呼び覚まされし衝動
「ど、どういうことでしょう、ヘイト様…」
左腕に戻りつつあったシルバが怯えた声を出す。
「わからない…。だが、俺が幻に侵されている間に何かが起きたことだけは確かだ…」
フェガリが死んだなどと、信じられるはずがない。
目の前で起きている現象こそが、ヘイトには幻に思えて仕方がなかった。
魔神の胸元を突き刺した凶器は、細く鋭い形状をしていると思われた。
――許せない。許せるはずがない。
胸の奥深くから、懐かしささえ感じさせる、あの感情が湧き上がってきた。
鼻息が荒くなり、開いた口から湯気が立ち上る。
「どうなっている…?」
ワーズが困惑した表情を浮かべている。
しかし、もはやヘイトには三人がヒトであるということ以上の情報は認識できない。
「ヘイト様ぁ…」
またも高熱にうなされる羽目になったシルバは身じろぎした。
「…悪い、シルバ……」
かろうじて残っていた理性が、ヘイトの暴走をあと一歩のところで食い止めている。
「いえ…、ただ…、わたしは――」
声を振り絞るシルバは悶えた。
「あぁ…、くぅ…、わたしは、わたしは…」
「ググァ…」
ヘイトは怒りに震える全身を精神力で抑えつける。
シルバの為にも、ここで自我を失うわけにはいかない。
「わたしは…、許せないんです…!」
シルバの語気が強くなる。
「…?」
「魔神様をあんな風にした人間が、許せません…! だから、だから、ヘイト様、お願いです! あの人たちを…、倒してください!」
シルバの意思を聞いて、一瞬、ヘイトの心の中の怒りが静まった。
「…あれ? ヘイト様…?」
落ち着きを取り戻したヘイトを見て、シルバが素っ頓狂な声を上げる。
「わたし、何か変なこと言いました…?」
「いや、大丈夫だ、シルバ…」
心は、これ以上ないほどに落ち着いている。
それは確かなのだが、一つ、違うことがあった。
全身に湧き上がる怒りの力…。これを、今も感じることができるのだ。
「ただ怒りに身を任せているのではバケモノも同然、ということか。シルバ、お前の一言で、俺は我に返ったらしい」
「じゃあ、あの、もう怒ってないってことでしょうか?」
「いや、これ以上ないくらい怒りに震えている。だが、今ならこの力を利用して、どんな状況でも覆せる気がする」
ヘイトは自分の体を見下ろした。
赤い線状のオーラが全身から発せられ、禍々しい殺気を放っている。
まるで自分の体ではないみたいだ。
「行こう、シルバ。フェガリ様は不滅だ」
「…はい、ヘイト様!」
邪剣ケラプディスを肩に担いだヘイトは、前方でこちらを睨みつける調停者たちを葬らんと足を踏み出した。




