策謀するワーズ
ワーズは、自分を不運極まりない男だと感じていた。
クリスタルタワーの魔将軍と対峙したのは初めてだというのに、その魔物が会って数分も経たないうちにフルパワー同然の力を見せ始めたからだ。
討伐するには、あまりにも情報が少なすぎる。
とはいえ、フェガリとて十分な条件下で倒せたわけではないのだが。
こちらの手札はソールシュルツ・アンクランとサラ・ブランシェットの二人。
使いようによっては最強の魔物とて、どうとでもなるポテンシャルを秘めた彼らだが――、果たしてどうなるだろうか。
肝心の俺はというと、使える能力は、ただコピーを生み出すだけなので、あの巨体に有効かと聞かれたらイエスとは言いにくい。
今以上の人数有利を作りだす戦法も取れないことはないが、それをしたところで何か意味があるとは思えない。
ここはやはり、二人に頑張ってもらうほかあるまい。
「アンクラン、サラ、聞いてくれ」
目の前でゆらゆらと燃える炎の如くオーラを発する怪物に意識を向けたまま、ワーズは仲間の二人を招集した。
「どうかしましたか」
「なに?」
返事こそ返ってきたものの、二人とも薔薇の魔将軍に目が釘付けになっている。
無理もない。
これほどまでに殺気を感じさせてくる人間も魔物もそうはいない。
意識を無理やり引っ張られているような感覚だ。いやでも意識せざるを得ないのだ。
いや、だがそれでいい。
これから始まる殺し合いに、緊張感は必要だ。
恐らく、緊張の糸が切れたら、待っているのは死だ。
「よし、今から作戦を説明する」
先ほど、フェガリを出し抜いた作戦も立案はワーズだった。
多少の想定外はあったものの、結果的にフェガリを追い詰めることに成功した。
その実績を顧みれば、自分が指示を出しても文句が出ようはずがない。
しかし、予想に反してアンクランが口を挟んできた。
「その作戦、果たしてどこまで有用性があるのでしょうか」
「どういうことだ?」
「いえなに、あなたはまだ、紫眼の巨人と戦ったことがないのでしょう」
――その通りだった。
曲がりなりにも、アンクランは戦闘経験があるのだ。その点で言えば、自分より上をいっていると言ってもいい。
「じゃあ、お前が考えるのか?」
「…いえ、私は遠慮させていただきます」
「なに?」
「ただし、いくつかあの魔物に関する情報をお伝えしますので、それを踏まえた上で、作戦を立ててくれたらと思います」
「…わかった」
「それまでの時間稼ぎは、出来る限りやってみますので」
アンクランらしからぬ発言だ。
自己犠牲など、彼は自ら進んでやるタイプではない。
がしかし、この状況では四の五の言ってられないか。
「サラ、かまわないか?」
「ええ。食い止めてみるわ」
ワーズはアンクランから魔将軍ヘイトに関する情報をいくつか聞いた後、少し後方に下がって策を練り始めた。
その間、アンクランとサラが攻撃を引きつける。
二人の戦闘中の情報も、ワーズは観察した。
これらすべてが、あのバケモノを倒す材料になるはずだ…。
ワーズは思考を張り巡らせた。




