調停者たる素質
「あっちだね。南西の方角」
実際、僕が指差したのが西なのかどうか、僕自身は知らない。ただ、植物たちがそう言うのだから、正しいだろう。
「南西…。そっちには何がある?」
ワーズが誰となく尋ねる。
「そうね…。森を抜けてしばらく行くと、荒野に出るはずよ。たしか、町もあったはず――」
「…ケプランだ」
サラ姉を遮って、ワーズは言った。
「あいつらァ、今さらケプランなんかに戻って何する気ィ?」
至極当然の疑問。
ケプランは今や魔物の巣窟と化しているはずだ。
「まさか、魔将軍がまだそこにいる…?」
僕は推測を口にした。
「可能性は、なくはないわね」
サラ姉もうなずく。
「奴め、本当にフェガリの産物を殺すつもりか。グラントと妖花月光刀…。『全てを貫く光の刃』と『見えざる妖刀』を手にしたとて、奴らは所詮、ただの冒険者だ。調停者たる資格はない」
ワーズの言葉…。『ただの冒険者』。
調停者は、一部の選ばれた冒険者にのみ与えられる称号だ。その名を掲げる者たちは、世界の均衡を保つために特別な力を与えられる。
これは道中、ワーズから聞いた話だけど、例えばソールシュルツ・アンクラン。彼の場合は、死霊術師の力を手に入れていた。
エメネ・ベウィという女性は、魔生物学の知識。
聞いたときは、力でもなんでもないじゃんと思ったけど、知識も場合によっては力になり得るのだそう。
改めて考えれば、僕だって同じだ。自然と対話する力に、戦闘能力なんて欠片もない。
だけど、何気ない場面でも活躍することは大いにある。言ってみれば、これも世界平和のために一役買っているわけだ。
「でも、ワーズ。よく考えて。私たち調停者だけでは手に負えなくなったから、冒険者にお願いしたのよ。私たちがエラーに対抗する力を持っているからといって、必ずしも素質があるとは限らないわ」
サラ姉の言うことにも一理ある。
僕みたいな能力は、今回のような魔将軍に対しては無力だ。
ただ、冒険者は、言うなれば何の能力も持たない一般人。調停者に与えられた力がエラーに対処するための何らかの効力を持っているのだとすれば、冒険者に至っては丸腰も同然。
…だからこその聖剣、なのか。
「ところで、ワーズ。聖剣グラントと妖花月光刀は今、クーパーの手元にある。なら、真打ちと影打ちを合わせてあと二振りはどこにあるの?」
僕の質問に、ワーズは顎をさすった。
「俺の知る範囲で言うと…、そうだな。真打ちの所在は明らかだ。あれはグラン・イージスが所持している。もう一振りの影打ち――邪剣ケラプディスの行方は不明だ」
「グラン・イージスかぁ。それじゃ、安心だね」
僕は胸を撫で下ろした。
グラン・イージスというと、調停者のトップに当たる人物だ。真打ちを彼女が持っているのなら、奪われることはないだろう。クーパーもそこまで馬鹿じゃない。
…そういえば、さっきからパルミィがやけに静かだけど、どうしたんだろう。
「ねえ、パルミィ、どうしたの?」
僕らから少し距離を置いて森の中を見つめていたパルミィに声をかける。
ワーズとサラ姉も異変に気が付いたようだ。
「どうした、ジュリアート」
「具合でも悪いの?」
口々に声をかけるが、返事はない。
「……パルミィ?」
恐る恐る肩に手を伸ばすと、彼女は飛び上がった。
「ヒャアァッ!」
あまりの驚きっぷりに、こっちまでビックリした。
「どうしたの、パルミィ。何か見つけた?」
「なんだ、あんたか…。脅かさないでよ…」
「べつに、そんなつもりは――」
そこまで言って、僕は後ずさりした。
「気が付いたか、マイク」
後ろでワーズが言う。
「うん。すぐにわかったよ」
サラ姉も気が付いているようで、いつでも動けるように身構えている。
「よりにもよって彼女とは…。選択を間違えたな」
ワーズは腰に差した細剣を引き抜いた。




