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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第二章 この世に神のいるうちは…
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最強の冒険者

 クリスタルタワーまではそれなりに距離がある。疲れ知らずのヘイトが走り続けたとしても、半日はかかると思われた。


 が、愚痴を言うつもりなど毛頭ない。魔神フェガリの思惑がどうあれ、自分はその期待に応えるだけだ。なぜならフェガリは、我々の神なのだから。


「見つけたぞ!!」


 その声を聞いたのは、ヘイトがグリテッドの外壁にある城門を抜けたときだった。


「ようやく…、ようやくだ。幾度となく阻まれた俺の覇道、ここで成就させてやる…」


 見覚えのあるような、ないような男だ。腰に刀、背中に剣を装備している。


「ヘイト様、あの剣…」


 シルバに言われてヘイトは目を凝らした。


「あれは…」


 ケプランでアンクランの首を刎ねた剣と酷似している。いや、恐らくは同一のものだろう。


「少し厄介だな」


「大丈夫でしょうか…?」


「心配するな。お前ならあの剣の攻撃も防げる」


「…はい!」


 ――そう、シルバの防御力の高さに関しては全く心配していない。


 問題は、あの男が何者であるか、だ。


 まさかアンクランと同様にあの時討ち取ったはずの兵士が蘇ったのかとも思ったが、どうも様子が違う。


「薔薇の魔将軍…。フン、大層な二つ名だな」


 男はゆっくりと刀を引き抜いた。


「俺の名はグラウス・クーパー! 今日この場で貴様を倒し、冒険者パーティ最強の名を勝ち取る者の名だ! よく覚えておけ!」


 パーティか。確かに、背後に二つの人影が見える。


 ヘイトは相手の名乗りに応えるべく剣をとった。


「今までも似たようなことを言って死んでいった人間は多くいた。お前たちもここで果てるがいい」


「お手並み拝見だ」


 クーパーはそう言うと刀を地面に突き刺して唸りだした。


「な、何をしているのでしょう…?」


 シルバが不安げにヘイトに問う。


「わからない。が、好機と取るべきか」


 ヘイトは動かない相手目掛けて距離を詰め始めた。


 クーパーは相変わらず唸り声をあげている。


 と、彼の突き刺した刀に異変が生じ始めた。怪しげな妖気が立ち昇り、クーパーの体を包んでいく。


「見えざる妖刀の力、貴様で試してやる!」


 クーパーが叫ぶと、渦巻いていた妖気が一気に爆発した。


 ヘイトに大したダメージはなかったものの、クーパーの変容ぶりには目を見張った。


 禍々しく湾曲した二本の角が頭から生え、顔には幾何学的な模様が浮かび上がっている。その姿はまるで悪魔のようだ。


 刀は跡形もなく消え去っていた。


「おもしろい…」


 ヘイトの口角が上がる。


 せっかくの機会だ。少しは楽しませてもらおう。


 クーパーは背中の聖剣を引き抜いて脇目もふらずに突進してきた。


「ウオォォォォ!!」


 クーパーの斬撃は全てシルバによって防がれる。


 両者は激しく打ち合い、金属同士のぶつかり合う音が鳴り響いた。


 並の攻撃ならば難なくかわせるようだ。


 ヘイトは少しペースを上げた。


 だが、クーパーは一歩も譲らない。


 それどころか、さらにスピードを上げようとしている。


「シルバ、大丈夫か?」


「え? あ、はい! ぜん、ぜん、だい、じょう、ぶ、です!」


 相手の剣に打たれるたびに声が途切れるが、シルバの体は傷ついてはいないようだ。


 …そう、こちらには自動で防御してくれる最硬の相棒がいるのだ。相手がいくら猛攻を仕掛けようと、ヘイト自身には関係がない。


 ヘイトは前触れなくシルバを下がらせた。


 前方の視界が開けたクーパーが好機とばかりに振り下ろした剣をヘイトは大剣で受け止めた。


「またその剣を振るうものと戦うことになろうとはな」


 剣と剣がぶつかり合い、両者の動きが制止する。


「以前の所有者と一緒にするな、化け物」


「自分の姿を見てからものを言え、人間」


「これは貴様という異物を排除するための姿だ。そこらの人間だと思って甘く見るな」


 甘く見るな、か。自分の力量を知っての物言いなのだろうか。


 ヘイトは剣を高く振り上げた。


 剣をはじかれたクーパーが無防備な態勢になる。


 その隙に、ヘイトは柄の先端でクーパーの顔面を殴りつけた。


 クーパーは攻撃の直前にそれを予期し、角で柄を受け止めた。


 すかさずヘイトは左足の強烈な前蹴りを繰り出していく。


 間一髪のところで身を引いたクーパーは高笑った。


「ハハハハハハ! 予想以上だぞ、魔将軍! よかろう。出し惜しみはせん。葬ってやる!」


 クーパーの周りを再び妖気が漂い、その姿を見る見るうちに変えていく。


 服が裂けるほど変異した彼の姿は、もはや悪魔そのものだった。


「長い爪、皮膚を覆う鱗…。それに翼や尻尾まで! あれはもう人間じゃありません…」


 シルバが怯えた声色で言う。


「そうだな。だが、魔物と呼ぶにも程遠い。ただの怪物だ」


 クーパーはいまや言葉すら発さず、ただただ吠えている。


「あの怪物に引導を渡してやろう」


「はい!」


 ヘイトはケラプディスを握り直すと、グラントを片手に吠えるクーパーに接近した。


 翼の生えたクーパーは地面スレスレを飛行しながら高速で向かってきた。


 彼の正面からの安易な一撃は、シルバが壁を作り出して防御する。


 ヘイトは反撃に出た。シルバが身を引くと見えるであろうクーパーの体に剣を振り下ろす。


 しかし、手ごたえはなかった。


 気が付いた時には遅かった。


 ヘイトの頭上を飛び越えて回り込んだクーパーは、次の攻撃態勢が整っていた。


 ヘイトは自分を呪った。


 己の反応速度が遅かったこと。――いいや、違う。ヤツの力を見くびって、その姿や気配を追おうとしなかったことだ。その気になれば、目視でも十分に反応できたはずだ。


「ヴェァッ!」


 よく分からない声を上げながらクーパーはヘイトに斬りかかった。


「ぐっ…」


 シルバの体は同化したヘイトの体を守るという自己防衛本能のせいで、彼女の意思とは関係なく動き出す。


 それでも、背後からの攻撃には若干の遅れがあるようだった。


 わずかな隙だが、強化されたクーパーにとっては大きな意味を持った。


 展開の遅れたシルバの体を滑るようにして、グラントの刃はヘイトの左肩を引き裂いた。


 鎧に守られたヘイトの体そのものに大した影響はない。しかし、だからといって攻撃をただ受けるつもりなどありはしない。


 ヘイトは振り返りながら大剣で背後を薙ぎ払った。


「なっ!?」


 そこにクーパーの姿はない。


 またも背後だった。


「ルルァッ!!」


 聖剣グラントが切り裂いたのはヘイトの脇腹だった。


 衝撃が脳を揺らす。それほどの威力だった。


「ヘイト様っ!」


 シルバが叫ぶ。


 ――次の一撃がくる。


 ヘイトの頭はそのことしか考えていなかった。


 ――振り返っていいのか…!?


 そんな迷いが、何より命取りだった。


「ネィアッ!!」


 声は頭上からだった。


 直後に、ヘイトの脳天を落雷のような衝撃が襲った。

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