死霊術師
閑散とした町の一角はいまや、血の飛び散った戦場と化していた。
そんな中で、セバスは一度倒したはずの敵と向かい合っていた。
驚異的な再生能力…。今さら、驚くようなことでもない。魔将軍ヘイトが相手ならば、常に予想外の事態が起きて当然なのだ。
――ただ。
さっき、魔将軍が放った光線には度肝を抜かれた。
鉄ですら焼き切ってしまうほどの威力。もろに食らえば、ひとたまりもない。現に、ガストフたちは一瞬でやられてしまった。
立ち止まったセバスは歯を食いしばる。
…これは、私が招いた事態だ。私の責任だ。今はもう兵士ですらないとはいえ、市民を守ることに肩書きは重要ではない。私はその責務を果たせなかった。
「今は、己の愚かさを悔いている場合ではありませんよ」
いつの間にか、隣にアンクランがいた。
「分かっています、ただ、どうしても彼らのことが――」
「お気持ちはよく分かります。あなたの正義感は人一倍強い。冒険者である私ですら(・・)、尊敬するほどです」
杖を構えるアンクランを横目で見る。
彼の表情は相変わらず微笑を湛え、視線は真っ直ぐ、魔将軍を見ている。
…冒険者である私ですら――。その言葉が指している意味は、なんとなく理解できる。自分のことを、『意思を持たない人間』だと言いたいのだ。
だが、私は違う。これまで自分がしてきた行動の理由をすべて説明できる。自ら選択し、生きてきたからだ。
「そうです、その目です…。やはりあなたを選んでよかった…」
気が付くと、アンクランの無表情ともいえるあの顔が、すぐ横にまで迫ってきていた。
「あなたなら、この不幸の連鎖を終わらせられます。なぜなら、あなたはもうただのNPCではない。致命的なエラーなのですから…」
「アンクラン殿…。私には、あなたの言葉が理解できない。私には知る由もない事柄を並べても、何を言っているか分からない。しかし、今は問いません。私たちには共通の目的がある。その点で、手を取り合えるのだと信じています。違いますか?」
「そうですね…。あなたが聖剣を手にした時点で、私もあなたと敵対しようだなんて思っていませんよ…。その証拠に――」
アンクランが杖を掲げる。
先端の髑髏の眼孔から黒い煙のようなものが垂れ込め、地面に落ちて広がっていく。
それはやがて引き寄せられるように、ガストフたちの死体へと伸びていった。
セバスは目を疑った。
男たちの亡骸を取り巻いた煙は彼らの口や鼻といった穴から体内へと侵入していったのだ。そして、煙を体内に取り込んだ者たちの体が、ゆっくりと動き出す。
「あなたは、いったい何を――?」
「簡単な話です。もはやただの肉塊である彼らに、利用価値を見出す…。それが私、死霊術師の本分です」
「死霊…術…?」
過去に、とある事件を追ったことがある。町の人々が何者かに襲撃され、殺されるという事件だ。
遺体に残った傷跡から、当初は人を食らう魔物の存在が疑われた。
しかし、町に魔物が侵入しているといった報告は警備隊からは挙がっていないし、第一、ケプラン近辺に生息する肉食性の魔物はそう多くない。町で人を襲っているとなれば、すぐに大騒ぎになるはずだった。
もう一つ、その事件には奇妙な点があった。
死体が消えるのだ。
事件が起きた現場から遺体を運び出し、火葬するまでの間に安置しておいた場所から、次々と遺体が消えていった。
遺体に残った歯や爪による傷跡と、遺体が消えるという噂は瞬く間に広まり、いつしか、死人がよみがえって人を食らっているという話が出てくるようになった。
結局、事件は死者7名を出したが二週間ほどで突然終結し、それ以降起こらなくなった。当然、人々の頭からも事件の話は消えていった。
もし、あのとき本当に死人がよみがえっていたのだとしたら、きっとこんな感じなのだろう。
それにしても、ぞっとする。
光線によって体を真っ二つにされた者でさえ、その上半身が腕の力で這いずっているのだ。
「さあ、行きなさい。あの魔将軍の動きを止めるのです!」
アンクランが杖で魔将軍の方を指し示すと、死人の群衆は唸り声を上げながらノロノロと歩みだした。
「あ、アンクラン殿…」
群衆の中に変わり果てたガストフの姿を見たセバスは、耐えがたい感情を覚えた。
「おやめください、アンクラン殿…」
「どうかしましたか、ケンウィックさん」
死者を平気で弄び、利用してもなお、平然としているアンクラン。
セバスは感じていた。
――彼は、正気ではない。
「亡くなった方をあんな姿にして戦わせるなど、人のできる所業ではありません」
「何を言っているのですか。彼らを燃やして埋めたとしても、価値はない。こうして魔将軍討伐のために一役買ってくれるのなら、大いに利用すべきでしょう」
「アンクラン殿…ッ!」
剣の柄を強く握りしめる。
出会って間もないながら、彼のことは少なからず信用していた。目的が同じであったし、理性的な面も好感を持てたからだ。
ただ、いくら手段を選んでいられないとはいえ、これは許せない。何より、自分の信条に反する。
セバスは、ある決心を固めた。




