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異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第一章 異世界転生と新天地への旅立ち
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1-18 今後への布石

 ドレイクに「炎獄(えんごく)」をぶっ放された日から一夜明け、翌日。


 朝食を終え都市への移動に向けて準備をしていると、ムスターファの爺さんから呼び止められた。なにやら話があるらしい。


「突然すまないねロウ君」

「いえ、大丈夫です。こちらからもお話に(うかが)おうと考えていましたし、都市についてからだとバタバタしそうだなとも感じていましたから」


 ドレイクが放ったあの出鱈目(でたらめ)な規模の魔法は、恐らくこれから向かう都市ボルドーでも観測されているだろう。夜間も火災か溶岩かの光が赤々と照らしていたし、ここからそう遠くない距離にある都市なら見えていたはずだ。


 そうなれば、実際に遭遇し逃げおおせた俺たちが、重要な参考人として確保されるであろうことは想像に(かた)くない。


 となると、個人的な話ならば今するより他にない、ということになる。


「フフフ。話が早くて助かるぞ。それでは儂から切り出すとしよう」


 そう言うと、ムスターファはニヤリと笑みを深めた。どうにもこの爺さんからは妙に気にいられている気がする。


(そりゃ命の恩人だしな。おまけに力だけでなく“それなり”の道理も(わきま)えているとなれば、たとえ子供であろうとも商人としては捨てておけない存在だろうよ)


 とりあえずコネ作っとくか的な感じか? そういうことなら、俺としては渡りに船だ。


 脳内でサルガスに抗議しようとするも、己の行いを(かえり)みて話を逸らさざるを得ない──などと思っていると、ムスターファが飾らない言葉で本題を話す。


「簡潔に言うと君を雇いたいのだよ、ロウ君。私兵としてね」

「十歳の子供に過ぎない俺を、ですか?」


 彼の話はいたって単純。こちらを雇いたいとのことだった。しかし、どういった仕事内容なのかまでは判断できない。


「君は竜のブレスを防ぎ、溶岩の海ですら生き延びる精霊使いだぞ? ましてや、それが十歳ならば成長性がどれほどのものか想像もできん。今のうちに囲っておきたいのだよ」


 何を馬鹿なことをと溜息をつき、言葉を疑った俺を反駁(はんばく)するムスターファ。


 とはいえ、今の俺は追われる身。仮に受けるとしても、俺を雇い入れるリスクについて知っておいてもらわなければ火種になりそうだ。


「評価してもらえて嬉しいです。ですが、今の実力を得るに至った背景は他人に話すのも(はばか)られるもので、相応に恨みも買ってるんですよね。仮にムスターファさんの下で名を上げることになれば、俺への報復行為が飛び火することも考えられます」


 爺さんがぶっちゃけたので、こちらもぶっちゃけることにする。要は厄介者ですよということだ。


 正直なところ、俺自身の個としての力が異常な域に達しているため、雇われる事に対しあまり魅力を感じていない。


 多くを望まなければ、動物や魔物関連の素材を生活の糧とする猟師(まが)いのことをすれば、十分生活できるだろうと試算もしている。


 なにせここ異世界では、水道光熱費が魔道具と魔力(俺の場合は魔法と魔力)で(まかな)えるため、不要なのだ。住居と食費と税金だけとなると、金銭的には非常に楽である。


 ましてや、扶養家族がいるわけでもないしな。


「ククッ。自分からバラしてしまうとはのう。なるほど、仕官話に興味がないか」


 こちらが考えを明かすと、喉を鳴らし愉快そうに笑うムスターファ。先ほどまでの好々爺(こうこうや)然とした雰囲気は霧散し、老獪(ろうかい)な空気が前面に出ている。


 豹変しすぎじゃね? ちょっと怖いんですけど……。


「調べられたらすぐにバレてしまいますからね。(いさか)いの種になるくらいなら自分から話した方が良いかなと」


 あまりの変貌に本当に商人なのか? と疑問に思いつつも、バラした理由を説明。


 元より「小さく黒い影」として知れ渡っていたのだ。仮面とかつらで変装していたし、ロウとして名が通っていたわけではないが、背格好で特定される可能性は十二分にある。


 何より、アルベルトには速攻で盗賊だということを看破されているわけで……。俺自身も迂闊(うかつ)なところがあるし、今後露見する可能性は非常に高いと言える。であれば、(あらかじ)め伝えておくが吉であろう。


「なるほど、なるほど。しかしそこまで正直に話してしまっては、君の話にも影響するやもしれんぞ?」


 白く染まった片眉を吊り上げ反応を窺うムスターファに対し、問題ないという旨を告げる。


「俺の話はお願い事というより取引話ですから。ここで話したことはある程度の信用を得るための必要経費みたいなもんですし、ムスターファさんには既に恩を売ってますから、多少の事ではふいにされないと考えています。それに、仮にけしからん奴だからと話を切られてしまっても、ならば他所に売り込みに行けばいいというだけのことですから」


 言いたいことをすべて言い切り、反応を待つ。


 言外に私兵の話はどうでもいいと言っているようなものだが、果たして彼はどういう反応を示すのか。


「クックック……カァーハッハッハァッ!」


 喉を震わせたかと思うといきなり哄笑(こうしょう)である。


 やべーぞこのジジイ!


「──ハァ。いや、すまないね。ロウ君があまりにも太い態度なのが面白くてね」


 ひとしきり笑った後に目をこすりながらのこのセリフ。


 恩人とはいえ十歳のガキンチョから試されるようなことを言われたら、普通なら腹が立ちそうなものだが……ムスターファはそれを面白いと感じたようだった。


「フフ、さて……儂のどうでもいい話はもう終えようか。君の話を聞きたい」


 どうでもいいて。ヘソ曲げないでよお爺ちゃん。


僭越(せんえつ)ながら。ムスターファさんには魔物の素材を直接買取を行ってもらいたいのです」

「ほう?」


 軽く目を見開くも、彼は続きを(うなが)す様に沈黙する。


「通常、魔物素材の取引は冒険者組合を通し行われる事はご存知かと思います。しかし、俺は先ほど話した通り後ろ暗いことがあるため、組合での依頼や取引で目立つようなことは控えたい。そこで、商人であるムスターファさんに俺の持ち寄る素材を買い取ってもらいたいというわけです。勿論、組合での価格より安く、です」


 要は手間賃上げるから代わりに組合で換金してきて(ハート)ってところだ。ガキの使いとはこのことか。


 しかし、そこは俺の特殊性が絡む。


 ムスターファが評価したように竜のブレスすら真正面から防いでしまう実力があるのだ。恐らく、戦闘能力は高位の冒険者にも比肩(ひけん)するだろう。


 こちらの提案を聞いたムスターファは鼻下のカイゼル(ひげ)を撫で、しばし瞑目する。


「フム。君の実力は疑うところが無いし、ボルドー近隣では魔物被害も増え続けている。そして魔物素材を利用した装備類の需要もまた、被害が増えたことで高まってきている、か」


 流石は商人、利にさといことこの上なし。俺は魔物が増えているから供給が安定する程度に考えていたが、彼はその一つ先まで見ているようだ。


 考えが纏まったのか、彼は歯を見せて笑い握手を求めてきた。


「ではロウ君、専属契約といこうか。よろしく頼むよ」


「ありがとうございます、ムスターファさん。安定した狩猟が出来るよう精進します」

「期待しているよ。今のうちに買い取り額を決めておこうか? 私としては組合相場の六割ほどと考えているが」

「組合買取の半額くらいで考えていたので、六割なら大歓迎です。お願いしても?」


「こちらとしては手間と査定だけで、あとは組合に売り払うことで確実な儲けが出るが……君が良いなら儂も良いのだがね」


 すんなり受け入れられるとは思っていなかったのか、彼にとっては肩透かしの形になってしまったようだ。


 幼いなりの俺が組合に出向いて素材を売り払うと面倒ごとが増える気しかしないし、今更訂正するつもりもない。損して得取れ精神で行こう。


 ムスターファと固い握手を交わした俺は、再び出発の準備へ取り掛かったのだった。

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