決着
シルバがワーズの本体を探している間に、襲い来る三人の敵を同時に相手していたヘイトは、自分の読みが信憑性を帯びてきたことに確信を得つつあった。
――これを利用すれば、一気に畳みかけることができる。ついでにあの複製野郎の主も消し去って、戦いに終止符を打つ。
「見つけました!」
無数のシルバたちが一塊に集合しながら口々に声を上げた。
「城の外――町の中にいます!」
最後の一匹を取り込んだシルバは、ワーズの本体がいる方角を指差した。
「よし」
ヘイトは左腕の断面をシルバの体につけて装着し、軽く飛び上がって城を囲む城壁の上に飛び乗った。
シルバと繋がっているからか、彼女から目的地のイメージが伝わってくる。
人気のない町中を走り抜け、ヘイトは路地裏で細剣を手に佇むワーズを発見した。
「見つかったか」
見た目は複製と遜色ない。そっくりそのままだ。
ヘイトは逃げも隠れもしようとしないワーズ目掛けて、剣を振り下ろした。
見るも無残な姿となったワーズがその場に崩れ落ちる。
「一人目だ…」
そう言ったのも束の間、どこからか声が聞こえてきた。
「終わらせた気でいるようだが、残念だったな」
ワーズの声だ。
「なに?」
振り返るも、そこに彼の姿はない。
「本当の俺がどこにいるかなんて、誰も知らない。知る由もない」
――ハメられた!?
「落石ッ!!」
頭上から聞こえた声とともに、巨大な岩石が降ってきた。
あの女魔法使いか…!
剣を突き上げて岩石を粉砕すると、瓦礫の間から今度はアンクランが現れる。
「終わりにしましょう!」
彼は突き上げられた剣を、身を翻して避けると、空を仰ぐヘイトの喉元に剣を突き立てた。
ガキンッと金属音がして、かろうじてシルバの体が間に割って入る。
「これでもダメですか…」
アンクランは呟いた。
ヘイトはシルバに思念を流してアンクランの顔面を掴み、屋根上に立っていたサラに焦点を合わせる。
やはり面倒な方から殺るか…。
邪剣を振りかぶり、ヘイトは屋根上のサラに投げつけた。
ブーメランのように回転しながら飛んで行った剣を、サラは分厚い氷の壁で受け止めた。
――シルバ、少し我慢してくれ。
ヘイトは、シルバに思念を流し続ける。
銀色の流体に包まれたアンクランの頭が、ギシギシと悲鳴を上げる。
果実が潰れるような音とともに、アンクランの首筋を血が滴り落ちた。
彼を解放するも、その体は二度と動くことはない。
「すまない、シルバ」
「いえ、別に、かまいませんから…」
シルバは狼狽していたが、そう返してくれた。
続けざまに、ヘイトは邪剣に右手をかざした。
氷に突き刺さった剣の柄からヘイトの右手にかけて、空中に暗い紫色をした煙のような筋が漂い始める。
「その剣は、邪剣ケラプディスだ。聖剣グラントと並ぶ業物。氷の壁が通用すると思うな」
まるで遠隔操作されているかのように、剣が氷を引き裂き始める。
あの女は魔法の腕こそ一流だが、近接戦闘となると果たしてどうだろうか。
「く、くあぁぁっ!!」
氷壁の向こうで、ヒト型をしたシルエットが大剣に押し潰されていく。
苦悶の叫び声をあげながら彼女は倒れ、後には返り血を浴びた氷だけが残された。
「片付いたか…」
半ば肩で息をしながらヘイトは言った。
「さて、残るは――」
言い終わるが早いか、ワーズが目の前に現れた。
「アンクランに、サラまで…。貴様、ただで済むと思うな」
細剣をこちらに突き付けて鋭い眼差しを向けるワーズ。
「どこからどこまでが作戦通りだったかは知らないが、結果は結果だ。受け止めろ。それに、お前の実力じゃ俺には勝てない。あの二人よりも酷いことになるぞ」
「…だろうな。だが、今さら退くことはできないッ…!」
――血迷ったか。
無謀にも直進してくるワーズに対して、ヘイトは素手で立ち向かった。
「はあッ!」
並の人間同士ならばいざ知らず、ワーズの細剣はあっさりヘイトの右手に掴まれた。
「くッ…」
ワーズは咄嗟に細剣を手放すと、後方宙返りで身を引いた。
ヘイトはいとも簡単に細剣を握り潰して粉々に粉砕し、足元に欠片をパラパラと落として見せた。
「終わりだ」
わずか二歩で、ヘイトはワーズとの距離を詰める。
ヘイトが振りかぶった右の拳をかろうじて避けるワーズ。
しかし、左手の二打目は避けられなかった。
バキバキとあばらが砕ける音がして、ワーズは吹き飛ばされた。
「ゲホッゲホッ」
血反吐を吐きながらも立ち上がったワーズの顎を、ヘイトは容赦なく蹴り上げた。
金属製の甲冑を身に纏ったヘイトの足蹴りで、ワーズは高く打ち上げられ、地面に落ちて動かなくなった。
「うぅ…、酷い有り様ですけど、やりましたね…」
シルバはどうやら目を背けているようだ。
「ああ。フェガリ様の仇だ…」
ヘイトは空を見上げた。
もうこの世に、魔神フェガリは存在しない。
だが、まだ終わりはしない。
俺の世界に、かの神がいるうちは――。




