの深淵竜を襲撃したのも、そんな時代のことですね」


「「「……」」」


 ふとエレボスから聞いた話を振ってみれば、穏やかな表情で悪逆無道(あくぎゃくむどう)を語る象牙色の美女。


 どう考えても懐かしく語るようなもんじゃないだろ。やっぱりこの人桁違いにやべー奴だわ!


(伝説の中の伝説、上位魔神バロールだからな。むしろお前さん、今までなんだと思ってたんだ?)

(美しい女性、ついでに魔神とでも思っていたのでしょう。ロウのことですから)


 エスリウやマルトすら(おのの)く一方、曲刀たちは特に驚いてもいない。流石魔族に打たれただけあって、彼女のことは知悉(ちしつ)しているようだ。


「まあアレですよ。バロール様も、竜や神が(うら)むだけのことをしてきたんだなあって」


「うふふ、その通りです。ワタクシは愚かな真似をしました。今ではそう思いますけれど、当時……というよりほんの百年ほど前までは、破壊こそが生涯の全てでした」

「バロール様は“破壊”を(つかさど)る魔神ですから。魔に仇成(あだな)す者の全てを焼き尽くし灰燼(かいじん)に帰すことこそが、本懐(ほんがい)だったのでしょう。私としては、今の穏やかなバロール様の方が好ましく思えますが」


 破壊の魔神の供述に対し、一定の理解を示す上位精霊。彼女はバロールと付き合いは長いようだが、どういった経緯で行動を共にするようになったのだろうか?


 話を聞くにはいい機会だし質問してみるか──と口を開こうとすると、閉口していたエスリウが話を本題へと戻した。


「お母様の昔話も興味惹かれますけれど、今は置いておきましょう。さてお母様、ロウさん。面談の日時は如何様に設定しましょう?」


「日時ですか。思ったんですけど、今日このままお話しするっていうのは駄目なんですかね?」

「普段遠出する時は影武者をたてるのですが、今のワタクシは短時間抜け出してきているだけですから、これ以上時間をとることは難しいですね。それにこの地には幾柱もの神や竜がいますし、魔神同士が密談するのは不向きでしょう。うふふ……」


「それもそうっすねー。それじゃあ俺がリマージュへ出向きましょうか? 空間魔法を使えば距離なんてあってないようなもんですし、こっちもあの街に用事もありますし。近日中であればいつでも大丈夫です」


 影武者という日常生活で使いそうもない単語に驚きつつ、そういうことならと提案を投げる。


 リマージュでの用事といえばかつての仲間たち、盗賊団バルバロイの面々のお墓作りである。


 当初は人に頼もうかと思っていたが、魔法を自在に操れる今となってはその必要もない。盗賊団が支援していた孤児院の空いたスペースにでも建てさせてもらおう。


 ついでに、ご無沙汰している宿の看板娘ディエラや女主人メリーのように、世話になった人たちへ挨拶もしておきたい。丁度良い機会というやつだ。


「あら、助かります。そうね……では三日後の夕方に、都市の西門で使いの者を待機させておきますので、その者に屋敷への道をお尋ねください」


「バロール様の使いですか……以前きたシャノワールさんですか?」

「いえ、あの子は何かと忙しいのでルフタ……体格の良い老年男性を送るので、ロウ君も会えばすぐお分かりになると思います」

「体格の良い老年男性ですか。分かりました、三日後の夕方に西門ですね」


 了解の旨を伝えるとバロールは立ち上がり、再び娘を抱擁(ほうよう)(背骨がバキバキと音をたてていた)。それが済んだ後は火の玉となり、弾けるように拡散して消えてしまった。


「嵐のような人ですね、バロール様は」


「お忙しい方ですから、お母様は。何せ人としての生活だけではなく、魔界の領土にも気を配らねばなりませんし。ワタクシも早く、お母様を支えられるようにならなければ……」

「魔界の領土ですかー。俺は行ったことすらないですけど、エスリウ様は訪れたことがあるんですか?」

「ええ、年に数回お母様と共に。ワタクシが空間魔法を使いこなせていれば、お母様の手を(わずら)わせることなど無いのですけれど……。ロウさんに教えてもらおうかしら」


 魔界について聞いてみると、人差し指を唇に当て妙なことを言い出すエスリウさん。


「うーん。魔法に関しては完全に感覚で構築してますからね。それを教えるとなると、ちょっと難しいかもしれません」

「あら、そうでしたか。とても残念です」


 エロス漂う仕草にどぎまぎしながら返すと、からかいが失敗したというよりただただ残念だというような嘆息が戻る。


 俺としては美少女とキャッキャウフフするような状況は大歓迎だが、魔神相手に魔法を教えるというのは難易度があまりにも高すぎる。


 慣れ親しんだ大陸拳法のような技術ならともかく、魔法は魔力や想像力で構築されるもの。


 俺自身が魔法を使い始めてから二か月くらいしか経っていないし、人に教えられるほど理解していない。それを他者へ教えるなど、無謀無責任の極みであろう。


(お前さんの基準は今一つ分からんな。普段の行動は無謀無責任の極みだと思うんだが)

(人に物を教える際は不思議と真人間(まにんげん)になるようですね、ロウは。人間族ではありませんが)


 ガーガーうるさい曲刀たちをシャットアウトしていると、エスリウは妙案が閃いたとばかりに手を打ち表情を明るくする。


「良い案が浮かびましたよ、ロウさん。教えるのが難しいのであれば、ロウさんの魔法構築を直接見て学び、盗めばよいのです。流石にこの場でとはいきませんが、ロウさんの空間であれば問題も起きないでしょう」


「そういうことなら大丈夫ですよ。ただ、あの空間は時間の流れがこっちと違うみたいで、今日予定があるのなら日を改めた方が良いかもしれません」

「うふふ、今日は特に用事もありませんから問題はありませんよ。昼食はヤームルたちと頂きたいところですけれど、そのくらいですね」

(うけたまわ)りました。それではご案内します」


 異空間の門が開くとマルトは僅かに表情を硬くしたが、エスリウは足取り軽く中へと入っていく。


 俺は異空間で生活するニグラスにどう事情を説明するかを考えながら、エスリウの後に続くのだった。

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