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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第一章 最凶の魔物
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森の住民2

 肩越しにでも、気配でわかる。声の主は矢を番えている。


 同様の気配は至る所にあった。完全に取り囲まれているようだ。おそらく、さっきのローリーの声で位置がバレたのだろう。


「お前たち(・・)が森の賢者か?」


 他の連中が隠れ潜んでいるようだったので、ヘイトは『たち』の部分を特に強調した。


「気配を察したか。が、それでいい気になるなよ」


「お前たちが森の賢者なら、俺がお前たちとやり合う理由はない」


「森の賢者? 笑わせるな。俺たちはもっと高潔な種族だ」


 彼らが人か魔物か、姿を見てそれを確かめたかったが、この状況ではそれもままならない。そう感じたヘイトは、大人しく従うことにした。


 謎の種族に誘導されて、ヘイトたちは開けた場所に連れていかれた。どうやら、先ほど光が見えていた集落の中心らしい。周囲に寂れた木造の家屋が立ち並んでいる。そこで、『彼ら』の姿も拝むことができた。


 人にしては、やけに身長が高い。ヘイトのそれには遠く及ばないものの、二メートルは超えている。さらに、特徴的なのは異様なまでに尖った耳。そして、皆一様にして容姿端麗で、細身でしなやかな四肢をしている。


「これはエルフと呼ばれる人たちですね…」


 シルバがこっそりと耳打ちしてくれた。ふと肩に目をやると、指先ほどの大きさのシルバの分身がそこに乗っていた。当の本体は素知らぬ顔でエルフを見ている。


 なるほど、便利な体だ。


「でも、何か違和感があります。…なんでしょうか」


 肩の上のシルバは指を頬に当てて首を傾げた。


「我らは高貴なる森の民族、エルフなるぞ。貴様らは如何なる理由で我らの森を踏み荒らしに来たというのだ」


 跪いたヘイトたちの前に出た一人のエルフが高飛車に言う。


 話を聞く気があるということか。が、口を開く前に確認したいことがある。


 ヘイトは肩に乗るシルバの分身に声をかけた。


「あのエルフとかいうのは、人間なのか?」


「いえ、人というにはかけ離れてます。かといってモンスターに分類できるかと言われると、そうでもないですね…。その中間といったところでしょうか。彼らの中には人に友好的だったり、モンスターに優しかったりする人もいるようですが…」


 なるほど、な…。この世界にはどっちつかずの中途半端な生き物も生息しているということか。であれば、ここからどうするかは彼らの出方次第ということになる。いざとなれば、周囲に潜むものもあわせて全員切り伏せるくらいは可能か。


「俺はクリスタルタワーのヘイトだ」


 名乗った時点で相手方が察してくれたならば話が早かったのだが、俺の姿を見てもピンとこなかったところからして、望みは薄そうだった。


「クリスタルタワー? かの地にそのような名を持つ者が住んでいるなど、聞いたことがないな。森の賢人たる我らを騙そうなど、愚かしい真似はするものではないぞ、人間」


 このエルフは俺のことを人間だと思っているのか…? いや、まあ、俺の見た目はまだ人に近いからわからないでもないが、傍らに生粋のモンスターまで連れているのに? ましてや、口を塞いだ人間まで小脇に抱えてもなお、俺を人と見ることができるというのか。


「ヘイト様、やはりあの方たちはおかしいです」


 耳元でシルバが囁く。


「どういうことだ?」


「エルフというと、知的で聡明なことで知られる種族です。まさか、クリスタルタワーのヘイト様のことを存じ上げないはずありません」


 ヘイトにしてみれば、自分のことを知っているかどうかを、彼らが怪しいと決めつける理由にはし難かった。


 たとえ、モンスター界隈でそこそこ名が知られているとしても、知らなかった者がいたところで不思議ではない。森の奥のように、外界から遮断された環境ならなおさらだ。


「それだけじゃ不十分だ。このまま捕らわれるつもりはないが、棲み処を荒らされて頭に血が昇る気持ちも理解できる。第一、俺の目的は同族を苦しめる人間の討伐だ。あいつらがもし俺と同じモンスターなら、剣を向ける理由はないだろう」


 人間の討伐と聞いて、ローリーから「ひっ」という音が聞こえた気がする。


 ヘイトが心情を吐露したことで、シルバは発言をためらった。が、まだ何か引っかかる部分があるようだ。


「分かりました。もう少し探ってみます。もしよければ、周辺を見てきても?」


「ああ。バレないようにな」


「もちろんです」


 シルバがしようとしていることはヘイトも予測できた。自分の分身を使って偵察を行うつもりなのだ。彼女の速度ならば、並の者では捕らえられないどころか、目で追うことすら困難だろう。


 シルバの本体から、極小のシルバが生み出される。それは彼女から完全に分離すると同時に、目にもとまらぬ速さで離れていった。おそらく、ここにいる誰もがその姿を見ることさえかなわなかったはずだ。ただ一人、俺を除いては。


 シルバの隠れた才能が発見できたところで、俺がすべきことは一つだ。時間を稼ぐ。


「ところで、こちらからも一つ質問があるんだが」


 ヘイトが言うと、正面のエルフは笑った。


「貴様にそのような権利があると思うか? この場を仕切っているのはほかでもない我らだ。大人しく沙汰を待つがいい」


 しかし、ヘイトは黙らない。


「あんたらは何が望みなんだ? 俺たちを捕らえて、その後はどうする? ここでいつまでも待たせているところを見ると、何の考えもなしに行動しているような気がするんだが? まさか、行き当たりばったりだなんてことはないよな?」


 挑発――とまではいかない程度にするつもりだったが、そうはいかなかった。


「貴様ァ、我々を挑発しているのか!?」


 取り囲んでいたエルフ共々、彼らは一斉に武器を構える。


「なに、少し気になっただけさ」


 会話が楽しくなってきたヘイトは、一呼吸おいて追い打ちをかけた。


「しかし、あれだな。エルフってのは高潔だの高貴だの言う割に、えらく短気な生き物なんだな」


「何ィッ!?」


 正面のエルフは腰にぶら下げていた短刀を引き抜き、つかつかと歩み寄ってきた。


 が、ヘイトの視線は彼の手元にあった。


 ――錆びた短刀。


 彼らが本当にこの森に住む高貴(・・)な生き物なら、自身の持つ装備の手入れを怠るだろうか。ましてや、住んでいる環境や持っている弓からして、この者たちは狩猟民族と思われる。ならば、短刀とて生活必需品レベルのはずだ。錆びているのはおかしい。


「それ以上口を開いてみろ、二度と口がきけないようにしてやるぞ」


 錆びた短刀を突き出してエルフは凄んだ。


 膝を折っても立っているエルフと身長が変わらないヘイトは、血走った眼を冷ややかに見つめる。


「な、なんだ…!?」


 脅しても全く通用しない相手を前にして、息巻くエルフはたじろいでいるようだ。


「ヘイト様」


 その時、耳元で声がした。シルバが戻ったのだ。


「いつの間にかこんなことになってたんですね。早めに戻ってよかったです」


 シルバは一息つくと、話を始めた。


「ここの集落を一通り見てきました。で、結論から言うと、どうやらここは廃村のようです。家屋の中はすべて空っぽ。誰かが生活している気配など微塵も感じません。彼らは確実に嘘をついています。たぶん、幻か何かを見せているものかと…」


「なら、その嘘を暴いてやろう」


 ヘイトはそう言うと、至近距離で怒りに燃えるエルフにふぅっと息を吹きかけた。


「何をする!?」


 短刀を振りかざしてそう言ったエルフは、すでにエルフの姿ではなくなっていた。


「すべての魔法による付与効果を無効化する吐息だ。お前の変身もこれで解けたな」


 立ち上がったヘイトの足元でうずくまっていたのは、小汚い布切れを身に纏った、腰の曲がった老人のような姿の魔物だった。

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