グランの憂鬱
グランは満天の星空の下、草原の片隅で火を起こして野営していた。
見上げればうっとりするような景色を、まるで独り占めしている気分だ。
外の世界がこんなにも美しかったことを、自分はいつの間に忘れてしまっていたのだろうか。
気がつけば調停者としての責務を果たすべく、自分が創造にまで携わったこの広大で壮麗な世界の内面ばかりに目を向けてしまっていた。
だが、私たちはこんなにも綺麗な風景を創り上げたのだ。もう少し、その余韻に浸っていても良かったのかもしれない。
「みんな、やられてしまったのですね・・・」
グランは、今は亡き同胞たちに思いを馳せた。
今やこの世界のシステムは完全に崩壊してしまっている。
本来ならば甦るはずの調停者たちが戻ることはなく、冒険者でさえ、日々姿を消しつつあるのだ。
いったい、誰のための世界だったというのか。人々が自由を楽しむはずだったの異世界は、いまや魔物の脅威に怯えて暮らす恐怖の世界と化してしまった。
クウィストやフェガリが望んでいたものが、これだとでもいうのだろうか。
「わからない・・・」
グランは目の前で揺らぐ炎に目を落とした。
まるでそこにあるかのような——確かにそこにあるのだが――炎は、当たり前のように音を立てながら燃えている。
「私たちにとってはただの仕事だった。だけど、あなた方にとっては・・・」
ふさわしい言葉が見つからない。
彼らが創ろうとしていたもの。それは、単なる娯楽のためのものではなかった。
「――居場所?」
彼らは、自分たちの居場所を求めていたのだろうか。
そんなことを望んでも、手に入るはずなどない。なぜなら、私たちのいるべき場所は他にあるのだから。
その時、ハッとした。
あの二人は、もうすでにそんな次元を超えていたのだ。
彼らが創ろうとしていたもの・・・。それは――。
「たっだいまー!」
無邪気な声とともに、グランの空想はかき消された。
「キャルル、今までどこに行っていたのですか?」
空から舞い降りてきた少女は、翼を折りたたんで火に当たる。
「敵情視察だよ~。これから殺し合いをしようっていうんだから、これくらい当然でしょ」
「まったく・・・」
人の心配をよそに、キャルルは背伸びをしながら言った。
「あー、疲れた。ちょっと寝るね。見張り番、よろしく~」
キャルルは寝るのに適当な場所を見つけると、そそくさと退散していった。
「ほんとに自由なんですから・・・」
グランはもう一度、夜空を見上げる。
——あの二人にとって、私たち調停者こそがまさしく世界の異物、だったのですね。
理解した気になるなど、甚だ傲慢な話だろう。
それでも、二人の気持ちをわずかでも推し量れただけで、グランにとっては十分なのだった。




