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クリスタルタワーの魔将軍 ~最凶の魔物の復讐劇~  作者: 鹿竜天世
第一章 最凶の魔物
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最凶の魔物1

「シルバ、いけるか?」


 ヘイトの問いかけに、左腕のシルバは明るい声で答える。


「はい、もちろんです!」


 異様なほど、違和感がない。彼女はすんなりと、体の一部として馴染んでいる。


 ヘイトは落ちていた剣を右手で拾い、自分を倒そうと武器を手に向かってくる者たちに向き直った。


 シルバから供給された魔力のおかげで、体がとても軽い。今までの中で一番調子がいいみたいだ。


「行くか…」


 ヘイトはおもむろに一歩踏み出した。


 心なしか人間の数が増えた気がするが、聖剣持ちと弓使いにだけ注意しておけば、問題ないだろう。


 敵の布陣を確認する。


 先頭に弓使い。その少し後ろに槍を持った女がいる。そのさらに後方に杖を持った男――あれはアンクランか。そして右手方向の壁際に聖剣持ちの剣士。もっと奥から、――なんだ、あれは。


 斧やツルハシを持った…、民間人か?


 頭に疑問符が浮かんだヘイトだったが、武器を手に立ち向かってくるというのであれば、仕方がない。


 ――まずは。


 さっきよりも軽くなった体を確かめるように、ヘイトは高く空中へと跳んだ。


 その軌道上目掛けて、弓使いが矢を射かけてくる。


 剣で払いのける――はずだったのだが、予想外の出来事が起きた。


 目の前に、銀色の盾が広がったのだ。


「シルバ…?」


「え? え?」


 シルバも困惑しているようだった。


 どうやら、自分自身の防衛本能に従って展開されたらしい。


 それがヘイト由来のものなのか、それともシルバによるものなのかは定かではないが、身の危険を感じると、その脅威から守ろうと勝手に反応してしまうのかもしれない、と、ヘイトは仮定した。


「ありがとう」


 とりあえず礼を言ったヘイトは、弓使いの上空から剣を振り下ろした。


 剣がぶつかり、石で舗装された地面がひび割れて粉々に砕け、辺りに粉塵が立ち込める。


 弓使いはアンクランと同じくらいの距離にまで下がったようだ。


「スピードだけは、一流だな」


 ヘイトはターゲットを槍使いの女に変えると、その場で剣を振り上げた。


 風圧もさることながら、剣から放たれた魔力の塊がかまいたちよろしく槍使いに襲い掛かる。


「エメネさん!」


 叫ぶ声が聞こえたかと思うと、視界に銀色の何かがきらめいた。


 聖剣だ。


「大丈夫ですか?」


「いいから、前向きな!」


 二人のやり取りをよそに、ヘイトは次なる手を加える。


 急速に間合いを詰めて、一閃。


 金属が激しくぶつかり合う音がして、その一撃は聖剣持ちの剣士に食い止められる。


「俺の剣を受け止めるか」


「私が背負っているものを思えば、軽いもの…!」


 剣士はヘイトの大剣をはじき返すと、反撃に出た。


「はあっ!!」


 一度は魔将軍を討ち取ったという自信があるからか、その剣に迷いはない。


 縦に振り下ろされた彼の剣は、ヘイトにとって見切るという言葉がもったいないほど遅々としていたが、案の定、身を守る前に銀の盾が目の前に現れた。


「なに――ッ!」


 シルバの体はピンポイントで聖剣を捉えると、その攻撃を見事に防いだ。


 なるほど、便利な左腕だ。――いや、シルバが優秀というべきか。


 自分の体を動かさずとも、勝手に身を守ってくれるというのだから、これ以上に戦いを有利に進められる手はない。


 ヘイトは無防備ともいえる剣士の体を、蹴りで突き飛ばした。


「ぐあっ!」


 剣士が蹴り飛ばされて壁に激突する。


 100%の力で蹴られれば、ただでは済まないだろう。鎧を着ていないならなおさらだ。


 そこに、空を切る気配。


 矢だ。


 これはシルバの出る幕ですらない。体を逸らせれば容易に避けられる。


 だが、そうはいかなかった。


 シルバの体が躍り出て、黒いオーラをまとった矢を防ぐ。


「シルバ、今のは――」


「わ、私の意思とは関係ないんです!」


 彼女の慌てた声が返ってくる。


「いや、いいんだ。かわす手間が省けた」


 ヘイトは優しく言うと、次に向かってきた有象無象の集団を横目で見た。


「おらぁ、紫眼の巨人! 覚悟しやがれ!」


 先頭にいる、ひときわ大柄な男が威圧する。


 …そうだな。ここにきて、少し骨のある連中も現れてきた。今さら雑魚の相手をしても、イマイチ面白みに欠けるというものだ。


 ヘイトの目が、ひときわ赤く輝く。


 雄叫びを上げながら突っ込んでくる男たちに、ヘイトは光線を浴びせかけた。


 そうして、民衆は全滅した。


「ガストフ殿ぉぉぉぉ!!!」


 起き上がった剣士が叫ぶ。


「き、きさま、彼らをぉ…!!」


 剣を手に、凄まじい険相でこちらを睨む剣士。


 ヘイトは冷ややかな視線で返した。


「くそぉぉぉ!!」


 激高した剣士が聖剣を振りかざして襲い来る。


 蹴りの一撃によるダメージは確かにあるはずだが、ものともしていない勢いだ。


 剣士が走ってくる間、ヘイトは別のことを考えていた。


 夢の中で、フェガリが最後に言った言葉だ。


『聖剣グラント…。あのセバスとかいう青年が持っていた剣だ。あの一振りは、確かに強力だ。全ての壁を打ち払う力があると言われている。…だが、所詮、あの剣は三本ある影打ちの一つに過ぎない。つまり、聖剣グラントと名を持つ剣は他にある。そう、真打ちと呼ばれる、本来の力を有する一振りがな』


 その先を、ヘイトは復唱した。


「真打ちの所在は定かではないが、影打ちの内の一本ならどこにあるか知っている。聖剣グラントにも対抗しうる力を秘めた剣――その名も、邪剣ケラプディス」


 ヘイトは右手に持った剣の刀身を、左手で掴んだ。


『聖剣グラントをお前の剣で受け止めたとき、刃に亀裂が入ったはずだ。グラントがお前の剣に食い込んでな。それが引き金(トリガー)だ』


 刀身を掴んだ左手に力を込めて、右手で剣の柄を引く。


 すると、刀身に入った亀裂から紫色の光が漏れ出し、中から一本の剣が現れた。


 今まで刃だと思っていた部分は、実は鞘だったのだ。邪剣ケラプディスを封印しておくための。


 そこで、フェガリの言葉がまた思い起こされる。


『邪剣ケラプディスは、その恐ろしさ故に誰にも使われることがないように封印された。そして持ち主を変えて世界中を旅した挙句、私のもとに辿り着いた。…私は思う。この剣が日の目を見ることがあるのだとすればそれは、相反するもう一振り――聖剣と対峙したときなのであろうと』


 禍々しいほど、暗い光を放つ邪剣、ケラプディス。


 夜空を反射するほどの輝きを秘めた聖剣、グラント。


 対になる性質を有する剣を持った両者の視線がぶつかり合う。

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