ハイレベル
金属と金属がかち合う音。噴出する魔力。
どれもが常軌を逸した戦いだった。
石畳の地面が跡形もなくなるほど、戦闘は激化し、熾烈を極めていた。
アンクラン、ワーズ、サラの三人は死力を尽くしたが、それでも魔将軍の勢いを止めるには力不足と言わざるを得ない状況だった。
対するヘイトも、なかなか決着を付けられずにいた。
三人には、とても連携と呼べるような動きは見られない。あえて言うならば、チームワークに関しては並のパーティ以下だ。
それでも、ヘイトが試合を決めきれずにいたのは、彼ら個々のポテンシャルの高さにあった。
その水準はこれまで会ったどんな人間よりも上をいっている。
さらに付け加えるならば、彼らが今まで会った人間と違うところは、機転が利くというところだ。
一見、連携の見られない動きでも隙を全く感じさせないのは、恐らくそれぞれが如何なるタイミングにおいても最善の選択をしているからだろう。
結果的にそれが、仲間の隙をカバーすることに繋がっているのだ。
戦いにおいて、互角かあるいはそれ以上の相手と対峙するのは非常に有意義ではある。実際、この戦闘を楽しみつつある自分がいることにも、ヘイトは気が付いていた。
だが、仮に悔いなく戦い抜いたとしても、その結末が勝利でなければ意味がない。特に、この戦いにおいては。
戦力が拮抗した場合なら、ヘイトは自分に軍配が上がることをよく知っている。
なにせ持久力において、未だかつて自分を超えた人間はいないからだ。
この三人がどれだけの力を有していようとも、体力には限界がある。
それこそ、人間と魔物の差。どうあがいても埋めようのない溝が、そこにはあるのだ。
押し寄せる火炎の波を気だけで跳ね除け、その向こうから現れたアンクランに、ヘイトは剣を振った。
彼の姿は掻き消え、一瞬ののちに頭上に出現する。
振り下ろされる剣をシルバが防いだとき、ヘイトはわずかにシルバへと流れる魔力の流入量を増やした。
「ひゃっ!?」
突然の刺激で驚いた悲鳴を上げるシルバだが、ヘイトの制御下からは逃れられない。
超硬の流体はシールドを模した形態から流動的に変化し、アンクランの持つ剣を包み込む。
異変を感じたアンクランが姿を消すよりも早く、ヘイトは左腕が絡めとった代物を地面に叩きつけた。
集中を阻害されたアンクランが体を激しく地面に打ち付ける。
――これくらいの攻防なら、今までも何度かあった。問題は、この後だ。この三人は連携の意図などなくとも、自ずと行動がそれに準ずる。…俺の読みが正しければ、その理由はたった一つだ。
ワーズが素早く走り寄り、細剣による刺突を繰り出してくる。
彼の攻撃は素人に毛が生えた程度だ。直撃したとて何ら問題はないが、そこはシルバの自動防壁が展開する。
このワーズという男は、攻め方も下手だが、退き方も下手だ。他の誰よりも劣っている。
なぜこんな男が、いつまでも俺に刃向かってくるのか。
答えは簡単だ。こいつが無尽蔵に増え続ける複製男だからだ。
…チャンスは多ければ多いほどいい。しかし、闇雲に突撃するだけでは、せっかくの機会を無駄にしていると言っても過言ではない。
ヘイトは目の前で細剣を突き出す男を薙ぎ払った。――これで彼を倒すのは何度目だろうか。
アンクランに目をやると、彼はまだ地面に転がって呻いている。
相当なダメージが入ったようだ。とはいえ、放っておくと、ここにはもう一人厄介な人間がいるのだ。
並々ならぬ魔力を有し、あらゆる魔法を駆使するサラという女。ある意味、ここにいる中では最も強いかもしれない。
ヘイトは人と比べれば尋常ではない魔力を持ち、スタミナも比ではないが、こと魔法に関していえば、彼女の方が上手の可能性さえある。
というのも、あの女には妥協の二文字がないのだ。恐らく、常に最大出力の魔法を使っている。
ヘイトでさえ、力を使わなければ凌ぎきれないほどだ。
できるなら早い段階で始末したかったが、こうも乱戦ではそれもままならない。
「水よ!!」
発する単語は至極単純。
しかし、その威力は絶大だ。
何もなかった空間から、瞬く間に大波が出現する。
いわゆる飽和攻撃に対しては、シルバも大して意味を成さない。
ヘイトは大剣を地面に突き立てて盾代わりにした。
押し寄せる波が大剣を避けるようにして分断される。
「すみません、ヘイト様…」
無力な自分を嘆くかのようにシルバが謝罪する。
ヘイトは黙ってその言葉を受け止めると、波が消えると同時にアンクランの姿を探した。
「…やはりか」
あの女の出した魔法は、俺への牽制であるとともに、アンクランを救出するためのものだったのだ。
威力をそのままに、そこまで繊細な微調整ができるのだ。実力の程が見て取れる。
加えて、彼女だけは、他に命に対する仲間意識があるようにも感じられる。
まあ、後衛であるなら、前線の味方をフォローするのは当然のことかもしれないが。
「骨が折れる…」
現状を打開するには、この三人の中で一人でも仕留める必要がある。
「え、えっと、どこか痛いんですか?」
ただの愚痴だったのだが、真に受けたシルバが気遣ってきた。
「いや、大丈夫だ」
そう答えて、ふと思った。
「…シルバ、少し用事を頼まれてくれないか?」
「ええっ? この状況で、ですか?」
「ああ。この状況だからこそ、だ」
アンクランは恐らく、さっきのダメージがあってしばらくは動けない。
ワーズはしつこいだけで、特段気にする必要はない。
サラにだけ気を付けていればいいのなら、シルバが不在でも問題はない。
「あのワーズとかいうクローン人間の本体を見つけ出してくれ。この近くに潜んでいるはずだ」
この戦闘中に、何度あの男を殺したことか。
こうも次々とクローンをけしかけて来られるのだから、恐らく近辺でひたすら分身を作り続けているのだろう。
「わ、わかりました!」
シルバはヘイトから分離すると、地面に落ちると同時に細切れになって分散した。
彼女の数とスピードならば、見つけ出すのにそう時間はかからないはずだ。
その間、俺が三人を一手に引き受ける。




