特異点の在り処
「アンクラン。貴様が吸収したのは特異点の力だな?」
フェガリは確信を持って言った。
「ご名答です、フェガリさん」
「それをどこで手に入れた?」
「裏世界、とでも言いましょうか。あの青年に殺された後、本来ならば再構築されるはずの私の体は中途半端な形で世界を漂う羽目になりました。その時に見つけたのですよ。あなたが喉から手が出るほど欲しいであろう、この力を」
「裏世界…。なるほど、道理で見つからないわけだ」
「とはいっても、気配くらいは感じていたのでしょう? だからこうしてタワーから出てきた…。違いますか?」
「特異点の気配が一際大きくなったからな。それも貴様のせいだったようだが」
フェガリから以前に聞いていた特異点の存在を、どうやらアンクランも手にしたらしい。
しかし、世界の理を変えてしまうような力を彼が手にしたとなると、どうなるのだろうか。魔物の輪廻転生さえも覆してしまえるのではないのか。
「ちなみに、お聞きするのですが――」
アンクランは剣を鞘に納めて言った。
「あなたはいったい、どれほどの特異点を吸収したのですか?」
…特異点は一つではない。薄々分かっていたことではあるが、それをアンクランが問うということは、恐らく力の優劣に関係することなのだろう。場合によっては、フェガリが作り出した世界の理もそれに付随するのかもしれない。
少しの間があって、フェガリは答えた。
「12」
…!!
想像以上だ。
特異点が、異常な力を発揮するために必要な物なのだとしたら、その数が多ければ多いほど異常性は増すだろう。
――フェガリ様が神といわれるのも頷ける。
「12、ですか…」
その数字にアンクランも面食らったようだ。
「今の私では、到底歯が立たないのも理解できました」
「それだけではない。言ったはずだ。力の使い方…、これを理解できない者が、私に勝てるはずがない。たとえ私以上に特異点を有していたとしても、な」
「なるほど…。私とあなたでは、力量に決定的な差があるようですね。しかし、それでは私が諦める理由にはなり得ません」
「まだ食い下がるというのか。愚かな…」
「あなたの目的ははっきりしています、フェガリさん」
「なに…?」
フェガリの眉が微かに動いた。
「あなたは昔、この世界の創造主である人物――クウィスト・エンフィールドと会っているでしょう? その時に何らかの約束をした…。私が推測するに、それは特異点なくしては成し得ないことです。故にあなたは、あと一つの特異点の場所を知っていて、吸収しないままでいる…。違いますか?」
「ほう…。特異点を一つ取り込んだことで、私が最後の一つを隠匿していることに気が付いたか」
「ええ。気配を感じますから。私に残された唯一の勝機は、そこでしょう」
「して、その最後の特異点を如何にして手に入れるつもりだ? ここで私と相対していては、いつまでたっても辿り着けはしないぞ?」
「クク…。私が何の考えもなしにここにいると?」
フェガリが口をつぐむ。
「フェガリさん。あなたとは良き同僚でありたかった。今も昔も、その思いは変わりません。しかし、あなたは間違いを犯してしまった。エンフィールド氏の思惑に我々が気が付いた時点で、あなたが彼と接点を持っていたことを危惧すべきでした」
フェガリとアンクランの関係とはどういうものなのだろうか。
ヘイトの思考はフェガリの言葉で遮断された。
「ヘイト。急ぎクリスタルタワーに戻れ。お前にしかできない仕事がある」
「はい」
先の会話から察するに、フェガリが隠していた特異点はクリスタルタワーにある。フェガリが根城としていて、魔物が住み着いているあの場所は人から物を隠すには好都合だからだ。
自分にそれの守護を任されることは、ヘイトにとって天命でもあった。
残された特異点を守ること――それすなわち、フェガリの意志を守ることに他ならないからだ。
ヘイトは踵を返した。




