グリテッド侵攻2
「い、いけません、ヘイト様。何卒、お考え直しくだされ!」
案の定、クザンは止めてきた。
「大丈夫だ、クザン。シルバもついている。それでも止めるか?」
「そ、それは、シルバ殿のお力も先達ての戦で拝見しております故、疑いの余地もありませんが…」
「このままではお前たちが飢え死にしてしまう。手遅れになる前に、あの街を落とさなければならない」
「ですが、ヘイト様とシルバ殿とで攻め入られた後、我々はどうすればよいので…?」
クザンは心配性だ。あれこれと思案し、いつも周りのことを気にかけてくれている。
ヘイトはクザンの、そういうところを買っていた。
「俺が門を開ける。そうしたら、加勢してくれればいい。街に入ってしまえば、水も食糧も豊富にあるだろう」
「承知いたしました…」
クザンは深々と頭を下げた。
「ご武運を、ヘイト様、シルバ殿」
「ああ」
「街の中で会いましょう、クザンさん!」
クザンと他の者に別れを告げてから、ヘイトはシルバとともにグリテッドの城壁へと歩き始めた。
弓矢の届かぬ位置に陣取っていたので、近づくとその大きさが何倍にも増して見える。
見上げると、城壁の上からこちらを覗き込んでいた何人かが矢を射かけてきた。
「いくぞ、シルバ」
「はい」
左腕のシルバは力強く答えた。
降りかかる矢の雨を大剣の腹で凌ぎながら、ヘイトは身をかがめた。
常識外れの跳躍力で城壁の上に降り立つと、驚きで身をすくめる兵士どもを一網打尽にしていく。
周辺をあらかた掃除し終わると、今度は街の方へ降り、城門を開ける術を探す。
「シルバ、門はどうやって開ける?」
「ええっ? ヘイト様、そんなことも知らないで城壁を飛び越えたんですか!?」
「シルバなら知っているかと思って…」
「し、知りません! 何でも知っているだなんて、思わないでください!」
…怒っているのか?
応戦してきた少数の兵士を剣の一振りでなぎ倒し、倒れた中から息のある兵士に問い詰める。
「おい、この門はどうやって開ける?」
「へっ、てめぇなんかに教えてたまるか…!」
かすれた声で答えた兵士の頭をシルバで握り潰し――彼女は悲鳴を上げていたが無視して、ヘイトは門へと近づいた。
「ちょ、ちょっと、どうして無視するんですか!?」
「ん、ああ、いや、できればこの混乱に乗じてクザンたちを中に入れたいと思ってな」
「先を急ぐのは分かりますが、その、私で人の頭を握り潰さないでください!」
「え? ああ、悪かった」
ヘイトが謝った後もシルバはいつもの腕がどうのなどと言っていたが、今はそれどころではなかった。
…この門、手をかける場所がない。クリスタルタワーの門は両開きで、押すか引くかすれば開いた。が、この門は真ん中に境目もないし、開け方の見当が付かない。
「クソ、どうなってる…」
ヘイトは悪態をついた。
早くしなければ、異変に気が付いた人間が兵を集めてきてしまう。
「ヘイト様、あれはなんでしょう…?」
自分の左腕が指し示した方向には、なにやら大掛かりな木製の装置があった。天井から伸びたロープが巻かれており、円形の持ち手のようなものを備えている。
「反対側にもあります…」
門を挟むようにして置かれたその装置を見て、ヘイトは思い立った。
「あれは滑車…? これを巻いて門を上げるのか…!」
おおよその構造が分かったとはいえ、装置は二つある。恐らくは両方同時に動かすことでバランス良く門が開いていくのだろう。片方だけでは、もう片端が上がらず、途中でつっかえてしまう可能性がある。
「面倒だな…」
ヘイトはそう言って、門の中央に立った。
「へ、ヘイト様…?」
構造が分かれば、開け方も分かる。後は簡単だ。
シルバは、何をしようとしているか分かってはいるが、驚きを隠せないといったところだろう。
「心配するな、左腕は使わない」
ヘイトはそう言うと、門の下の地面に指をめり込ませ、力任せに押し上げた。
一瞬、ビクともしないかのように思えた鉄と木の塊は、やがて物々しい音を立ててゆっくりと開き始めた。
何事かと集まった野次が遠巻きにどよめきの声を上げる。
腰ほどまで持ち上げたところで、表で控えていたクザンたちが滑り込み、滑車を巻き上げ始めた。
「門が開いた! 攻め入れ!!」
誰ともつかぬ掛け声を皮切りに怒声が響き渡り、魔物の群れが街の中へなだれ込んでいく。
「やりましたね、ヘイト様!」
シルバが嬉しげに言う。
「ああ。このまま王宮に押し入り、フェガリ様を探すぞ」
ヘイトは大剣を担いで走り出した。




