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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第一章 最凶の魔物
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最凶の魔物2

 その頃、アンクランに死霊術をかけられた死人たちは、ヘイトの目前にまで迫っていた。


「な、なんでしょう、あの人間…。倒したはずなのに、また向かってきます…!」


 シルバは困惑した様子だったが、ヘイトは動揺していなかった。


「死者の体を利用した魔法だ。人間にも使える者がいたとはな…」


 死霊術に関しては、多少の知識があった。クリスタルタワーにも、似たような魔法を使う魔物がいたからだ。


 その魔物は、塔で死んだ人間の体に魔法をかけて使役していた。


「ああなってしまえば、魔物も同然だ。俺たちに牙を剥くことはない」


「ほ、ほんとうですか…? わたし、すっごく怖いですけど…」


 シルバは見た目の話をしているのだろうか。


 そういえば、彼女の顔はどこにいってしまったのか。目や鼻といった特徴が、左腕の彼女には見られない。


 ヘイトの言葉通り、死人の群衆はよろめきながら歩き続け、ヘイトたちの側を通過していった。


「ほんとだ…、よかった…」


 目で追うのも退屈なくらいノロい連中相手に、なぜ彼女は怖がっているのだろうか。


「それにしても、あの死人使いの男は見た目に反して頭は良くないみたいだな。この町を死人で乗っ取るつもりなら、話は別だが」


「そ、そうですね! これは、今がチャンスかもしれません!」


 気を取り直したシルバが意気込む。


 ヘイトは剣を構えなおした。


「ああ。聖剣を倒す」


 が、次の瞬間、予想だにしないことが起きた。


 聖剣が、死霊術師の首を刎ねたのだ。


「――え?」


 シルバが上ずった声を上げる。


 首のない胴体が音もなく崩れ落ち、直後に刎ね上がった頭が鈍い音を立てて地面に転がる。


 見ると、剣士の頬が濡れている。


「仲間割れでしょうか…」


 シルバは呟いた。


「そのようだな…」


 槍使いの女と弓使いの男も、呆気にとられた様子で剣士を見ている。


「こ、これは、ますますチャンスかもしれませんね…?」


 シルバの声に、ヘイトの口角は上がった。


「行こう」


 敵方に何があったのか知らないが、それはあちらの事情であって、考慮する必要など全くの皆無。


 むしろ、敵が一人減って感謝したいくらいだ。


 ヘイトは助走をつけて剣を振り上げた。


 未だに首を飛ばした直後の体勢のまま、動かないでいる剣士目掛けて、剣圧の刃が襲い掛かる。


 槍使いが何か叫んでいるが、剣士の耳には届いていないようだ。


 ヘイトは視線を槍使いに向けた。


「喚くな」


 剣を突き出すと、そこから溢れんばかりの黒い霧が垂れ込める。


 地面に落ちて広がった霧から現れた無数のエネルギー弾が、黒煙をたなびかせながら槍使いと弓使いの両名に放たれた。


 弾は精度こそよくないが、地面に着弾すると同時に小規模の爆発を起こし、二人のいた辺り一帯を破壊していく。


 再度、剣士を見ると、彼はまだ立っていた。


 なんとか凌ぎ切ったらしい。


「魔将軍、ヘイト殿!!」


 剣士は、死霊術師の血で汚れた聖剣の切っ先をこちらに向けて叫んだ。


「私は…、私はまだ、分からない。なぜこんなことが起こっているのか…。なぜ、大勢の血が流れなければならないのか…」


 彼は鬼のような形相になった。


「だが、これだけはわかる!! すべての元凶は、あなたにある…!!」


「…八つ当たりもいいとこだな。俺が戦う理由も知らずに、勝手なことを」


 その言葉が届いているのかいないのか、剣士は一歩ずつ加速しながら猛進してきた。


 ヘイトも剣を構える。


 もはや防御の方法を考える必要もない。


 無防備ともいえる体勢で、ヘイトは迫りくる剣士に斬りかかった。


 剣士の聖剣による一撃は、案の定シルバの体で防がれる。


 一方、ヘイトの邪剣は寸分たがわぬ精度で剣士の横っ腹を掻っ捌いた。


 声も出せぬほど痛烈なダメージを負った剣士は、腹部を半分ほど引き裂かれて地面に転がった。


 弾みで空中に放り出された聖剣が石畳を貫いて地面に突き刺さる。


「やった…!」


 シルバが喜びをにじませた声色で言う。


 剣士を葬ったことに大した達成感を得るはずもないヘイトは、残る二人のいる方角を見つめた。


 弓使いの男、そして槍使いの女は、双方ともこれ以上戦いを続けるつもりはないようで、静かにその場から立ち去った。


 それを見届けたヘイトは、次なる標的を探して町の中心部へと歩いていった。



「やられたか…」


 無残な死体を前に、呟く男がいた。


「ま、最初から予想はついてたんじゃない? アンクランが言うことなんか、信用できないってことよ」


 弓を持って傍らに立つ女。


 その背後には、さらに二人の人物が立っている。


「聖剣グラント…」


 男は地面に突き刺さった光り輝く剣の柄を握り、引き抜いた。


 高々と掲げると、それに呼応するかのように剣がきらめきを放つ。


「ようやく俺の手に…」


「クーパー、その剣、どうするの? もしかして、またエラーを起こすつもり?」


「いや、シェイディ。俺はあの男と同じ失敗は繰り返さない。俺は俺の手で、目的を果たして見せる」


 歪みのない鏡のような刀身に移ったクーパーの表情は、醜く歪んでいた。

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