調停者会議
かなり話が逸れてしまった。
あれからワーズとパルミィはかれこれ小一時間も言い争っていた。といっても、パルミィにしてみればいつものことで、堪えている様子など微塵もなかったけど。
「…話を戻そう」
ワーズは極まりが悪そうだ。…それもそうだと思う。
「エメネ・ベウィが提供してくれた情報によると、『紫眼の巨人』の正体はクリスタルタワーの番人で魔将軍と呼ばれている魔物らしい。そしてそいつが、町を破壊した真犯人だと」
「うそォ!?」
「こら、パルミィ?」
さすがにサラ姉もパルミィにこれ以上話を阻害されるのは阻止したいらしい。
パルミィも察したようで、素直に黙っている。
「ジュリアートの言いたいことも、わからないでもない。ただ、クリスタルタワーの番人といえば、我々調停者や名だたる冒険者でさえ歯が立たなかった強敵だ。後ろにはかの魔神、フェガリが控えていると聞く。そんな化け物を相手にしようとすれば、アンクランとて禁じ手を使わざるを得なかったのも得心がいく」
クリスタルタワーの番人に、魔神フェガリか…。
後者に関しては、いくつか情報がある。冒険者時代の僕の財産だ。
「僕の知るところじゃ、魔神なんてただの肩書きだって聞いてるけど?」
「そうだな。フェガリはもとは人間だった。それがとある理由でエラーとしてシステムに組み込まれ、世界の法則を捻じ曲げるほど強力な力を手にしてしまったのだ。魔神と呼ばれる所以はそこにある」
「フェガリは、システムそのものだってこと?」
「それは違うな。アレは世界の裏側を自在に移動し、プログラムを書き換えられるというだけのバグであって、システムではない。まあ、十分に厄介な存在だが」
要するにそれって、意味不明なくらいヤバい奴ってことじゃないか。調停者たちはどうしてそんな危険な存在を、これまで野放しにしてきたのだろう。
「私からも聞きたいんだけど、いいかしら?」
「ああ、サラ」
「クシフォスはどうして作動しなかったのかしら? システムに重大な影響を与えるとわかっていて、調停者ではどうにもならないと判断されたなら、普通はシステムによる防衛機能が働くはずでしょ?」
「その件だが…。クシフォスがなぜ動かなかったのかはわかっていない。そればかりか、クシフォスはまだ稼働しているはずなのに、機能を果たしている痕跡がないのだ。まるで、エラーを容認しているかのように」
クシフォスというと、世界の自己防衛機能みたいなものだ。調停者は人から選ばれるのに対して、クシフォスは完全に独立した一つのシステム。相互に補完し合う関係性はない。
「それじゃあ、クシフォスが無視した致命的なエラーが、フェガリってこと?」
「そうだ、マイク。ついでに言うと、フェガリに付随する諸々のものも、同様の扱いになる」
「そのひとつが、魔将軍…」
「その通りだ」
そう考えると、魔将軍が町を滅ぼしたのも、とうとう来たなって感じだな。違和感もない。
調停者として僕たちがやるべきは、エラーの排除。である以上、フェガリと魔将軍との対決は免れないというわけか。
コンコンコン。
ノックの音だ。
こんな場所に誰が…?
全員、警戒態勢に入った。
「マイク、見て来てくれ」
え、僕…?
って、サラ姉もパルミィもそんな目で僕を見ないでよ…。退くに退けなくなっちゃうじゃないか…。
僕は恐る恐る、ドアに近づいた。




