最凶
――眠い。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…」
――クーパー…。
「ヘイト様――!」
時間にして、一秒にも満たなかったであろう。
ヘイトは失いかけた気を取り戻し、足を開いて倒れかけた体を支え直した。
「ウオァァァァァァァァ!!!」
頭から流れる血が顔を伝っていくのを感じながら、ヘイトは雄叫びを上げた。
倒したはずの相手がすんでのところで踏みとどまったのを見て、クーパーは再び頭上から襲い掛かった。
が、一歩遅れをとった先ほどとは違う。
さらに言うと、ヘイトがその気になれば、クーパーのスピードなど取るに足らないものだった。
体をずらして聖剣の輝きを避けたヘイトは、勢い余って目の前に降りてきたクーパーの腹に邪剣の柄の先端を食らわせた。
真下に向かっていたクーパーの体はヘイトによって真横に方向転換し、十数メートルほど吹っ飛んだ。
「フーッ、フーッ」
吐く息が蒸気となって立ち昇っている。
ヘイトは自分の血液が沸騰しているかのように感じていた。
「ヘ、ヘイト様ぁ…。熱いですぅ…」
シルバが弱々しい声で言う。
そんなことはお構いなしに、ヘイトは起き上がろうとしているクーパーにズカズカと歩み寄った。
「ハァァァ」
大きく息を吐くと、まるで火山の噴火口から噴き出すかの如く湯気が上がった。
「グルァ…」
クーパーはこちらを睨みつけ、剣を構えようとしている。
しかし、さっきのヘイトの攻撃があまりに強烈すぎたのか、立つことすらおぼつかない。剣も持ってはいるが、切っ先が持ち上がらないようだ。
丸腰ともいえる相手にとどめを刺そうと、ヘイトは剣を高く掲げた。
その時、カキン、と何かがぶつかる音がした。
何者からか射られた矢を、シルバが防いだらしい。
その方角を見ると、クーパーの仲間らしき弓の射手が次の矢を番えて狙いを定めていた。
「煩わしい…」
ヘイトの目が赤く光る。
弓使いは危険に気が付いたようだが、時すでに遅し。
上半身を消し飛ばされて絶命した。
ヘイトはその横で逃げようとする白い格好の者も逃さなかった。
放った光線を眼球で操作して、その誰かもわからぬ人物を追従する。
男か女かもわからないが、その人間は体を両断された挙句、宙を舞っていた上半身を消し炭にされて亡き者となった。
視線を戻すと、そこにクーパーの姿はなかった。
「どこに行った…」
自分でも驚くほど低い声だった。
「ヘ、ヘイト様…。落ち着いてください…」
左腕のシルバが身をよじっているのがわかる。
「どうした、シルバ」
「熱い、熱いんです。何がかはわかりませんが、熱いものが中に流れてきて…。あうう…」
「熱い…?」
「ああっ!」
シルバは短く高い声を上げてヘイトから分離した。
「ご、ごめんなさい…。そんなつもりはなかったんですけど…」
溶けかけたチョコレートのようにふにゃふにゃと地面に広がるシルバを、ヘイトはそっと撫でた。
「いや、謝らなくていい。すまなかった」
「どうしてヘイト様が謝るんですか…?」
「わからないが、俺が悪かったと、そう思うからだ」
「ええ…。ヘイト様は何も悪くないですぅ…」
シルバの体はますます形を失った。
「少し休もう。俺の傷が癒えたら、タワーに向かう」
「はいぃ…」
ヘイトとシルバは、束の間の休息をとった。




