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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第二章 この世に神のいるうちは…
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接近戦

 特異点を吸収したアンクランは人並外れた能力を手に入れていた。果たして特異点は、どんな変化を彼女にもたらしたのだろうか。


 なんにせよ、一筋縄ではいかない可能性が高い。


 ヘイトは気を引き締めた。


 槍を手にしたエメネは構えることもなく、ただそこに立っている。


「何をする気でしょう…?」


 シルバはいつも通り心配そうだ。


 ヘイトが迂闊に近づけないでいると、やがてエメネの体が浮き始めた。


 そして、彼女の背中に薄っすらと光の翼が現れる。


「フェガリに感謝しないとね。ここに残していたのは、一際強力なものだったらしいよ」


 床から少し浮いた状態で、エメネは槍を構えた。


 …とりあえず、様子見か。


 そう思ったヘイトは真正面から突撃した。


 相対するエメネも滑空する隼よろしく突っ込んでくる。


「はぁっ!」


 突き出された槍をかわすと、彼女はヘイトの後方まで飛んで方向転換した。


 ――まだ射程圏内だ。


 振り向きざまに薙ぎ払うが、エメネは上空へと逃げる。そして再び槍を手に突っ込んできた。


 今度はその一撃をシルバに受け止めさせ、ヘイトは目から赤い光線を放った。


 エメネはそれを軽く横にスライドして避けた。


 空高く光線が撃ちあげられ、遥か上空の雲を貫いていく。


 間髪いれずエメネが突きを繰り出す。


 再びシルバが防御する。


 しばらく、一進一退の攻防がその場で繰り広げられた。


 しかし、いくら攻撃を加えてもその槍が相手の体を貫けないと悟ったエメネは身を引いた。


「厄介だね、あんたの相棒は」


 エメネは息を切らせて言った。


「その翼、いいものを手に入れたな」


「空を飛ぶ魔物に対して羨むこともあったけど、まさか自分が飛べるようになるとはね」


 エメネの表情に笑みが見て取れる。


「けど、実際飛んでみて思ったよ。悪くないけど、あいつらも必死なんだなって」


 空が飛べるからといって、自由であるというわけではない。翼を持つ生き物も生きるための術として、空を飛ぶのだ。


 彼女の場合、そこに人間関係というしがらみも絡んでくる。その重さは他者には計り知れないだろう。


「さて、と…。どうしたもんかな…」


 エメネは呟いた。


 戦っていて、こんなにも邪念や雑念を感じさせない相手は、未だかつていなかった。


 いつもなら、高揚感や優越感、時には怒りや憎悪といったものを感じ、理性と本能の境界が曖昧になる。


 だが今は、至って冷静だ。それでいて、意識が張り詰めている。集中しているのだ。


「なんだか、想像してたのと違うね。あんたなら、あたしに隙なんて作らせずに、ただ突っ込んでくるんじゃないかと思ってたよ」


 そうだ。いつもの自分ならそうしていただろう。


 これまで、負けられない戦いは数多くあった。しかし、この戦いはなぜか、負けてもいいような気がする。彼女がこれから歩む道を、見てみたい気がするのだ。


 仮に負けるとするならば、彼女は容赦しないだろう。この足が再び大地を踏みしめることのないように万全を期すはずだ。


 ――そんな未来を、俺は許していいというのか?


 いや、いいはずがない。だが、彼女を殺してしまうのは惜しい気がする。


「来ないんなら、そろそろこっちから行くよ!」


 エメネが叫んだ。


 何か策が浮かんだのだろうか。


 ヘイトは剣を構える。


 思いがけず、エメネは槍を高々と上空に投げた。


 視線を逸らすためかとも思ったが、すぐに行動してくる気配もない。


 と、失ったはずの槍が再び彼女の手元に現れた。


 投げた槍を手元に戻したのか…? それとも――。


 考える余裕もなく、エメネは向かってきた。


 ――こちらも少しやり方を変えるか。


 向かってくる槍をヘイトは避ける素振り一つ見せず、剣を下ろして待った。


 エメネは決意の表情で迷いなく突進してくる。


 槍の穂先を体をずらしてかわし、すれ違うであろうエメネに対して銀色の拳をぶつける。


 さすがに間合いを詰め過ぎたのか、エメネは避けきることができなかった。


「ああっ!!」


 渾身の一発とは言わずとも、力のベクトルが相反する方向に作用していることもあって、ヘイトの拳は相当なダメージを与えたようだ。


 エメネは床に体を打ち付けた。


 倒れるエメネに、ヘイトはゆっくりと歩み寄る。


 あと数メートルというところで、エメネが突如として上体を起こした。


 手に持った槍を素早く逆手に持ち替え、接近するヘイトに投げつける。


 シルバによって弾かれた槍は地面に転がった。


 が、エメネの手には次の槍が握られていた。


「ヘイト様!!」


 シルバも同じことを考えていたようだ。


 ヘイトは思いっきり後ろに飛び下がった。


 旋風を巻き起こして高高度から突き刺さった槍は、床に無数の大きなヒビを入れた。


「危ないところでしたね…」


「ああ、助かった、シルバ」


 礼を言うと、シルバは左腕で身じろぎした。


「見破られちゃったか。ま、当然だね」


 立ち上がったエメネは体をはたきながら言った。


 今のは演技だったということか…? だとすれば、俺が殴りにかかるのも計算づくだった…?


「でも、次はそうはいかないから」


 エメネの顔つきが変わる。


 彼女は、槍を天に突き上げた。

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