頂を目指して
――三十二階。
このダンジョンは、思ったよりもハードだ。
いや、ダンジョンだなんて言葉を使うべきではないかもしれない。これはもう、この世界の列記とした建造物。フェガリの遺産なのだから。
「なにバテてんのよ! そっちからも来るよ!」
キャルルは部屋の天井が高いのをいいことに、右へ左へ飛び回るだけでまるで戦闘に加わろうとしない。
「せいっ!」
久々に振るうこの大剣も、心なしか重く感じられる。だいぶ腕が鈍っているようだ。
「はあ、はあ・・・」
「ちょっとー、もう疲れちゃったの? 早すぎない?」
「すみません、少し、休憩しませんか?」
「しょーがないなぁ・・・」
今しがた倒した魔物たちが光の粒子となって宙に消えていく。
この魔物たちは、フェガリが残した大魔法によって輪廻転生する定めにある。ゆえに、決して数が減ることはない。
かつては人の、それも冒険者だけの専売特許だった生き返りを応用し、世界に無理やり組み込んだのが彼だった。
今では、その冒険者の生き返りでさえ、機能しなくなってきている。世界の構造が変わりつつあるのだ。
エラーを放置すれば確実に影響が出ることは、周知の事実だった。
そこでフェガリは、歪に形を変え始めたシステムを更に利用したのだ。
クウィストから力の一部を継承し、持ち合わせていた消去の能力を組みあせたフェガリは、エラーの都合の悪い部分を消して使いやすいように改良した。
今思えば、彼は天才だった。
それに引き換え、私ときたら――。
「ねえ、ほんとにやる気あんの?」
キャルルが顔を覗き込んでくる。
「やる気がないように見えますか?」
「どうだろねー」
そう言いながら周囲を物色し始めるキャルルに、グランは嫌悪感を覚えた。
その気になれば、あの女は私の意思に関係なくことを起こせる。
常に自分が優位に立った気でいるのだ。
今の自分に、逆らう選択肢など与えられていない。
「休憩は終わりです。先に進みましょう」
グランは剣を持ち上げて言った。
――最上階に行けば、きっと自分が探している答えが見つかるはず。
そう自分に言い聞かせて。




