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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第二章 この世に神のいるうちは…
69/103

最凶

 ――眠い。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…」


 ――クーパー…。


「ヘイト様――!」




 時間にして、一秒にも満たなかったであろう。


 ヘイトは失いかけた気を取り戻し、足を開いて倒れかけた体を支え直した。


「ウオァァァァァァァァ!!!」


 頭から流れる血が顔を伝っていくのを感じながら、ヘイトは雄叫びを上げた。


 倒したはずの相手がすんでのところで踏みとどまったのを見て、クーパーは再び頭上から襲い掛かった。


 が、一歩遅れをとった先ほどとは違う。


 さらに言うと、ヘイトがその気になれば、クーパーのスピードなど取るに足らないものだった。


 体をずらして聖剣の輝きを避けたヘイトは、勢い余って目の前に降りてきたクーパーの腹に邪剣の柄の先端を食らわせた。


 真下に向かっていたクーパーの体はヘイトによって真横に方向転換し、十数メートルほど吹っ飛んだ。


「フーッ、フーッ」


 吐く息が蒸気となって立ち昇っている。


 ヘイトは自分の血液が沸騰しているかのように感じていた。


「ヘ、ヘイト様ぁ…。熱いですぅ…」


 シルバが弱々しい声で言う。


 そんなことはお構いなしに、ヘイトは起き上がろうとしているクーパーにズカズカと歩み寄った。


「ハァァァ」


 大きく息を吐くと、まるで火山の噴火口から噴き出すかの如く湯気が上がった。


「グルァ…」


 クーパーはこちらを睨みつけ、剣を構えようとしている。


 しかし、さっきのヘイトの攻撃があまりに強烈すぎたのか、立つことすらおぼつかない。剣も持ってはいるが、切っ先が持ち上がらないようだ。


 丸腰ともいえる相手にとどめを刺そうと、ヘイトは剣を高く掲げた。


 その時、カキン、と何かがぶつかる音がした。


 何者からか射られた矢を、シルバが防いだらしい。


 その方角を見ると、クーパーの仲間らしき弓の射手が次の矢を番えて狙いを定めていた。


「煩わしい…」


 ヘイトの目が赤く光る。


 弓使いは危険に気が付いたようだが、時すでに遅し。


 上半身を消し飛ばされて絶命した。


 ヘイトはその横で逃げようとする白い格好の者も逃さなかった。


 放った光線を眼球で操作して、その誰かもわからぬ人物を追従する。


 男か女かもわからないが、その人間は体を両断された挙句、宙を舞っていた上半身を消し炭にされて亡き者となった。


 視線を戻すと、そこにクーパーの姿はなかった。


「どこに行った…」


 自分でも驚くほど低い声だった。


「ヘ、ヘイト様…。落ち着いてください…」


 左腕のシルバが身をよじっているのがわかる。


「どうした、シルバ」


「熱い、熱いんです。何がかはわかりませんが、熱いものが中に流れてきて…。あうう…」


「熱い…?」


「ああっ!」


 シルバは短く高い声を上げてヘイトから分離した。


「ご、ごめんなさい…。そんなつもりはなかったんですけど…」


 溶けかけたチョコレートのようにふにゃふにゃと地面に広がるシルバを、ヘイトはそっと撫でた。


「いや、謝らなくていい。すまなかった」


「どうしてヘイト様が謝るんですか…?」


「わからないが、俺が悪かったと、そう思うからだ」


「ええ…。ヘイト様は何も悪くないですぅ…」


 シルバの体はますます形を失った。


「少し休もう。俺の傷が癒えたら、タワーに向かう」


「はいぃ…」


 ヘイトとシルバは、束の間の休息をとった。

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