サラ姉の実力
「一瞬でバレる変装は、もはや偽装ともいえないと思うのだが、どうだ?」
ワーズがパルミィの姿をしたそれに細剣の切っ先を向けると、彼女は薄ら笑いを浮かべた。
…不気味すぎる。
「拙者としたことが、不覚であった」
剣を向けられたパルミィではない何かは、男声と女声が入り混じった妙な声を発した。
「貴様、エンクウだな?」
ワーズは問うたが、エンクウは答えない。
実質、それが答えのようなものだ。僕にでもわかる。この気配はパルミィのものじゃない。
大体、さっきパルミィに偽装していた時の口調が悪かった。彼女の喋り方は特徴的過ぎるし、いつも一緒にいる僕たちなら、すぐに様子が変だとわかる。
「ジュリアートをどこへやった?」
ワーズは続けざまに問いかける。
が、エンクウは答える様子がない。
そればかりか、彼は突如として行動を起こした。
至近距離――もはやワーズの細剣が突き刺さりそうな間だというのに、クナイを投げつけたのだ。
静寂の森に金属音が響き渡り、クナイがあらぬ方向に飛んでいく。
あんなに近くから投げつけられたクナイを弾き飛ばすなんて、ワーズもただ者じゃない。
しかし、その刹那にエンクウは後方に飛び退いてワーズから距離をとっていた。
「サラ、厄介だ。さっさと蹴りを付けよう」
ワーズが冷静に言う。
こういう時のワーズは恐ろしいほど落ち着いている。だからこそ調停者の素質があるともいえるのだろうけど、味方とはいえ、心底恐ろしい。なぜなら、何をしでかすか分からないからだ。
「そうね…。私もイライラしてきたとこだったし」
…こういう時のサラ姉は――正直わからない。僕はまだワーズたちと行動を共にし始めて間もないし、サラ姉の戦闘スタイルは見たことがないから。だけど、聞いたことがある。サラ姉は、凄腕どころじゃない。魔法使いの中でも特別、馬鹿ぢからの持ち主なんだそう。
「おい、変態。動けるなら、森にパルミィの居所を尋ねてみてくれ。こっちは俺たちで片づける」
そんな簡単に言ってくれちゃって…。
ま、まあ、僕は戦闘に関してはからっきしだし、それ以外に選択肢はないのだけど。
2、3回うなずいて、僕は木々の囁きに耳を傾ける。
カサカサ…。
葉が擦れ合う音。木々たちはパルミィを探してくれるようだ。
ガサガサ…。
少し騒がしくなってきた。もう少しで見つかるのかな…?
ザワザワ…、バキッ。
ん…? 今、枝が折れたぞ。
メキメキメキ…、バキキッ!
枝どころじゃない。根っこが断ち切れてる…!?
「覚悟しなさい!!」
森に神経を集中させていた僕の耳に、いきなりサラ姉の声が大音量で鳴り響いた。
「えっ?」
唸るような地響きが足を伝ってくる。
そして、目の前で信じられないことが起こった。
大地が隆起し、土――というより、地面がエンクウに襲い掛かったのだ。
地面は割れ、土が波のようにうねりを上げている。
これじゃまるで天変地異だ。立っていることすらままならない。
たった一人の人間を倒すために、あり得ないくらい強大な魔法が発動している。
そのさなか、僕は目を疑うような光景を見てしまった。
ワーズが、波に乗っている。うねる土の波の上で、ワーズが細剣を片手に波乗りをしているのだ。
「えぇ…」
どうやら僕の頭は、この状況を理解できないらしい。
自分が波にのまれるかもしれないのに、ただただ突っ立って眺めていることしかできない。
個人の放った魔法にしてはド級のスケールだったのが予想外だったのか、エンクウは遥か後方まで身を引いていた。
しかし、土の波は植物も地形も関係なく無差別に巻き込み、エンクウのもとへと津波のように押し寄せていく。その先端にワーズを乗せて。
「冒険者風情が、図に乗るな!」
土石流の勢いのまま、ワーズはエンクウ目掛けて飛びかかった。
地面の揺れもあってかバランスを保てていなかったエンクウは、腰の短刀で咄嗟に応戦する。
ワーズの鋭いレイピアが短刀の刃を滑るようにして、エンクウの喉元に向かっていく。
エンクウは間一髪のところで頭を逸らせて避けたが、無理な体勢のせいでそのまま倒れ込んだ。
そして、その上からとんでもない質量の土砂が覆い被さっていく。
「グオオオォォォ…!!」
獣のような呻き声を上げながら、エンクウは土砂にのまれていった。
やがて、森に静けさが戻って大地の傷跡が明瞭になった頃、一部始終を呆然と立ち尽くしたまま見ていた僕のところに、サラ姉がやってきて言った。
「パルミィの居場所はわかった?」




