空からの来訪者2
ヘイトとシルバは、空から降ってきた翼の少女をゲストに招いて室内でお茶を愉しんでいた。
彼女は名をターニャといい、自分のことを天使だと紹介した。
ただ、天使になってから日が浅く、ちょうど飛行訓練の真っ最中だったのだという。
「いや~、前々から豪勢な建物だとは思ってたけど、中もやっぱりすごいね~」
ターニャは室内を見渡しながら言う。
「あの、天使っていうのは、普段は何をされてるんですか?」
すっかり落ち着きを取り戻したシルバが尋ねる。
「うーん、あたしってば、さっき言ったようにまだ新米だからさ。先輩たちが何してんのかとかあんまりよくわかってないんだよね」
ターニャはお茶をすすり、ふと思い出したように言った。
「あ、でも、下界をパトロールするのが仕事かも」
「パトロール、ですか?」
「うんうん。何か悪さをしてる人はいないか、とかね」
「見つけたら、どうするんですか?」
「さあ? 別にどうもしないんじゃない?」
「ええ・・・」
天使というのは、お気楽なものなんだな。
ヘイトはそう感じた。
「ところで、天使は人に分類されるのか? それとも魔物?」
ヘイトが聞くと、ターニャは考え込んだ。
「どうなんだろ・・・。もとは人だったけど、魔物になっちゃったって感じなのかな? だけど、人からしてみれば、そんなに敬遠されてるわけでもないし・・・。人の慣れの果てって感じ?」
「もとは人間だったのか。だとしたら、俺たち魔物のことは怖くないのか?」
「そりゃ、敵対心むき出しで来られたらもちろん怖いけどさ。あんたたちみたいなに話が通じるなら、怖がる必要なんてないじゃない?」
ヘイトはちらっとシルバの方を見た。
彼女は、当初の自分が敵意を前面に出していたことを恥じているようだ。バツの悪そうな表情をしている。
「人の慣れの果て、といったが、天使になるのに条件があるのか? それとも、全員がなれるのか?」
「条件、ねぇ・・・。さあ、よくわかんない。人である間にいいことをたくさんしたら、選ばれるのかもね」
自分で言っておきながら、ターニャは誇らしげに鼻を鳴らす。
一人で空を見上げている最中に、天使や女神ならあるいは自分の目的を果たす手段を知っているかもしれないなどと考えていたが、彼女は恐らく知らないだろうな。
自分がどうして天使になれたのかもわかっていないのだから。
「二人は、ずっとここに住んでるの?」
「ああ」
「いえ!」
ターニャからの質問に、ヘイトとシルバはほぼ同時に答えた。
噛み合わない返答に、ターニャはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「ずっと、というわけではないです! 最近住み始めたばかりで、その・・・」
なぜシルバがどぎまぎしているのかわからないが、言っていることはあながち間違っていなかったので口出しはしないでおくことにした。
「へえ・・・。なんかいいね!」
「なにが、ですか・・・?」
「だってさ、二人は見た感じ、違う種族の魔物同士って感じじゃん。だけど、それを超えて一緒にいるわけでしょ?」
シルバの顔がカァッと赤くなるのが、ヘイトにはわかった。
「だが、この塔にはもっと大勢の魔物が住んでいる。俺たちだけじゃない。いろんな種族が入り混じって生活している」
ヘイトが補足すると、シルバが悲しげな目でこちらを見てきた。
「そうなんだー。じゃあ、魔物の集合住宅ってことかな?」
「よくわからないが、そういうことかもな」
しばらく話をして日が傾きかけたころ、ターニャは席を立った。
「お茶、ありがとね。また近くに来たら立ち寄ってもいいかな?」
「はい!」
「ああ、もちろんだ」
ターニャはバルコニーに出ると翼を広げ、こちらに手を振って大空へと羽ばたいていった。
「いいですね、空。わたしも飛んでみたいなぁ・・・」
ターニャの後姿を見送りながら、シルバがつぶやく。
「そうだな」
そうして、ヘイトとシルバは突然の来客と別れを告げたのだった。




