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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第二章 この世に神のいるうちは…
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元同僚

「貴様が時間を稼ぐというのか。見物だな」


 フェガリは目の前で剣を構える男、アンクランに言った。


「私では不足ですか? まあ、そうかもしれませんが」


 自嘲気味に言うアンクランだが、本心はそう思っていないことくらい、見え透いていた。


「それで、どうするつもりだ?」


「そうですね…。私から攻撃するというのは、あまりに非効率的ですから…、このまま待つというのはどうでしょう?」


「それは名案だ。貴様の手駒と私の部下、どちらが勝利を手にするか、ここで待つとしようか」


「薔薇の魔将軍ですか…。厄介ですね」


「その表情…、あたかも勝利を確信しているかのように見えるが?」


「さて、それはどうでしょう」


 かつての同僚。ある時からは、決して分かり合えない敵。


 その境界線がいつから引かれたのか。今さら考えても無駄な話だ。


 しかし、私がフェガリという名を持つ人物である以上、彼らとの決着はいずれ必ずつけなければならない。


 たとえ、この身を削ることになろうとも。


「待つ間、暇ですね。少し話でもしませんか?」


 提案を持ちかけてきたのはアンクランだ。


「話、か。貴様はいつもそうだったな。私に何の気なしに近づいては、自分の都合のいいことばかり話す。クウィストによからぬ話を持ち出して、メンバーから外されかけたのも自業自得だったのだろう?」


「この世界を創ったときの話ですか? 懐かしいですねぇ。あれから随分と時が経ってしまいました。そのおかげで、変わったこともたくさんある…」


「変わらないものも、な。その点で言えば、貴様は何も変わっていない」


「フフ。嬉しいような、悲しいような、複雑な気持ちですね」


「少しも変わろうとしない貴様を、変えようとした人間もいた。それすら、貴様は利用したのだ」


「はて、誰のことだか…」


 アンクランは笑みを顔に張り付けて言った。心当たりがあるのだ。


 性格の悪さが彼の売りだ。いちいち真に受けていては、まともな会話などできない。


「エメネ・ベウィだ。忘れたのか?」


「ああ、彼女ですか。覚えていますよ。実に優秀だった…」


「何において優秀だったかは聞かないでおこう。だが、彼女が貴様にどれだけ尽くしたか、本当にわかっているのか?」


「ええ、まあ、把握できる範囲でなら」


 軽い口調。軽い物言い。


 懐柔できるとわかれば即座に手の平を返す。そうでなければ、とことん敵対する。


 力を手にして、その性格の悪さに拍車がかかったかもしれない。


「気が変わった。話はやめだ」


「おや、残念ですね」


「貴様を潰す」


 フェガリは抑えていた怒りをあらわにした。


 今まではヘイトが自分の怒りを肩代わりしてくれていた。


 彼は塔に攻め入る冒険者を倒すことで、その怒りを鎮めていたのだ。


 その感情だけを一手に引き受けるとなると、相当な負担だっただろう。


 失った感情を取り戻すことで、こうも自制が利かなくなるとは、情けないことだ。


 フェガリは指先で立方体を作って飛ばした。


 瞬間移動を手にしたアンクランは、身を消してそれを回避する。


「まったく、いつからそんなに血の気が多くなったんですか」


 アンクランが避けながら言う。


「私は元来、怒りっぽい性格でね」


 立方体の群による光線も、今のアンクランには何ら効果がない。


 しかし、まあ、憂さ晴らしにはなる。


 こちらは動かずともよいわけだし、相手は避けるだけで消耗する。


「まあいいです。いずれは終わらせなければいけません。それが今でも――」


 瞬間移動で至近距離に詰め寄ったアンクランは、フェガリに一太刀浴びせた。


 だが、その刃が届くことはない。


 ふと、フェガリは本気で彼を潰してみたくなった。


 自分が本気を出せば、いったいどれだけやれるのか。


 正直な話、フェガリ自身も特異点の力を100パーセント出し切れるとは言えない。何せ12もの数を取り込んでいるのだ。体への負担も少なからずある。


 100パーセントとは言わない。せめて、50パーセントくらいは出せるはずだ。


 距離を詰めていたアンクランが、姿が揺らぎ始めたフェガリに驚く。


 本気を出せることに半ば喜びを感じていたフェガリは、不気味ともいえる笑い声をあげた。


 サッと手をかざすと、そこから波が生じた。


 波といっても、水を伴うものではない。空気の波だ。


 鼓膜が破れるほどの爆音。空気が震えるほどの衝撃。


 咄嗟のことで反応が遅れたアンクランは、その衝撃波に少し当たった。


 とはいえ、軽傷では済まされない。言うなれば空気の層にせん断されるかのようなダメージだ。


 彼の右足は膝から下が消し飛んだ。


「グッ…」


 これくらいの怪我ともなると、痛みを感じるよりも目の前で起きたことのインパクトが強すぎて受け入れられず、狼狽するという。


 アンクランも、叫び声一つ上げなかった。それどころか、城壁に手をついて、まだ立っている。


「なるほど、凄まじい…」


 嫌な汗をかきながら、まだアンクランは強がっていた。


 フェガリは隙を与えなかった。


 本気を出すと決めたからには、とことんやる。彼が潰れて見る影もない姿になったとしてもだ。


 もう一度、手をかざす。


 立方体の攻撃も、身動きが取れないのでは避けれまい。


 その時だった。


「あれれェ、もしかしてェ、アンクランじゃん? なんだか苦戦しちゃってる感じィ?」


 それは、フェガリも聞き覚えのある声だった。

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