フェガリの手記
その夜、ヘイトはフェガリの寝室へと足を運んでいた。
魔神が死に、この塔に戻ってきてから数回しか入っていないが、ヘイトにはとある目的があった。
魔神フェガリの手記だ。
フェガリはタワーの最上階に閉じこもっている間にも、淡々と日記をつけていた。
大半は『何もなかった』とか、『眠い』とか、他愛のないものばかりなのだが、ときたま気になる文言を見かけることがあったのだ。
前に訪れたときはパラパラとページをめくるだけだったのだが、魔神フェガリの真意を知るためにも、目を通しておくべきだと常々思っていたのだった。
最初の方のページは、まだフェガリがクリスタルタワーを建造する前の話だ。
これに関しては、ヘイトも直接フェガリから話を聞いていた。
そして、そこで出会った男こそが、世界を創造したクウィストという人物であるという真実も、そこには記されていた。
…聞かされていた話には多少の脚色があったようだ。
ヘイトは思った。
世界の成り立ちや調停者の役割など、様々な話が手記には記載されており、ヘイトは夢中になって読み耽った。
夜も明けようかという頃、全てを読み終えたヘイトは手記をもとあった場所に戻し、シルバの眠る九十九階へと降りていった。
バルコニーに出て、白む空を眺める。
――この世には、まだ調停者が存在している。
手記には、それを示唆するような文章が多々見受けられた。
さらに、ヘイトはここにきてようやく、フェガリの真の思惑を知ることになった。
――不完全な世界の完成。
一見すると矛盾するような表現だが、フェガリの求めていたものはまさにこれだった。
理に統制された世界ではなく、不確定な要素が残された世界。フェガリは、それを追求するために特異点を集めていた。
エラーをエラーとして認めず、是とする世の中こそ完璧で、美しい世界であると、魔神は信じていた。
と同時に、そのような世界の完成は、世界の創造主であるクウィストの意志を継ぐことだとも考えていたようだ。
となれば、俺がやるべきこともただ一つ。
俺がフェガリ様の意志を継ぐ。
魔神が最初に生み出した、この世に生けるエラーとして。
――そのためにも。
ヘイトは頭の中に名前を思い浮かべる。
グラン・イージスとキャルル・ヴィルジーナ。
手記に記されていたこの二名の調停者には、死んでもらわなければならない。




