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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第二章 この世に神のいるうちは…
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「そこから先は、お前も知っている通りだ」


 話し終えたフェガリは盃を飲み干した。


「その、光、というのは…」


 察しのついたヘイトが言いかけると、フェガリはうなずいた。


「そうだ。お前を筆頭とする数多の魔物を生み出し、輪廻転生の理を完成させた力。この世界の特異点ともいえる力だ」


 魔神は遠い目をして続ける。


「私自身、始めからこの力の正体に気が付いていたわけではなかった。使いこなせるようになったのも、つい最近の話だ。それも、あの男の旅の真意に気が付いてから」


 魔人の言うところの最近というのが、どれくらい前のことを指すのかは推し量れない。


「フェガリ様は、その力で何を…?」


「私が為すべきこと――。それは何だと思う?」


 問いかけに問いかけで返されて、ヘイトはうろたえた。


「私は、この力を利用して世界の均衡を保てればそれでいいと思っていた。だから、輪廻転生の理を創り出し、魔物と人とのバランスをとろうと考えたのだ。しかし、それが浅はかだった」


 気が付くと、フェガリの頬には涙が伝っていた。


「争いは争いを生み、絶えない魔物に人々は容赦なく襲い掛かった。それだけで自然は破壊され、世界は無茶苦茶に壊れてしまった」


 息を呑む光景だ。


 口が裂けても「美しい」などと言える状況ではないが、哀愁漂うフェガリの表情が涙を際立たせている。


「だから、ヘイト…」


 フェガリは音もなく立ち上がった。


 今は女性のフェガリを包んでいたベールの衣装がはらりと床に滑り落ちる。


 一糸纏わぬ姿となった彼女は、玉座の前の階段を流れるように静かに、ゆっくりと下りてきた。


「まずはお前に謝らせてくれ。本当に、すまなかった」


 唐突に謝罪されたヘイトは、近づいてくるフェガリをただ見ていることしかできない。


 その姿も相まって、思考が止まってしまったかのように体が動かない。


 フェガリはヘイトの傍らまで来ると、今はない左腕に手を寄せた。


「これは、お前が受けた罰なのだな…」


 そうして、ヘイトの後ろから今度は右側に周る。


 右手をとった彼女はその手に口づけをした。


 体が痺れるみたいに、言うことを聞かない。


 しかし、それが魔法によるものでないことは明らかだった。


 であれば、この感覚は何なのか。


 ヘイトの身を襲う謎の感覚などよそに、顔を上げたフェガリは続ける。


「長きにわたる人との闘争の果て…、私は疲れ切ってしまった。だから、怒ることをやめた。悲しむことをやめた。戦うことをやめた。…考えることを、やめたのだ」


 かつてない距離の近さに、息を呑むほど美しい女性。


 人間ほどの感性は持ち合わせていないヘイトでも、心臓の鼓動が大きくなる。


「そのために、お前を生み出した。自分の責任をすべて押し付けて。感情の一切を、切り離した。お前には私の怒りや憎しみを与えた。そして私は、平穏を得た…」


「フェガリ様、私は――」


 それでもいいと言いたかった。


 自分が憎しみでできた破壊の化身ならば、フェガリの意を汲んで行動を起こすだけだ。


 実際、人間の町を一つ滅ぼすにまで至った。


「憎しみだけを抱えて生きていくなど、あまりに惨い…。この感情は、私への罰だ」


 フェガリに触れられている右手から、黒い粒子のようなものが立ち昇る。


「フェガリ様、何を…?」


「今この時より、お前から憎しみの感情を解き放つ。それは本来、私が持つべきものだからだ」


 体から力が抜けていくのを感じる。


 憎しみを己の力と変えてきたヘイトにとって、それを奪われるのは致命傷に等しい。


「フェガリ様、おやめください…」


 抵抗しようとするが、力が入らない。


 フェガリのか細い腕にも抗うことができない。


「許せ、ヘイト…」


 力が抜けていくのと並行して、フェガリの体は禍々しいオーラを纏い始めた。


「ああ、こんなにも…」


 フェガリがそう呟いたとき、ヘイトの意識は途絶えた。



 倒れたヘイトのおぼろげな視界の中、昏いローブを纏ったフェガリが、肩越しにこちらを見ている。


 魔神の口元が動くが、ヘイトの耳には届かない。


 そうして、フェガリは玉座を去っていった。

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