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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第三章 主なき番人と世界の守護者
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平穏

「ヘイト様ぁ! お茶淹れましたよー!」


 バルコニーからシルバが呼ぶ声がする。


「ああ、すぐに行く」


 ヘイトは地上九十九階の部屋から出て、シルバの待つバルコニーへと向かった。


「今日は、アーガナティーですー! 今朝、外に出て摘んできたので、採れたてピチピチです!」


 昼下がりにはこうしてシルバとティータイムを愉しむのが最近の日課になっている。


 クリスタルタワーの周辺にはヘイトが思っていた以上に様々な草花が生えているようで、シルバは毎日多種多様なお茶を用意してくれる。


「うん、うまい」


 ヘイトが率直な感想を言うと、シルバは顔を赤らめた。


「ほんとですか!? ありがとうございます! クザンさんもお茶に詳しいらしいんですよー。今度、一緒にどうですかって誘っちゃったんですけど…」


 上目遣い…かはわからないが、この表情をするときは決まって、何かをお願いしてくるときだ。


「別にかまわない」


「やったー!!」


 こうやって、こちらが思う以上に喜んでくれるのだから、断れるはずもない。


「それじゃ、明日は――」


 シルバが次の日のお茶の材料を考え始めたので、ヘイトは外を眺めた。


 あれから幾月かが経った。


 が、人間たちが何か行動を起こしてくることはない。


 そもそも、調停者のみにしか、俺が異常だということは認知されていないのだから当然だ。


 フェガリが俺を創ったとき、彼はこの世界の摂理のようなものの一部を書き換えたらしい。もともと存在すらしなかった俺を、存在していることにしたのだ。


 魔神がこの世を去ったことも、一般人は気がついていない。


 だから、ここにもたまに訪問者が来ることがある。


 以前と比べて頻度は大幅に減ったが、それでも来た人間の相手は今でもし続けている。


 とはいえ、シルバと連日のようにお茶を飲んで優雅に暮らせるのだ。前に比べれば、ずいぶんと平和になったものだ。


 しかし、依然として調停者の懸念が消え去ったわけではない。


 俺が葬った幾人かの調停者たちは、連中の一部であるかもしれないのだ。


 ――そう、氷山の一角だ。


 もし再び調停者が現れたら、また対峙することになるだろう。


「…すべては、フェガリ様のために」


「あれ、何か言いました?」


 思いがけず口に出てしまった一言に、シルバが首をかしげる。


「いや、なんでもない。お茶、美味しかった。ありがとう」


 ヘイトは空になったティーカップをテーブルに置いて、部屋へと戻った。


 前は戸棚くらいしかなく殺風景な室内だったが、クザンたちが住みやすいようにと家具を用意してくれたおかげで、何不自由なく暮らせている。


 俺が壁に背を預けて毎晩眠っていると聞いた時のクザンの驚きっぷりときたら、相当なものだった。


 それから頼んでもないのにベッドやらイスやらを運び込み、今ではかなり生活感のある見た目になった。


 魔物の中でも、器用な者もいるらしい。なにせ、自分のような巨体が使うのだからと、全てオーダーメイドで揃えてくれたのだ。


「ヘイト様、ちょっとお願いがあるんですけど…」


 また、シルバの上目遣いだ。


「どうした?」


「あの、その、えっと…」


 なかなか話し始めないシルバを、ヘイトは根気強く待つ。


 今ではこれにもすっかり慣れた。


「マッサージしてください!!」


 ようやく話すことを決意したのか、シルバは部屋中に響き渡るほどの大声で言った。


「なんだ、そんなことか。横になれ」


 ヘイトはベッドに行くように促す。


 シルバのマッサージとは、ごく単純なものだ。


 小手を外し、ベッドの上で横になったシルバに指を押し付ける。


 彼女の防御力は言わずもがな、最硬だ。


 ゆえに、生半可な力では全く効力を持たない。


 ヘイトのような、ある意味馬鹿力を持つ者でなければ務まらないのだ。


「んはぁっ…、くぅ…」


 気持ちよさげに声を上げるシルバに、ヘイトは満足げな笑みを浮かべた。


 いつも身の回りの世話をしてもらっている、せめてもの礼だ。


 シルバのような存在を、人間界ではメイドとでもいうのだろうか。


 …いや、俺にとっては、それ以上の存在だが。


「ありがとうございます…。朝から躍起になって花を探してたので、少し凝ってしまって」


 硬すぎる彼女のどこがどう凝っているのかはヘイトにすら疑問だが、ほぐせたようなら何よりだ。


「満足したか?」


 そう問いかけると、優しい笑顔が返ってきた。


「…はい!」


「そうだな…、このまま少し眠るか? 昼寝をするにはちょうどいい陽気だ」


「へっ…!?」


 シルバが戸惑うのもかまわず、ヘイトは彼女の横に寝転がった。


 そうして、二人は午後のまどろみをともにするのだった。

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