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新しい道


 一つの区切りがついた。


 子供たちはウェンセスラスにというよりも、フォルティア国王夫妻に預けた。運命の相手なんてものを当てにしないように、二人はすでに儀式を済ませた。今後は、王位継承権を持つ者が生まれて、自分で歩けるようになればすぐにでも儀式をするようにしていくそうだ。


 ウェンセスラスは国民に公表すると言っていたが、流石に王太子がそのような状況になったことを公にするわけにもいかず、ティナは側室になることが決まった。


 正妃にならなかったのは、あまりにも振る舞いがお粗末すぎて、表に出すことができないという理由だ。当然、正妃候補として勉強や社交をやっていたが、それもすべて取り上げられた。監禁と変わらない生活であるが、後宮に留められることになった。

 本来ならば重罪人としてもおかしくないことであるが、本人の背後関係に何もなかったことからこの程度の対応になったようだ。


 ルーシェは特に口を挟むことなく、ただ結果を見つめていた。国王に処罰の要望を聞かれたが、特にないと答えた。現状が既に彼女にとって罰になるだろうと思ったからだ。


 すべてがある程度の落ち着きを取り戻すのに、2カ月が経過していた。子供たちに望まれて王宮の客室で過ごしていたが、そろそろ戻るべきだと考え始めていた。


「王妃殿下よりお手紙が届いております」


 侍女に声を掛けられて、ルーシェは手紙を受け取った。手紙を読めば、お茶会への誘いだ。丁度いいタイミングでの誘いに、ルーシェは戻ることを決めた。


「すぐに伺いますと連絡をしてちょうだい」

「ではお支度をしましょう」


 一人の侍女が部屋を出て行き、残りの侍女たちが恥ずかしくないように支度を整えていく。正式な茶会ではないので、時間はそれほどかからない。ルーシェは自分の姿を鏡で確認してから、王妃の待つサロンへと向かった。


 サロンの入り口には王妃の護衛が立っていて、すぐさま扉を開ける。ルーシェは小さく礼を述べて中に入った。


「ルーシェ」

「クリス?」


 驚きに足が止まる。王妃と向かい合って座っていたのはクリスだ。彼は柔らかい笑みを浮かべて、立ち上がった。久しぶりに会うクリスにルーシェの胸が高鳴った。


「迎えに来た。そろそろ方が付いたころだと思ってね」

「え、でも」


 ちらりと椅子に座る王妃の方へと視線を向ける。王妃はにこりと笑った。


「わたくしが呼んだのよ。プレスコット伯爵にはこちらの状況がわからないだろうから」

「ありがとうございます」


 どうして王妃が呼んだのかがわからず、首を傾げながらの礼となってしまう。


「勝手にイーリック国で結婚してしまうことも可能だけど、やはり許可をもらってからの方がルーシェの気持ちも楽だろうから」


 そう言いながら、クリスはルーシェの目の前で片膝をついた。突然見下ろす形になったことで、ルーシェが狼狽えた。


「クリス?」

「ルーシェ、君を生涯をかけて、守り幸せにしたい。どうか俺と結婚してください」


 心の籠った言葉に、ルーシェが固まった。色々な言葉が思い浮かんだが、どれもこれも言葉にならず、ただただ混乱していた。

 クリスの包み込むような優しい眼差しに、ルーシェは息を少しだけ吐いた。二度目のプロポーズに涙がこぼれた。

 気の利いた言葉は出てこないまま、素直に彼の差し出した手に自分の手を乗せて頷いた。


「……はい」

「ありがとう。ルーシェ、愛している」


 嬉しそうなクリスを見ていて恥ずかしくなってくる。一度結婚して離縁まで経験しているのに、どうしてこんなにも恥ずかしい気持ちが湧き出てくるのか。


 クリスはルーシェの手を引きながら立ち上がると、そのままふわりと抱きしめた。寄りかかってもいいと思えるほどの優しさに、そっと目を閉じた。





******



 ルーシェとクリスが結婚したのは、フォルティア国からイーリック国に戻ってきてから三年後だった。ルーシェの実家とそれからフォルティア国王夫妻との話し合いの結果、決まったことだった。その間に、フォルティア国王は退位して、息子のウェンセスラスが即位した。それと同時に、エヴァンが王太子となった。ジョルダンも王位継承権第二位となり二人は王族としての勉強をしている。


 ウェンセスラスはティナを側室にしたが、正妃としては娶らなかった。年頃の娘を持つ沢山の貴族たちが売り込みを行ったが、ウェンセスラスはすでに王子が二人もいるため不要だと相手にしなかった。


 フォルティア国が落ち着いてから、ルーシェとクリスの結婚が認められた。


「長かったのか、短かったのかわからないけど、婚約期間も楽しかったわ」


 簡単な婚儀を済ませて、ようやく二人きりになった時、ルーシェは夫となったクリスにそう告げた。クリスはクラヴァットを緩めていた手を止めた。


「そう? 俺は一日も早くルーシェを自分のものにしたかったよ」

「そんな感じはなかったけど」


 クリスの独占欲の強くにじんだ言葉に、目を丸くした。クリスは自分の首からクラヴァットを取り去ると、ルーシェの隣に腰を下ろした。同じ長椅子で向かい合うと、ルーシェの髪飾りを器用に抜き始めた。

 侍女の手伝いを断っていたため、ルーシェは大人しくじっとしていた。

 二人の距離はとても近くて、視線を少し上げると丁度クリスの首が見える。緩められた首元が見えて、恥ずかしくなってくる。


「ここで逃げられたらもう生きていけないから。怖がらせないようにしないとね」

「クリスが怖いなんて……あり得ないわ」


 くすくすと笑えば、クリスは肩を竦める。


「俺も男だからね。それなりに欲を持っているんだ。これからは誰にも遠慮することなく沢山、愛を注げる」

「クリス」


 あからさまな好意にルーシェは自分の乾いた唇を舐めた。その唇にそっと彼の指が触れた。どこか焦らすように動く指に、ルーシェは息をのんだ。


「キスだって隠れてしなくてもいい」

「そうね、これからもよろしくね。旦那様」


 クリスは嬉しそうに笑うと、さっと立ち上がってルーシェを抱き上げた。ルーシェも彼の首に手を回した。



Fin.



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