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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第六章 大陸震撼
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6-19 魔石の再構築

(……お前さん、いよいよ魔神らしさが加速してきたな。ところで、生きてんのか? あれ)


〈あの姿が降魔(ごうま)状態みたいだし、下半身が潰れたくらいじゃ余裕だろ。放っといたらヤバいかもしれんけど〉


 暴走状態のセルケトをぶっ飛ばした後。


 同化状態を解除した銀刀の言葉に内心やり過ぎたかと思うも、魔神たる己やエスリウの例に照らしそうでもないかと思いなおす。


 かつては殆ど首だけ状態から復活したこともある俺だが、魔神エスリウに至っては完全炭化状態から(よみがえ)るほどの豪傑(ごうけつ)である。


 それに比べれば下半身がミンチになったくらい、どうってこと無いだろう。


 というかセルケトも昔、炭化状態から復活してたっけ。


(ロウ、いくらセルケトが魔神となっていても、この傷で放置は危険なのです。早く治療しましょう)


〈考え事してる場合じゃなかったか。確かに、早く治療しないと……いや、先に暴走の原因っぽい、魔石の調子を確認した方がいいか?〉


 黒刀の言葉で本題を思い出すも、魔石の様子が気に掛かる。


 前のように追い詰めれば人型になるかと思い、ニグラスたちに総攻撃を仕掛けてもらい、俺自身も全力で攻撃を加えたが……。


 瀕死状態へ追い詰めることは出来たものの、意識を失っている彼女は未だ異形の身。このまま治療し意識が戻ったとして、話が通じるか疑問が残る。


「魔神同士の戦いが、これほどのものだとは……。それにつけても、貴様の降魔(ごうま)は人の姿と似ても似つかない」


〈ん、ニグラスか。俺自身もビックリするくらい、面影がないと思ってるよ。まあ、元の面影のある降魔があるのかは知らんけど〉

「考えてみれば、バアルの降魔も神の姿とは似つかぬ代物だったか。むうう」


 山羊頭(やぎあたま)を捻っていると、既に傷の回復を終えているニグラスもやってきた。


 とりあえずは止血だと魔法を構築してセルケトの応急処置を進めていると、唸っていた彼女が口を挟む。


「何やら迷っているようだが、これの暴走は貴様の手落ちなのだろう? ならば、治療前に正すべきことだろう」

〈原因は多分俺なんだろうけど、どうしてそうなったのかっていう原理やら過程はさっぱりなんだよな。……とりあえず調べてみて、分からなかったら普通に治療すればいいか〉


 人体実験じみたことをするには抵抗があるが……。また暴れられると目も当てられない。是非もなし、か。


 抵抗感を飲み込み応急処置を終えたところで、施術(しじゅつ)開始。


 ティアマトが明らかにした魔石の位置──胸骨の真下、心臓の隣を目指して開胸(かいきょう)を始める。


 ちなみに、手術道具は硬質化状態のシアンである。


 変形した彼女は軽い上に金属すら切り裂く切れ味、医療や解剖で使われる刃物も裸足で逃げ出しそうだ。


 ……性別と手術道具で馬鹿みたいなダジャレが思い浮かぶが、全く面白くないため思考を追いやる。


(む……。曲刀たる私の方が、斬るという一面では優れていますよ、ロウ)


 益体(やくたい)のないことを考えていると、銀刀に変わり俺と同化してサポートを行う黒刀が妙な対抗意識を燃やす。が、華麗に流して施術続行。


 助手を務めるニグラスに手術箇所の固定や止血を行ってもらいつつ、魔石の下へと辿り着く。


〈ん……正常、だな。前みたいに形が(いびつ)でもないし〉


 脈動する心臓の隣にある拳大の魔石は、美しい輝きを放つ赤紫色の正八面体。それは血管や筋肉、他の臓器と癒着しているものの、以前のような禍々(まがまが)しさは見られない。


「感じられる魔力こそ並々ならぬものだが、確かに正常……いや、発色に(かたよ)りがある、か?」


 細長い針のような闇魔法を数十操り手術視野を確保する助手ことニグラスは、魔石の形状ではなく色について指摘する。


 言われてみればなるほど、赤紫色の魔石にはまだらのように濃紫色(こむらさきいろ)が点在していた。


 この色から連想するのは以前のセルケトの魔力だが、それがどのような意味を持つのかまでは考えが及ばない。


(ロウ、魔石修繕の時のように、魔力を注いでみるのはどうですか?)


〈魔力の注入か。しかし、なんでまた?〉

(私がロウの体を通して魔力を解析したところ、魔石のまだら部分から滲む魔力は、彼女が魔神に変質する前の魔力と同質のようです。恐らくその変質前の魔力と変質後の魔力がせめぎ合い、彼女の暴走へと繋がったのではないか、と考えられます。それならば、ロウが新たに魔力を注いで変質を促せば、魔石が安定状態になるのではないか、というわけです)


〈異なる性質を持つ魔力同士の反発か……なるほど。そういやギルタブは、前にセルケトの魔力を食べたことあったんだったか〉


 魔石を前にして考えあぐねていると、頼れる相棒から天啓(てんけい)がもたらされる。


 セルケトが生まれた当初も様々な魔物が一体化した反動で暴走状態にあったという。異なる魔力が干渉し合い制御不能となるというのは、いかにもありそうな話だ。


 あれこれと思案する状況でもないので、一も二もなく黒刀の案に飛び付き魔力を注入開始する。


 ……魔石が完全に変質すれば、ただでさえ強いセルケトが手に負えなくなる気がしたが、今は考えまい。


「むう、魔石の修繕か? しかし、修繕するような箇所は残っていないようだが」

〈修繕っていうか、ただ魔力をつぎ込んでるだけだな。……お!〉


 全力で魔力を操作すること数十秒、魔石のまだら模様が消えはじめ、赤紫色の輝きが増しだした。


 これによりセルケトの暴走状態が治まるかは不明だが、魔石の変質という点においては仮説が正しいようだ。


 そこから更に数分程かけて念入りに注ぎこめば、彼女の魔石は完全に赤紫色一色となった。光輝く八面体は、色や結晶構造的に宝石のスピネルを想起させる。


 魔石が安定状態となったことが影響したのか、降魔状態も解けたセルケトは人型状態となった。


 意識が無いため正気に戻ったかどうかの確認は出来ないが、一応は安心できる状況といってもいいだろう。


 後は身体の方だとへそから下が肉塊となっていたセルケトを治療し、胸部も含め全ての回復を終えた。


「……魔神でありながら魔石を持つ存在、か。どこぞの『神獣』を彷彿とさせる」


 山場を越えて一息ついていると、しばらく考え込んでいたニグラスが(やぶ)から棒に語り出す。


〈『神獣』って、物騒な名前だな。さっきもティアマトさんの話の中で出てきたっけ。その魔物? も魔神なのか?〉


「分からん。魔神とも神とも魔物ともつかぬ魔力を持ち、それら全てを凌ぐ圧倒的な力を内包する存在。そして魔石を有しているということ以外、一切不明なのさ。『神獣』ベヒモスは」

〈神をも凌ぐて、古い竜と同等ってことか? すげーな。でも、魔石を持ってるってことは──〉


 ──セルケトみたく、魔物から別の存在へと変質したのかもしれないな。


 そう繋ごうとした瞬間、白一色の空間に斬線が入り、爆ぜた。


〈ッ!?〉「んな!?」[[[!?]]]


【グルァァアアアッ!】


 異空間に轟く咆哮。顕現するは濃い藍色(あいいろ)の巨体。


 激烈な音圧と濁流のような魔力圧で吹き飛ばされた俺は、ずっと放置していた海魔竜レヴィアタンの存在を思い出したのだった。

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