フェガリの回想1
その頃の私は、一介の冒険者だった。ある王国の首都を発ち、世界中を旅してまわっていた。
自由気ままな一人旅…。辛い時期もあったが、総じて楽しい旅路だった。
旅の途中、私はある男と出会った。その男は、世界を旅しながら探し物をしていた。
お互いに長らく一人で旅をしてきたということもあってか、私とその男は意気投合し、しばらく行動を共にすることになった。
男は探しているものが何なのか、私に教えることはなかったが、話さないのであればむやみに聞くのも無粋だと思い、私もそのことに関しては触れずにいた。
そんな折、私たちは山奥で、異質なものと遭遇した。
いかんとも形容しがたいそれは、その場から決して動くことはないが、絶えず形状を変え、淡い輝きを放っていた。
実体があるのかないのか、触ることもためらわれた私には、確かめることさえできない。
だが、男はしばらくそれを眺めたのち、「そうか」と言って、まるで吸い込まれるかのようにそれに近づき、姿を消してしまったのだ。
何が起こったのか、私にはわからなかった。
しかし、確かに男は光の中に消えた。消滅してしまったのではない。吸い込まれたのだ。
不安と好奇心がないまぜになる中、私はとりあえず、その男が帰ってくるのを待つことにした。
一日、二日と時が経っても、男が帰ってくる気配は一向にない。
それは変わらずそこにあるのだが、最初に見たときから変化もない。
一週間が経とうというとき、山の中で自給自足の生活を送っていた私も、さすがに待つのが辛くなり、男のことは諦めて立ち去ることにした。
もしも、私が立ち去ったあとに男が帰ってきたときのことを考えて、その場に書置きを残して。
それから、幾月もの時が過ぎた。
男のことをたまに思い出すことはあったが、私の記憶から、次第にあの出来事は薄れていった。
――あれは、やけに寒い日のことだ。
その日は珍しく、いつもは降らない地域にも雪が降っていた。
寒さへの備え方がわからない人々が、凍えながら町を歩いていたのを思い出す。
私は曲がりなりにも旅人なので、ある程度寒さへの備えはあった。
ゆえに、いつもは降らない地域での降雪は、滅多に見られない景色を見られるいい機会だと思って、少しばかり外を歩いていたのだ。
ふらふらと町を出て、そういえば近くに湖があったのを思い出し、何の気なしに立ち寄った。
普段は緑豊かな水辺にもわずかながら雪が積もり、幻想的な光景だった。あの風景は今でもよく覚えている。
時間は定かではないが、かなり長い間、そこにいたと思う。
日が傾いてきて急に気温が下がり、そろそろ宿に引き上げようと後ろを振り返ったとき、彼はいた。
はじめは、初対面の人だと思った。なにせ、何か月も会っていなかったし、一緒に旅をしたといっても、四六時中行動を共にしていたわけでもなかったからな。それに、出で立ちが当時と変わっていたからというのもあったかもしれない。
だから出し抜けに私は言った。
「あなたも湖を見に来たんですか」と。
男は、「いい景色だ」と返して、「こんな景色を、この世界にもっと増やせれたらと思う」と、私の隣に来て、湖を見渡しながら言った。
私ももう一度、湖を見た。
たしかに、息を呑む光景だと思った。
「自然はいい。力強く、それでいて美しい」
男はそう言って、私を見た。
「君は、自然が好きか?」
その問いに、私は素直に答えた。「好きだ」と。
男はその返答を聞いて笑みを漏らし、「また、私と一緒に旅をしないか」と言った。
その時、私はハッとした。
この男は、あの時山中で光の中に消えた人なのだと気がついたのだ。
そして同時に、私があの時に残した書置きに気がついて、私を探していたのではないかとも思った。
私には、私が彼を忘れていたことに、彼が気がついていたかどうかはわからなかった。
だが、多くを語らない彼はそのことにも触れず、私に問うたのだ。
私は、嬉しかった。
そうして私たちは、また共に旅をすることになった。




