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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第二章 この世に神のいるうちは…
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クリスタルタワーへの帰還

 ケプランは落ちた。


 それも、ゾンビと化した町の住民自身の手によって。


 ちょっとした抵抗もあることにはあったが、ヘイトの手を煩わせるほどのものではなかった。


 そうして俺は、町を眺めることのできる丘へと戻ってきていた。クェルに町の陥落を報告するためだ。


 朝日に照らされて赤く染まるケプランを一望しながら、後ろから歩いてきたクェルにヘイトは言った。


「町は滅んだ」


「おお…」


 クェルは感嘆の声を上げた。


 当初の計画とは大きく異なった内容となったが、結果は結果だ。目的は果たした。


「これで、お前たちの後顧の憂いはなくなったな」


 クアリの村が壊滅したことで、森へと調査へ赴く人間が増えることを危惧していたクェルだったが、最寄りの拠点であるケプランがもはや人のものでなくなった以上、当面の森への人の侵入はなくなったと思われた。


「ありがたいことですじゃ…」


 老ドルイドはしゃがれた声で言う。


「ヘイト様は、必ず成し遂げるお方ですから」


 なぜか自慢げに言うシルバは、今は左腕から離れている。


 あのあと、試行錯誤の上、彼女を腕から離すことに成功したのだ。


「…それで、あなた様はこれからどうなさるおつもりですじゃ?」


 クェルの言葉に、ヘイトは考えていたことを告げた。


「一度、塔に戻ろうかと思う」


 それを聞いたシルバとクェルは声こそ出さなかったものの、驚いているようだった。


「いろいろ、聞きたいことがあるからな」


 ヘイトはそう言うと踵を返し、クェルを残して森の中へと歩いていった。


 己の後姿に深々と礼をするクェルをその場に残して。



 クリスタルタワーの最上階に上がる途中、ヘイトは塔を守る魔物たちを労わった。


 どうやらケプランが魔物の手に落ちた話はすでにここまで伝わっているようで、皆、ヘイトの帰還に沸き立った。


「クザン、無事だったか」


 塔を去るときに力を授けた武者風の魔物は、ヘイトを見るや否やものすごい速度で跪いた。


「ああ、ヘイト様…。そのようなお姿になられて…」


 そのような、とは、左腕のことだろう。


「大丈夫だ。大したことはない」


「私ども、命を賭してこの塔をお守りして参りました。ですが、ヘイト様の身に何かあったらと思うと、とても…」


 クザンは泣き出しそうな勢いだ。


「心配するな。俺は無事だ。それよりも、ここの近況はどうだ? 人の数は減ったか?」


 クザンはなんとか平常を持ち直したようだ。


「はい、ヘイト様が出られてからというもの、人間の数は若干、減少しております」


「そうか…」


 近隣の町を襲ったのも、少しは効果があったということだろうか。


「ヘイト様は、もうご帰還なされたので?」


「いや、すこしフェガリ様に用があってな。済んだらまたすぐに発つつもりだ」


「そうですか…」


 心なしか、クザン肩が落ちたように見えた。


「また留守の間、頼まれてくれるか?」


 その問いに、クザンは語気を強めて答えた。


「はい! ヘイト様の命とあらば、このクザン、必ず成し遂げて見せます」


「すまない」


 頑なに顔を上げようとしないクザンの肩にヘイトは手を置くと、少しの力を分け与え、さらに上を目指した。


 最上階を訪れると、フェガリは玉座に座していた。まるでヘイトの到来を予期するかのように。


「今日は女性なのですね」


 最上階に上がり、フェガリと話すときに必ず最初に言う言葉だ。


「お前は、いつもと違って一人ではないようだな」


 フェガリの言う通り、ヘイトの足元にはシルバがいる。


「文字通り、俺の左腕ですので」


「それを言うなら右腕だ、ヘイト」


 フェガリは微笑を湛えた。


 相変わらず美しい…などという発言は、フェガリに言ってもお世辞にすらならないが、まさしくその通りだった。


「今日は何の用だ?」


 俺がここに来ることを知っての言葉だろう。


「死霊術師の言ったことについて、聞きに来ました」


「おおよその話はしたはずだ。忘れたわけではなかろう?」


「あなたのことについても」


 ヘイトは付け足した。


「なるほどな…」


 フェガリはサイドテーブルにあった盃を持ち上げ、ゆっくりと回して香りを愉しむ素振りを見せた。


 魔神がワインを愉しんでいる間、ヘイトは辛抱強く待った。


 やがて、フェガリは盃をテーブルに戻すと、口を開いた。


「遠い昔の話だ…。あれはまだ、私が人間だったころ…。人は魔物と共存する道を歩んでいた――」

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