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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第二章 この世に神のいるうちは…
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要求

「どちら様でしょうか…?」


 おっかなびっくり声をかけて見たものの、返事はない。


 僕たちが会議室として使用している部屋は地下室だ。地上から階段で下りていけば直接入れるようになっているので、誰かが間違ってドアをノックしたのかもしれない。


 だが、そんな可能性が限りなく低いことくらい、ここにいる全員わかる。


 なぜなら、この地下室があるのは、人里離れた山の中にある、古代遺跡の中にあるからだ。


 そう、ここは、古代遺跡をカムフラージュとして利用した、調停者たちの秘密の集会所なのだ。


 もし、他の調停者が訪ねてきたのだとすれば、彼らは入り方を知っている。だから、わざわざノックしてお伺いを立てるような真似はしない。


 ほぼ間違いなく、扉の向こうには意図的にここに来た者がいる。


 それなのに、返答がないというのはどういうことなのだろうか。


 ドンドンドン。


 さっきより強めのノック。


「はい…?」


 鋼鉄の扉に問いかける。


 その時…。


 キィ、キィと音がして、ドアノブにあるカギ穴が回りだした。誰かが鍵を挿して、開錠しようとしている。


 本当なら鍵だけでなく、表の扉に書かれた魔法陣に術式を書き込み、陣を完成させなければならないのだが…。


 まさか、ここに入ろうとしている者は、それも解いた…?


 カチッ。


 鍵が開いた。扉はもう、ロックされていないことになる。


 束の間、静寂があって、それを破るかのように勢いよくドアが開いた。


 驚いて尻もちをつく僕。


 堂々と入ってきたのは、見覚えのある顔だった。


「デバッガーどもが、地下でかくれんぼか?」


 グラウス・クーパー…! と、その取り巻きだ!


 腰を抜かしたまま後ずさると、後ろからワーズたちが駆け寄ってきた。


「何事だ?」


 言ったそばから状況が把握できたらしい。


「クーパー!」


 冒険者最強と謳われるパーティーと、僕を含めた調停者たちは対峙した。


「フン、まるでシェルターだな。地上が危険だから、みんなで避難というわけか。ご苦労なことだ」


 クーパーは威圧的に言った。


「冒険者がここへの立ち入りは禁止されているはずだ」


 ワーズが返す。


「この緊急事態にお前たちデバッガーが揃いも揃って役立たずだから、わざわざ出向いてやったのだ。陳腐な仕掛けまで解いてな」


「お前、調停者だけが知るコードを、どうやって?」


「おっと、知らないのか。そこで腰を抜かしているマイク・ティコリスはその昔、冒険者だった。その繋がりだ」


「コードを教えたのか…?」


 マズい…。


 たしかに、酷い金欠のとき、金をやるからと引き換えにコードを教えたことがある。まさか、こんな形で公になるなんて…。


「ご、ごめんなさい…」


「マイク…。その話はあとでする。覚えておけ」


 ワーズの突き刺さるような視線…。こえぇ…。


「それで、クーパー。何の用だ。俺たちを愚弄するために遠路はるばるやってきたというわけではあるまい」


「無論だ。その様子だと、こちらがどこで何をしていたのかも知っている様子だな」


「もちろんだ」


「なら、話が早い。これを見ろ」


 クーパーが背中に携えた剣を前に出す。


「聖剣グラントォ!? なんであんたが持ってんのさァ?」


 真っ先に反応したのはパルミィだった。


「アンクランの遺物だ」


「お前、アンクランを手にかけたわけではあるまいな…?」


 ワーズの指摘をクーパーは否定しなかった。


「ああ、仕留め損なったがな。代わりに誰かがやってくれたらしい」


「誰か…?」


「あれはたしか…、NPCだったか、シェイディ」


 傍らにいた女弓使い。シェイディ・ウォール。稀代の弓術士として名を馳せた名手。弓術を得意としながら、実は彼女の本分は魔法にある。矢を用いた数多の魔法を使って、冒険者の頂点にまで上り詰めた女。


「ええ、そうね」


「あの死霊術師が、たかだかNPCにやられたというのか…?」


 ワーズは信じていない様子だ。


 それもそのはず、調停者ともあろう者なら、余程のヘマをしない限り、NPCにやられるなんてことはない。相手が魔物だろうと人間だろうと。


「そうだ。それも『エラー』にな」


「なに…?」


「アンクランは自らエラーを作り出すことに執着していたようだ。エラーとエラーをぶつけることによって、お互いを中和させようという魂胆だったのだろう。結果は失敗に終わったわけだが」


「そんな話は聞いていないぞ」


「誰からだ? エメネ・ベウィか?」


「なぜそれを…?」


「フハハ。貴様らのやることなど見え透いている。デバッガーだか調停者だか知らないが、()()()()()がここまで大きくなるまで放っておいたような連中だ。もはや当てにできん」


 クーパーは聖剣を背負いなおして続けた。


「ここに、もう一振りがあるはずだ。世界に三本あるとされるうちの一本。『妖花月光刀』がな」


「目的はそれか」


「いかにも」


 マズい、マズいよ…。一触即発とはまさにこのことだよ…。


 クーパーたちは刀を手に入れるためなら何でもしそうな勢いだし、こっちは刀を取られるわけにはいかないし…。


 というか、聖剣グラントと妖花月光刀は、どうして影打ちと呼ばれるものなのに形が全く違うんだ? 最高の一本を作り出すために同じものをいくつか打つから、影打ちができるんじゃないのか…? そもそも、グラントって人はPCでありながら、どうやってシステムにまで干渉し得るほどの代物を作り出したんだ…?


 あれこれ思考を巡らせているうちに動きがあった。


「わかった、クーパー。こうしよう」


 ワーズが一つの案を提示したのだ。


「お前たち冒険者が妖花月光刀を求める理由はわかる。冒険者として最強を突き詰めることも、目的の一つとして当然だ。そして、この妖花月光刀は、本来なら我々が持つべきものではない。調停者は冒険者とは違う。そもそも妖花月光刀自体、冒険者の為に作られたものだ」


 そこまで言って、ワーズはサラ姉に刀を持ってくるよう指示した。


「だから、お前に託そう。これは我々からの餞別だと思ってほしい。代わりに、条件がある」


「なんだ?」


「調停者が成し得なかったことを、成し遂げてほしい」


 それを聞いたクーパーの表情は醜く歪んだ。


「クク、ククク…、ハハハハハハッ!! 無様だな! デバッガーが我々にエラーを処理してほしいと懇願するなど…! いいぞ、いいだろう。その任、請け負おう。ただし、刀はもらっていくぞ」


「ああ…」


 ワーズは至極落ち着いている。


 侮辱されたような気持ちになったのは、きっと僕だけじゃないはずだ。たぶん、ワーズが一番ツラいに違いない。


 サラ姉が持ってきた刀を受け取って、クーパーたちは悠々とその場を去っていった。


「ちょっとォ! いいのォ!? ほんとにあれでェ!?」


 息を吹き返したかのような剣幕でパルミィがワーズに迫る。


「いいはずがない。こんなことは、あってはならない」


 …ワーズ?


「そうね、いいわけないわよね」


 サラ姉もどこか様子がおかしい。


「二人ともォ、どうしたのォ? そんなに落ち着いてェ…」


 パルミィが二人の不穏な空気を感じ取って尻込みする。


「取り返すぞ、お前たち…」


 ワーズの声は身震いするくらい、怖かった。その表情は鬼さながらだった。

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