倒れるは…
アンクラン…。あの男が話す内容は全く理解できなかった。
しかし、今がどんな状況かなら理解できる。俺に宣戦布告した剣士は、戦いを望んでいる。
ならば、望み通り…。
ヘイトは剣を振り上げた。間合いは少し遠いが、ヘイトの力なら風圧で人を飛ばすこともできるのだ。
案の定、剣士は構えを崩され、前のめりになった。
すかさず間合いを詰め、拳を腹にねじ込む。
剣士の血反吐が前腕の鎧にかかったが、そんなことは気にしない。
高々と拳を振り上げて、剣士を空中に放り出す。
空を切る音。黒い矢が猛スピードで飛んでくる。
体をわずかに逸らして矢の軌道上から外れ、そのまま身をかがめて弓使いに突進する。
続けざまに射かけられる矢を剣で弾き返し、横一閃。
…外したか。
後方宙返りで剣をかわした弓使いが空中でさらに矢を射かけてくる。
ヘイトは右手に魔力を集めた。
矢が放たれたのを確認して、エネルギー弾を二発発射する。
不規則な弾道を描きながら黒煙を上げて飛ぶ弾は、一発が矢に命中して爆ぜ、もう一発は弓使い目掛けて飛んでいった。
――命中。
すかさず次弾の準備をする。
――ッ!?
背後にただならぬ気配を感じたヘイトは肩越しに振り返った。
目に入ったのは、白銀の剣をきらめかせて突っ込んでくる剣士の姿。
集めかけた魔力を放出し、剣を地面に突き立てて剣士の一撃を受け止める。
ガキンッと甲高い金属音がして剣と剣がぶつかり合う。
…なんだ、この光る剣は。俺の剣に食い込んだ…?
刃とも呼べないような丸みを帯びた剣の淵に、白銀の剣は深い割れ目を作った。
どうやら、ただの代物ではないらしい。
そこでまた、空を切る音。
…さすがに避けきれないか。
二人の連携が取れているわけではない。実力で言えば、彼らよりも上の相手とも数多く戦ってきた。それなのに、なぜこうも劣勢なのか。
一瞬、脳裏によぎった疑問。
それが相手に隙を与えてしまった。
「ぐはっ…!」
矢は正確にヘイトの左胸を穿ち、白銀の剣はヘイトが剣を持つ左腕を根元から寸断した。
音を立てて落ちる剣と、膝をついて崩れるヘイト。
「ヘイト様ッ!」
――シルバ。
彼女はすでに目の前に来ていた。目に涙を溜めて、両手で顔を包んでくる。
「どうやら、勝負あったようですね…」
戦いには参加しなかったアンクランが真っ先に声を発した。
「フフフ…。やはり私の読みは間違っていなかった。エラーはエラーでしか対処できない。ようやくそれを証明することができました」
得意気に語るアンクラン。
「まだです、アンクラン殿。まだ勝負は決していない…!」
剣士が、剣で自身の体を支えながら言う。立っているのがやっとのようだ。
「そうだ…。止めを刺してこそ、本当の終わりだ」
弓使いは余裕そうだが、距離を詰めようとはしてこない。警戒しているのだろうか。
視界の端に、さっきまで自分の一部として動いていたはずの左腕が見える。主を失い、ピクリとも動かない。
「シルバ…、俺は、負けたのか…?」
痛みは感じない。ただ、力が抜けていく感覚があるだけだ。
寒くもないし、傷口が熱いということもない。
「そんな…、そんなことありません…。わたしが、わたしがそんなこと許しません…」
シルバの目は、涙を溜めきれなくなっていた。銀色の雫がポロポロと頬を伝っていく。
周りで人間が何やら騒いでいるが、もう、どうでもいい。
ここで死ぬなら、俺はその程度だったというだけのこと。
――ああ、みんな…。俺は、何も成し得なかった…。すまない…。本当に…。
意識が遠のいていく。
体が……、倒れる………。




