進軍
魔物によって滅ぼされたケプランから南南東に二日ほど歩くと、周囲の様子は一変する。乾いた大地であることに変わりはないが、地面はひび割れたそれから、砂地へと変わる。そうして、砂煙舞う砂漠地帯へと姿を変えるのだ。
そんな光景にも見飽きてきたと思うくらい歩くと、砂丘の向こうから突如として顔を出すのが黄金の宮殿だ。
「見えました! グリテッドです!」
白昼の百鬼夜行ともいえる魔物の行軍は、その見た目のインパクトの強さもあってか、幸い誰からの襲撃を受けることもなく進行していた。
声を上げたのは、その先頭を行く一匹のシルバーメタリック。シルバだ。
「あの金の玉ねぎの下に、人間の偉いヤツがいるはずです!」
…金の玉ねぎ?
ヘイトは目を凝らした。
なるほど、乱立する民家の中央に、不相応なくらい大きな城が建っている。その屋根の形は、玉ねぎ同然だった。
「グアッハッハッハ! 玉ねぎたぁ、嬢ちゃん、うまいこと言ったな!」
後方で魔物たちが笑い合う。
今回の行軍で、日頃行動を共にすることなど滅多にない魔物たちが集結したことで、彼らの中に友情のようなものが芽生えつつあるらしい。おかげで、話のネタにだけは苦労しなかった。
「だがまあ、あの様子を見るに、贅沢三昧してんのは一握りの連中だけだろうよ」
「人間ってのは、どうしてこうも醜い生き物なんかねぇ…」
「関係ねえ! どっちみち、全員あの世行きなんだからな!」
彼らの結束力がこんなにも固いのには当然、わけがある。共通の仇、共通の目的、共通の意志があるからだ。
「ところで、ヘイト様?」
いまや自分が頼もしいとさえ感じる親衛隊の面々を眺めて笑みを浮かべていたヘイトは、シルバの声で我に返った。
「どうした?」
「あそこにフェガリ様がいらっしゃるのでしょうか?」
「外から見てもまだ騒ぎが起こっていないことを考えれば、おそらく、人間に紛れているのだろう。シルバが言った通り、ここが塔から最も近い人間の都なら、あの方は間違いなくここに来る」
丁寧に答えたつもりだったが、シルバの表情は晴れない。
「何か引っかかるのか?」
「いえ…、ただ、その…」
「どうした、言ってみろ」
「あの街に攻め入るのかと…」
「ん…?」
それは、どういう意味なのだろう。
てっきり攻めると思っていたのに、まだここにいるのか、という意味か。それとも、魔神を見つけられればそれでいいのだから、攻めなくてもいいだろう、という意味か。
「それは、今の段階ではまだ決めてないな」
ヘイトは正直に言った。
魔神の出方を窺っているというのもある。
「しかし…」
なにせ白昼堂々、砂丘の上にこの大軍だ。あちらとて異変に気が付いていても不思議はない。
「なぜ何もしてこない…?」
「…ヘイト様?」
こちらに動きがないので、様子を探っているのか? それとも、何か策でも練っているか、あるいは――。
「ヘイト様!」
この声は、クザンか。
「どうした?」
「見張りに出していた部下から連絡がありました。ヒトを乗せた馬が二頭、こちらに向かっているとのこと」
「そうか」
…奇襲ではなさそうだ。交渉か?
それにしても…。
「クザン。お前もだいぶ、板についてきたな」
「…と、言いますと?」
「いやなに、こっちの話だ」
意味不明な笑みを浮かべるヘイトを見て、クザンの表情はポカンとしている。
ヘイトは気を取り直して言った。
「よし、シルバ、クザン。俺たちも向かうぞ」
三体の異形は、砂塵巻き上げる二頭の馬を見据えた。




