空からの来訪者1
ヘイトは思い悩んでいた。
フェガリの遺志を継ぐと決めたはいいものの、その方法が失われていたからだ。
目的の障害となる調停者は排除するとしても、達成するためには特異点が必要となる。
フェガリはこの世界に残されたエラーの結晶のようなものを使って、不完全な世界を創り出そうとしていた。
しかし、自分にそのような力はないどころか、記録によればその特異点さえ失われてしまっている。
裏世界にあったものをソールシュルツ・アンクランが、現存していた最後の一つをエメネ・ベウィが吸収したが、両者とも死したことで、特異点は完全に霧散してしまっていると思われた。
手記には特異点を用いた方法以外は記されていない。
調停者を始末しても、これでは遺志を継いだことにはならない。
エラーであればいいというのならば、自分を使うという手段も考えた。
しかし、自分には特異点が持つような世界の理を変えてしまうような力がない。
完全にお手上げ状態だった。
フェガリが自分にまつわることを包み隠さず書き残した手記でさえ、異なる方法が載っていないところから察するに、特異点以外を用いた手段は恐らくないのかもしれない。
昼間でも薄暗いフェガリの寝室を右往左往するうちに、ヘイトは考えるのをやめた。
「とりあえず今は、できることからだ」
新鮮な外の空気でも吸おうと、ヘイトは屋上へ続く階段を上がった。
世界で最も空に近い場所があるとしたら、ここがそうかもしれない。
そういえば、昔、俺に挑んできた魔法使いが、ある本を持っていた。
なんでも、空の上には天上の世界があって、そこには背中に純白の翼を持つ天使と、それを統べる女神が住んでいるのだという。
「天界か…」
空の上からならば、きっとこの世の隅々まで見渡すことができるのだろう。
「いろんなものが見えるのだろうな…」
ふと、ヘイトは視界の中で動く影を見つけた。
豆粒ほどの大きさしかなく、意識しなければ見失ってしまいそうだ。
「なんだ、あれ…」
鳥か・・・? いや、にしては大きい・・・。
豆粒ほどの大きさしかなかった影は、だんだん大きくなっていく。どうやら近づいてきているようだ。
翼の生えた・・・人か?
ん? ——というより、落ちてきている?
「ちょっとどいてぇ~!!」
「なっ・・・!?」
俺は空から降ってきた謎の少女と派手にぶつかった。
まさか、ピンポイントでここに落下してくるとは・・・。
「いたた・・・、あの、大丈夫?」
「俺は大丈夫だが・・・。あんたは平気なのか?」
「なんとか・・・」
背中に翼の生えた少女は、頭をさすりながら立ち上がった。
——まさか、本物の天使?
「どうしたんですかぁっ!?」
すごい剣幕で割り込んできたのは、部屋にいたシルバだ。
「いや、急に空から降ってきて——」
「つ、翼!? だ、だだだだ、誰なんですか?」
警戒心をむき出しにしてシルバが問うた相手はヘイトだった。
——いや、俺に聞かれても・・・。
「ごめんなさい、急に落ちてきたりして・・・」
かなり上空から落ちてきた割に、少女は至って平然としている。
「よくあることなのか?」
「うーん・・・。そんなにしょっちゅうってほどでもないかな。ただ、風を読み間違えると落ちるね」
なんというか、当たり前のように言われるとこちらも納得してしまう。
背中に翼・・・。おとぎ話だとばかり思っていたが、頭に輪っかこそないものの、目の前にいるこいつが天使というものなのだろうか。
「急ぎでなければ、上がっていくか?」
興味がわいたヘイトは、少し少女と話してみたくなった。
「いいの!? やったー」
少女は両手を上げて無邪気に喜んだ。
隣から不穏なオーラをひしひしと感じるが、それは気づかないふりをしておこう・・・。




