表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を中国拳法でぶん殴る!  作者: 犬童 貞之助
第六章 大陸震撼
176/318

6-4 一時帰郷・工業都市

 方角確認のために雲の上へと移動したり、街道の位置を見るために地上への降下したりしつつ、転移を発動し続けること数百回。


 ロウはリーヨン公国の南部にある工業都市、ボルドーに到着した。


(まさか、これほど早く到着するとは……)

(竜と同じくらい早いんじゃないか?)


 空間魔法を駆使した少年は驚異的な早さ──およそ三十分ほどで移動を完了させていた。


 銀刀の言葉通り、音速を超えた飛行を可能とする竜と同等、あるいはそれ以上の物理的移動であった。


 ──ちなみに、太陽神や妖精神たちもロウと同様の長距離移動が可能である。


 しかし、彼らの場合は多く神の領域たる“神域”を介して移動するため、少年のように数百回も空間魔法を繰り返すことなどまずない。


 神域もロウの異空間同様に外界と隔絶(かくぜつ)された空間であり、どこから繋ぐも自由自在だ。


 また、神域から繋がる場所も神の(ほしいまま)にすることが可能であり、この領域を介することでどこにでも移動できるのだ。


 少年の連続転移を妖精神あたりに語らせれば、「どうしてそのような面倒な真似をしているのですか? あの異空間でどこへでも繋げば良いではないですか」といったところである。


 繋げた場所からしか出ることが出来ないという先入観に縛られているため、ロウが神たちのような移動方法に気が付くことはない。


 彼は今後も連続転移で膨大な魔力を垂れ流しつつ、風景を楽しみながら移動することだろう。


 ──話は戻り、ボルドー上空である。


「竜は竜で滅茶苦茶速いからなあ。お前らに憑依(ひょうい)でもしてもらわない限り、速さじゃ勝てんだろう。ともかく侵入だな……完全に盗賊時代に逆戻りじゃねえか。足を洗ったはずなのにどうしてこうなった」


 などとぼやきながら、少年は空より身を投げる。


 高度2,000メートルから自由落下で八秒ほど加速し、終端速度で三十秒ほど風圧を堪能し、高度500メートルほどになったところで風魔法による急減速。


 高度100メートルほどの上空で()を捕食していた野鳥を(おびや)かしつつ、少年は空間魔法の足場に着地した。


 眼下には街灯の薄明かりが僅かにあるばかりで、上空から見ると深海のような暗さである。


 そんな世界を散大させた瞳孔でくまなく解析し、数秒で現在地を確定すると、ロウは高度を落としつつ上空を移動する。


(足で移動か。転移で良いんじゃないか?)


「転移って結構魔力操作の痕が残るし、さっきみたいに鳥脅かしたら可哀想だし」

(ゆっくりし過ぎて夜が明けてしまうと面倒事になりますよ? マリンと会ってお仕舞い、という訳でもないのですから)

「へいへーい。急ぎますよっと」


 あれこれと突っ込みを受けて渋々移動方法を変更した少年は、一秒でムスターファ邸上空へと転移。


 風情がないと嘆きながら二度目の転移で、その中庭へと移動した。


(さて、マリンは……。あいつ、普段魔力を節約してるから、探知に引っ掛からないな。どうするかねー)


 中庭からムスターファ邸全体の気配を探るも、己が過去に設定した仕様により空振りに終わってしまう少年。


 どうやって探すかは棚上げし、ロウはまず眷属(けんぞく)たちを呼び出し再会の準備を整えることにした。


[[[──!]]]


「はいはい、興奮しないの」

(完全に父親だな……。マリンの位置が分からないなら、向こうからこっちに来てもらえばいいんじゃないか? 魔力を解放するなり合図を出すなりして)


 無言で騒ぐ眷属たちを少年が(なだ)めていると、悩める持ち主に対し銀刀が提案を投げる。


「来てもらうってのはアリだけど、そうすると異常を感知した他の使用人も一緒に来ちゃいそうなんだよな。ここの人たち、かなり感知力高いし」


(ん、それもそうか。確かに、アルデスなんかは飛んできそうだ)

(ならば合図ですが、ロウはマリンとの間に、何か取り決めのようなものがありますか?)

「ないなー。あいつとは訓練の時くらいしか一緒にいなかったし、訓練の時は指導に集中してたし──お?」


[──っ]


 少年たちが知恵を出し合っていると、渦中の眷属が中庭へ現れた。何のことはなく、創造主が中庭へ降り立つ際の転移を探知していたのだ。


[──]


「おぶッ。よしよし、元気だったかーマリン。久しぶりだけど、お前の魔力は真紅(しんく)じゃなくて(くれない)のままなのな……何だか懐かしいわ」


 直径一メートルほどの球体から紐状(ひもじょう)となり身体へ巻き付いてきた群青色(ぐんじょういろ)の眷属に対し、ロウは再会を喜びその姿を懐かしむ。


 初めて長女の姿を見た兄弟たちはといえば、遠巻きで様子を眺めている。


 謎の巨大球体が実際に人と生活していることに驚愕していたり、長大な紐となって見事に巻き付く様に感心したり、創造主との近しい距離感に嫉妬(しっと)したり。それぞれの個性あふれる反応だ。


「──って、俺ばっかりじゃなくてお前らが会いにきたんだろ。ほらマリン、お前の弟たちだぞ」


[──][[[──]]]


 マリンに巻き付かれたまま屋敷から距離を離した少年は、己の眷属に真紅の魔力を与えて成長を(うなが)しつつ、兄弟たちに用件を済ませるよう催促する。


 四色の不定形の存在に、浮遊する人の頭部ほどの金属球。それらがぐねぐねと変形しふらふらとあたりを(ただよ)い意思疎通を行う。


 そんな面妖怪奇(めんようかいき)な儀式が続くこと五分。


[──][[[──]]]


 話し合いが終わったのか、不定形から人型となる眷属たち。長女のマリンもそれに(なら)い、創造主に与えられた膨大な魔力を使って人型へと変身した。


[──……]


 そうして生まれ落ちたのは長身の美女。


 男性貴族風の衣服を纏い、編み込まれた群青色のサイドテールを揺らす姿は、この大商人の邸宅に相応しい気品を漂わせている。


「おぉ~、マリンも美人だな。あとやっぱり、なんとなく長女っぽいのな」


[──、──]

「うん? 蛇……龍? ああ、組合の支部長室にいる双龍か? あいつらにも挨拶しろって話か。マリンもあいつらのこと知ってたのか……時々会ってるって? お前って結構、俺が居ない間自由にやってたのなー」


 人型となったマリンからの身振り手振り身体の変形で、冒険者組合に放置していた双龍のことを思い出すロウ。


 彼らには名前すら与えていなかったため、指摘されるまですっかり存在を失念していた少年であった。


 眷属たちから「生んでおきながら忘れるなんて酷い神だ」という、非難の色が滲む視線にあてられたロウは、そそくさと撤退の準備を始める。


「ちゃんと挨拶してくるからそんな目で見んなって。じゃあなマリン。身体に気を付けて……っていうのもアレだけど、まあほどほどに頑張ってくれ」


(マリン、人前では今まで通り振る舞うのですよ? いきなりその姿になれば大問題です)

(ギルタブ、マリンはもうロウが居なくなってからひと月以上生活してるんだし、それはいらぬ節介だろうよ)

「ああ、ボルドーを出てからそれくらい経つんだったか。光陰(こういん)矢の如しっすなあ」


[──](なんだそりゃ?)(異なる世界の言い回しかもしれませんね)


 地球時代のことわざに突っ込まれるもサラリと流したロウは、眷属たちを異空間に放り込み、数度空間魔法を構築して冒険者組合へと移動した。


[[──!?]]


「おいすー。君らも元気そうだな。でもなんかちょっと太ったか?」


 いきなり顕れた創造主に動じる双龍を観察しつつ、少年は首を捻る。


 彼は知らぬことだが、この双龍たちは支部長室への来客用のお茶菓子や受付嬢の持ち込む軽食、更には時折室内に現れる小動物など、あらゆるものを食べる雑食性である。


 そうして得たものをマリン同様に魔力へと還元し、己が肉体の増強へとあてていたのだ。久しぶりに会った創造主の勘違いという訳ではなく、実際に肥大化していたのである。


「俺の魔力が無い状態で勝手に成長するはずがないし、久しぶりだからそう感じただけか……? まあいいや。ほれ、お父さんの魔力だぞ~」


[──][♪]


 とはいえ、眷属たちが持つ魔力へ還元する術をこの双龍が有していると知らないロウには、想像の及ばぬところ。


 故に彼は単なる記憶違いだと捨て置き、挨拶もそこそこにして魔力充填を開始した。


 真紅の魔力を得た龍たちは、両者の特徴をより強化していく。


 天より降る氷龍はその煌めく美しさ、艶めかしいしなやかさに磨きがかかり、(きり)のような冷気を纏う魔龍へ変化。


 地より昇る石龍はその角ばった厳めしさ、無骨なまでの逞しさが増しに増し、一度目を向ければ目を逸らせなくなるほどの存在感を発する魔龍へ変容する。


 いずれも首だけの状態から手足が生え、支部長室を物理的に圧迫するほどの巨体である。


[[──]]


「おおー格好良くなったなお前たち……って、デカくなりすぎだろ!」


 どちらの龍にしても元のサイズの倍以上。少年のツッコミは(しか)るべきである。


(おいロウ、大きな声を出すなって。一応忍び込んでるんだぜ、ここ)


「そう言えばそうだった。でも、天井や床から体離れちゃってるし、どうすんだよこれ。誤魔化せなくね?」

[──、──][──]


 ロウが現実的な指摘を行うと、龍たちはその体を以前の大きさ程度にまで圧縮して見せた。


「お? 魔力を還元しての変身か。マリンたちみたいな真似、出来るようになったんだな。床や天井から離れてるけど……そこはもう仕方がないか」


[[──]]


「なに? そんなことより名前を寄こせって? いやでも、絶対支部長が頭抱え込みそうだし、そんなことって言うほど軽いもんでも……。ああもう、分かったから巻き付いてくるのやめなさい」


 ベタベタと纏わりついてくる眷属たちに根負けした少年は、彼らに相応しい名前を決めるべく考えあぐねる。


「マリンたちみたいに色シリーズにするのもいいけど、石龍は色がコルクと被ってるし……。サルビアみたく、植物シリーズにするか? よし、石龍はシナモン、氷龍はジギタリスな」


[[♪]]

(よくもまあ、そうポンポンと名前が出てきますね)


「なんやかやで眷属も増えてきたし、確かにすらすら名前が出るのは自分でも驚くぞ。まあ、今回も薬草から引っ張ってきたし、そろそろ名前ネタが尽きそうだけども。それじゃあシナモンにジギタリス、あんまり支部長を困らせんなよー」


 黒刀と雑談をしながらシナモンたちに別れを告げたロウは、龍たちをひと撫でして空間魔法で支部長室を去る。


 そうしてボルドーの上空へ移動した彼は、再び連続転移による遠距離移動を開始したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ