交渉
砂漠の真ん中で相対する二人の人間と三体の魔物。
甲冑を身に纏った二人の兵士は馬を降りると、兜を脱いでお辞儀をした。
「これはどうも。私は、グリテッド王国軍の参謀を任されております。トアキム・ラプステッダと申します。こちらは部下のチャーリー・グリーンフィールド」
「チャーリーです」
紹介されたチャーリーという金髪の青年は、心なしか震えているようだった。
それに引き換え、銀髪のトアキムは至極落ち着いた様子だ。
「クリスタルタワーの――」
言いかけたヘイトを、トアキムは手で制した。
「ご紹介には及びません。すでに存じ上げております。あなたはもう、我々の町を一つ、滅ぼしておられるのですから」
皮肉を込めた言い方だ。しかし、だから何だというのだろう。
「俺のことは知っているだろう。だが、他の二人はどうだ?」
「フフ…。それは、私の知る必要のないことです」
この男は、こちらの神経を逆撫でしたいのだろうか…。
「さて、単刀直入にお聞きします。今回、このような大軍を率い、わざわざこの乾いた大地の果てまでお越し下さった訳を、お聞かせください」
「言うまでもない。お前たちを殺しに来た」
「やはりそうですか。しかし、こうして我々との対談に応じてくださっているあたり、何かこう、交渉の余地のようなものを感じるのですが、気のせいですか?」
「言うだけ言ってみろ」
「では…」
トアキムが手を差し出すと、チャーリーはすかさず筒状の書簡を手渡した。
彼は受け取った書簡をスルスルと紐解いていく。
「我、グリテッド王国国王、ブレンデルド・フルブリート・エスペテルロは、ここに――」
トアキムはそこで息を大きく吸い込んだ。
「開戦を宣言する!!」
…は?
「わかっていただけましたか? 我らの国王は非常に怒っておいでです。故に、あなたがたを完膚なきまでに潰す、と」
「それを言うために、ここに来たのか?」
「もちろんです」
銀髪のトアキムは鼻を鳴らした。
「クザン」
「はい」
ヘイトの呼びかけと同時に、クザンが腰の刀に手を伸ばす。
それを見たトアキムはたじろいだが、すかさず言った。
「ま、待て。使者を殺せば犯罪だ。そんなことが知れれば、どこの国からも相手にされなくなるぞ」
「…おい」
なぜかはわからないが、ヘイトはすこぶる苛立っていた。
宣戦布告をするのに、どうして使者を寄越す? 黙って不意を突けば、それなりに損害を与えることもできただろうに。
それとも、これはあれか? たかだか魔物だと高を括って、なめてかかっているのか?
「ヘイト様…!」
今にも斬りかかりそうな勢いでクザンは待機している。
「いや、よせ、クザン」
クザンは腑に落ちない様子だったが、柄から手を離した。
「そうだ、それでよい。さて、これで私は失礼する」
「おい待て」
「まだ何か用が…?」
「お前、交渉の余地があるのかと聞いたな。あれはどういう意味だ」
「なに…、少しからかっただけですよ。魔物にも、そういう手段が通じるのか、とね」
トアキムは笑みを浮かべたが、その顔は宙を舞っていた。
「ひ、ひえぇぇぇぇ!!」
チャーリーがその場にへたり込む。
重たい頭部は砂に落ちると半分くらいまで埋まってしまった。笑みを浮かべたままで。
「俺たちに話は通じるかもしれないが、人の礼儀までは知らん。俺たちは魔物だ」
ヘイトはそう言って踵を返した。クザンとシルバも後に続く。
「よろしいのですか? あの男をあのままにしていて…」
シルバの問いに、ヘイトは笑った。
「斬っても斬らなくても、ここはどのみち、もうじき戦場だ」




